ナタリー PowerPush - FAT PROP

新しい挑戦を詰め込んだ勝負作 2ndフルアルバム「Brand New World」

2002年に鹿児島で結成。キャリアとしてはまもなく10周年を迎えるFAT PROPだが、ここまでの道のりは紆余曲折があったようで、近年だけを見てもメンバーチェンジや、メジャーからインディーズレーベルへの電撃移籍など、トピックは尽きない。

2ndフルアルバムの「Brand New World」はそんな彼らの新たな覚悟、決意が感じられる作品だ。持ち味のエモーショナルでキャッチーなメロディを軸にした自由奔放なサウンドは、まさに痛快そのもの。バンド史上初となるオリジナル曲での日本語詞にトライしている点にも注目したい。先に挙げたようなこのところの状況を含め、メンバー4人にたっぷりと話を訊いた。

取材・文 / 田山雄士

強い奴らと試合をしたほうがより成長できる

──FAT PROPは鹿児島出身のバンドですが、今はメンバー全員が東京在住なんですか?

Shintaro(G) そうです。今年の7月頭に出てきたばかり。だから、まだ全然東京に慣れてないんですよね(笑)。

Nagiken(B) だよね。こっちに来て、すぐにツアーを回ってたしね。

──そんなに最近のことだったんですね。上京した理由というのは?

ライブ写真

Nagiken 東京でライブをしたりツアーをたくさん回ったりする上で、鹿児島にいるとやっぱり不便だったんですよね。もちろん普通に住むにはいいところだし、故郷として大好きな土地なんだけど、ツアーに1回出ると3カ月くらい出ずっぱりになっちゃうんです。だからツアー中に自分たちのライブを見直すこともなかなかできない。4人で車に乗って移動して、3日間ライブやって1日オフして、なんてスケジュールだと、ものすごくツアーにのまれちゃうというか。それに、せっかく東京のイベントに呼んでもらえても、めちゃくちゃ行きにくくて……。車で片道16時間もかかりますからね(笑)。

──なかなか厳しいですよね。反芻する時間が欲しくなってきたと。

Shintaro はい。より良いツアーを考えると、このまま鹿児島にいたらできないことも多いんじゃないかって。単純に地元が好きで今までやってきたんですけど、バンドを高めたいという意識との葛藤が生まれてきて。結局、何がやりたいかって言ったら、バンドなんですよ。

Nagiken 音楽の情報なんかも地元はどうしても遅いですね。東京で活動してるバンドの話を聞いてると、明らかに上京したほうがいいと思いました。

Shintaro 部活とかで例えるなら、強い奴らと練習や試合をしたほうがより成長できるじゃないですか。シビアな環境に身を置けば意識も変わってくるし。背水の陣じゃないけど、テキトーな感じで上京するわけじゃないから。

Nagiken バンドの絶対数で言っても、鹿児島の10に対して東京には1000はいる。多分、そのくらいの差はあるんですよ。1000の中の選りすぐりの人たちがツアーとかで鹿児島に来ていっしょにライブをやると、やっぱり意識の差があるし。機材も全然知らないものを使ってたり、PAさんとのコミュニケーションの取り方も違ったりしますからね。

Shintaro 東京に行くと決めてからは早かったですよ。きっかけが必要なだけだったのかもしれないですね。

音楽に対する僕らの姿勢が完全に甘かった

──少し前の話になりますが、FAT PROPは2008年にエイベックスからメジャーデビューして、のちの2010年にCAFFEINE BOMB RECORDSに電撃移籍されていますよね。この移籍にはどういう経緯があったんですか?

Nagiken 単純にCDが売れなくて、エイベックスをクビになったんです。それ以上でも以下でもない(笑)。会社はお金をかけてくれて、スタッフもたくさんいたのに、音楽に対する僕らの姿勢が完全に甘かった。音楽で食っていこうっていう考え自体がボヤボヤで、それなのになんとなく給料も入ってくるみたいな状況で。

──当時の作品を聴いていても、なかなかわからないところですけどね。

ライブ写真

Shintaro メジャーの最初に出した「CHANGE THE FUTURE」には、実は昔の曲がかなり入ってるんです。作る予定だった曲が2曲分間に合わなくて。すごくナメたバンドでしたよ。多分メジャーになったときに、もうゴールしたような感覚に陥っちゃったんでしょうね。僕は当時サポートメンバーだったんですけど、バンドはクソ甘でした。「こんなんでやっていけるの?」って思ってた。曲も作らないし、練習だって誰もしてる気配がなかったから、そうなったときは「やっぱりね」っていう感じでした。切られたことに対しては納得してるんですよ。

Rinda(Vo) むしろ、ゴメンなさいっていう気持ちです。クビになってからは全然CDを出す兆しもなく、自分たちでツアーを組んで遠征してみたりしてました。

Ema(Dr) 僕はそのとき別のバンドをやってて、まだメンバーじゃなかったんですよ。FAT PROPとは当時から仲が良くて、対バンもしてました。僕が入ったのは、もうそんなヤバい状況を越えて這い上がるモードのとき。だから暗黒時代は見てなくて(笑)。

──なるほど。結果的に、2年くらいはCDがリリースできなかったわけですよね?

Nagiken はい。でも、ライブはコンスタントにやってたんです。そんなときに今のCAFFEINE BOMBの社長が「やってくれるところないんだったら、俺やるよ」って、酒の席で完全に酔っぱらってるときに言ってくれて(笑)。

──その手の話って、往々にしてそういうものですよね(笑)。

Rinda そうそうそう(笑)。

Nagiken で、飲み会が終わって、日を改めて電話したんです。「忘れたっていうのはナシにしましょうね」って(笑)。そんなこんなで、めでたくリリースが決まりました。

2ndアルバム「Brand New World」 / 2011年9月21日発売 / 2415円(税込) / CAFFEINE BOMB RECORDS / Fried Rice Inc. / JAPAN MUSIC SYSTEM / CBR-32

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CD収録曲
  1. Drive
  2. Stop The Time
  3. Shade
  4. CAN'T STOP THE MUSIC
  5. Feelin'Pop
  6. Brand New Morning
  7. I Don't Care About You
  8. Well,Well,Well
  9. Reach
  10. Hi
  11. Dream Continue
  12. Hello
FAT PROP(ふぁっとぷろっぷ)

Nagiken(B)、Ema(Dr)、Rinda(Vo)、Shintaro(G)の4人からなるロックバンド。2002年に鹿児島で結成され、2008年にメジャー1stミニアルバム「CHANGE THE FUTURE」をリリース。その後メンバーチェンジを経て、現在の編成となる。2010年にCAFFEINE BOMB RECORDSヘ移籍し、約2年ぶりの新作アルバム「THE DIE IS CAST」を発表。今作は「第3回CDショップ大賞」入賞作に選出され、高い注目を集めた。2011年には活動拠点を東京に移し、同年9月に2ndフルアルバム「Brand New World」をリリース。タフなライブとエモーショナルなサウンドでライブハウスシーンを中心に人気を獲得している。