HIROSHI(FIVE NEW OLD) Rin音|2組の日常が交差する「Summertime」

FIVE NEW OLDが新作音源「Summertime EP」を7月28日に配信リリースした。

「Summertime」はコーセーコスメポート「サンカット®プロディフェンス」のCMソングとして書き下ろされた楽曲で、今年4月に発売されたFIVE NEW OLDの最新アルバム「MUSIC WARDROBE」の収録曲。「Summertime EP」にはこの曲に加え、Rin音をゲストに迎えた「Summertime(feat. Rin音)」、DATSのMONJOE(Vo, Syn)がリミックスを手がけた「Summertime - MONJOE Remix」、チルアウトムード漂う「Summertime – Tie-Dye Chill Mix」の計4曲が収録されている。

音楽ナタリーでは、FIVE NEW OLDのHIROSHI(Vo, G)とRin音の対談を実施。「Summertime(feat. Rin音)」の制作エピソードを中心に、お互いの音楽観や制作スタイルについて語り合ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 斎藤大嗣

LINKIN PARKとジェイ・Z

──FIVE NEW OLDとRin音さんはいつ頃から交流が始まったんですか?

HIROSHI(FIVE NEW OLD)

HIROSHI(FIVE NEW OLD) 今ですね(笑)。

Rin音 そうです(笑)。

HIROSHI 今日初めてお会いしたんですよ。

──え、そうなんですか? ということは、面識がない状態でRin音さんにオファーしたと。

HIROSHI はい。「Summertime」は4月に出したアルバムに入っていたのですが、タイトル通り夏の曲だし、「暑い時期に改めて聴いてほしいね」ということから、「Summertime EP」を作ることになったんです。オリジナルはロックバンド然としたアレンジなので、原曲とは違ったことがやりたくて。いろいろ話している中で、ロックとヒップホップをかけ合わせてみようというアイデアが出てきたんです。イメージとしては、Linkin Parkとジェイ・Zのコラボアルバム(2004年12月発売の「Collision Course」)とか、もっと前のRun-D.M.C.とAerosmithの曲(「WALK THIS WAY」)とか。その第1候補として挙がったのが、Rin音くんの名前だったんです。

Rin音 ありがとうございます。

HIROSHI まったく交流がなかったのに、ダメ元でオファーしてみたら、すぐに受けてくれて。だからどうして受けてくれたのかも聞きたかったんですよ(笑)。

Rin音 FIVE NEW OLDさんの曲は以前から聴いてたんですよ。いろんなジャンルの音楽をガーッと聴いているんですけど、FIVE NEW OLDさんともその中で巡り合って。マネージャーさんから「オファーが来てるけど、どうする?」と聞かれたときも、すぐ「やりたいです」と答えました。

HIROSHI そうだったんですね! うれしいです。

Rin音 ちょっと前にDeep Sea Diving Clubの「フラッシュバック'82」という曲に参加して。バンドの方と一緒にやるのは2度目ですね。

──なるほど。ちなみにLinkin Parkとジェイ・Zのコラボアルバムは聴いてました?

Rin音 いや、知らなかったです。海外のヒップホップにはあまり触れてこなかったんですよ。むしろ日本のヒップホップのほうが好きで。

HIROSHI RIP SLYMEとかを聴いてたんですよね?

Rin音 そうです。今回の「Summertime」のリリックに「話はあの夏の頭に戻る」というフレーズがあるんですけど、それは「黄昏サラウンド」(RIP SLYMEが2004年10月に発売したシングル表題曲)の「話はこのVerseの頭に戻る」をサンプリングしていて。

HIROSHI うちのレーベルのボスは以前、RIP SLYMEの担当だったんですよ。今の話を聞いたらめっちゃ喜ぶだろうな(笑)。

──さっそくつながりましたね(笑)。

HIROSHI そうですね(笑)。Rin音くんの楽曲は、リリックや音楽性を含め、日常に寄り添っている感じがあって。FIVE NEW OLDも「ONE MORE DRIP」(日常にアロマオイルのような彩りを)をバンドのコンセプトにしてるので、親和性もあるんじゃないかなと。

浮いていた2組

──確かにRin音さんの楽曲は日常を描いたものが多い印象がありますね。そういう傾向は、オリジナル曲を作り始めた頃からあったんですか?

Rin音 ありましたね。地元は福岡なんですけど、3、4年前にラップを始めた頃は、ブーンバップが主流だったんです。「ゴリゴリの重たいトラックで、ドラッギーでドープなラップをする」みたいな感じが流行ってたんですけど、僕とかクボタカイはライブでも日常的なことを歌ってて。最初は浮いてたんですけど、徐々に受け入れてもらえるようになりました。もちろんヒップホップも好きですけど、もっと広く、音楽が好きという感じなので。

──FIVE NEW OLDもロックを基盤にしつつ、いろんなテイストが混ざっているので、そこも共通点なのかも。

Rin音 FIVE NEW OLDさんは最初はどんな感じで始まったんですか?

HIROSHI もともとはラウドロック系のバンドと対バンすることが多くて、モッシュやダイブが起きるようなライブをするアーティストたちとやってたんですよ。でも、僕らはポップパンク寄りだったので、Rin音くんと同じようにちょっと浮いてる感じもあって(笑)。そのあとKai Takahashi(LUCKY TAPES)くんと一緒に曲を作ったら、シティポップのバンドと思われることもあって。ラウド系のシーンではポップ寄りに見られて、シティポップが好きな人には「パンクバンドでしょ」と思われて……そのうち「どっちでもいいや」って(笑)。

──(笑)。ヒップホップも聴いてました?

HIROSHI はい。ヒップホップは、15才くらいのときにエミネムの「8 Mile」のサントラがきっかけで。「『Lose Yourself』、めちゃくちゃカッコいい!」みたいな(笑)。あと、ミクスチャーロックも流行ってたんですよね。Linkin ParkとかLimp Bizkitとか。そこから遡ってBeastie Boysも聴いたり、ロックとヒップホップが混ざった音楽にはずっと触れてたんですよ。そういう意味では、境目なく音楽を聴いてたのかなと。

──Rin音さんのルーツはやはり日本のヒップホップですか?

Rin音 そうですね。お父さんの影響でRIP SLYMEさんやKREVAさんの曲を聴いてて。あとはBUMP OF CHICKENさんとか。でも、そこまで詳しくないんですよ、音楽は。今も音楽を聴くより、ゲームしてる時間のほうが長いし(笑)。

HIROSHI 仲よくなれそう(笑)。最近はどんなゲームやってる?

Rin音 ちょっと前まで「APEX LEGENDS」をやってましたね。

HIROSHI あ、俺もやってた(笑)。

Rin音 その後「モンスターハンターライズ」をやって、今は「スマブラ」(「大乱闘スマッシュブラザーズ」)に戻りました。昨日もリハのあと、夜中の2時くらいまでずっとやってて。やればやるほどうまくなるのが面白いんですよ。漠然としたことではなくて、「相手の防御がこうなったら、こう返す」みたいなことがわかってくるというか。

HIROSHI 結果が見えるからね。

Rin音 そうなんですよね。MCバトルもそうですけど、勝ち負けがはっきりしてるのがいいのかなと。

音楽との距離感

──Rin音さんと交流があるクボタカイさん、空音さんもそうですけど、音楽がすべてではないというイメージもあって。いろんなものに興味があって、その中から音楽を選んでいるというか。

HIROSHI 音楽との距離感って、どんな感じなんですか?

Rin音 曲を作るのが好きなんですよね。フリースタイルから入って、「曲を作らないとディスされる」みたいな安易な理由で制作を始めたんですけど、やってみたら楽しくて。学生の頃は、勉強の合間の息抜きみたいな感覚でしたね。テスト勉強してて、ちょっと疲れたら「曲でも作ろうかな」って(笑)。

HIROSHI リフレッシュだ(笑)。

Rin音 そうなんです。リリックにしても、最初は「いいことを言わないと」とか「考えて作らないと」と思ってたんですけど、途中からそれをやめて、「とりあえず形にしよう」という考え方になりました。言い方が悪いかもしれないけど、適当というか、ノリでもいいから、まずは完成させようと。

HIROSHI その気持ちはよくわかります。僕もRin音くんと同じで、モノを作ること、0から1を生み出すのが好きで。子供の頃はゲームを作る人になりたかったんだけど、たまたま向いてたのが音楽だったという感じなんです。バンドの場合はチームプレイというか、運命共同体みたいなところもあるし、「みんなのためにも成功させたい」という気持ちもありますね。1曲にかける思いも強くなりすぎて、音楽との距離がうまく取れなくなったり。そうすると、あまりいい曲にならないんですよ。細部にこだわりすぎて、「まず完成させよう」という意識を忘れちゃったり。

──まずは形にして、俯瞰することは大事ですよね。

Rin音

Rin音 そうですね。気に入らなければ、あとからやり直せばいいので。

HIROSHI うん。村上春樹さんが「職業としての小説家」という本で、「とりあえず楽しいという気持ちで書いて、粗はあとから探せばいい」みたいなことを書いていて。ビリー・アイリッシュも同じようなことを言ってるんですよ。曲を作って、もし気に入らなかったとしても、ほかの誰かは「いい」と言うかもしれない。それは自分のセンスや才能を知る機会になるから、とりあえず出したほうがいいって。あと、エド・シーランも……。

Rin音 すごい(笑)。

HIROSHI エド・シーランのドキュメンタリー映画(「Songwriter」)で、母校の学生に教える場面があって。「最初からいい曲を書けたんですか?」という質問に対して、エドは「最初は全然ダメだった」と答えて、曲作りを水道の水に例えるんです。最初は錆や泥が混じってるけど、そのうちに余計なものが出尽くして、透き通った水になる。とにかく書き続けることが大事だって。Rin音くんはまさにそれを実践しているんだと思います。

Rin音 わ、ありがとうございます。

HIROSHI 実際、Rin音くんのリリースのペース、やばくないですか?

Rin音 いろんな人と作ってますからね。コラボレーションは毎回いろんな意味でタメになるんですよ。リリックもそうだし、トラックからも「こういう感じも好きだな」と気付くことができたり。助かってます(笑)。実はバンドへの憧れもあるんですけどね。バンドのライブは迫力があるし、カッコいいなとうらやましくなることもあるので。

HIROSHI チームで動くのって手間がかかるし、めんどくさいけどね(笑)。ライブにしても、20%くらいしか力を出せないこともあれば、200%発揮できることもあったり。まったく安定しないけど、そのすべてが思い出だし、財産になってるとは思います。Rin音くんはどうやってトラックメイカーを探してるんですか?

Rin音 直接会える場合は、「お願いします! やってください!」とその場で言います。地元のイベントで紹介してもらうこともけっこうありますね。他県の人の場合は、TwitterのDMで連絡を取ったり。トラックメイカーの方はたくさんいるし、1人ひとりタイプが違うんですよ。誰かのマネをして作ったとしても、まったく同じにはならないし、人によってテイストがあって。それも刺激になるんですよね。