ティーンエイジャーでないからこそ歌えるものを
──「アオのハコ」のエンディングテーマ「ティーンエイジブルー」や「小市民シリーズ」のオープニングテーマ「スイートメモリー」は、同じ“青”でも青春の“青”、思春期の“青”がイメージされます。これはアニメ主題歌というタイアップのオファーありきで書かれた曲だと思うんですが、青春というモチーフでさわやかな思春期の曲を作るにあたって、どんなアプローチをしましたか?
この2曲はもちろんアニメ主題歌として書き下ろした曲でもあるので、それぞれの作品から影響を受けています。「ティーンエイジブルー」に関しては、自分はもうティーンエイジャーではないので、大人になった今だからこそ感じ得るものを作りたかった。だけど大事なのは、年齢に関係なく今、無我夢中になること……物事に打ち込む際にあふれ出る熱みたいなものを制作時に自分自身が感じていました。そういう青さを、聴いてくれるいろんな世代の人たちに感じてもらえたらうれしいですね。結果として、まさに青春の青をモチーフとした曲を作れたというのは、タイミング的にもよかったんじゃないかなと思っています。こういう明るくてさわやかで思春期の熱量を感じる曲は、もしかしたら「アオのハコ」の主題歌を書くという機会をいただかなければ、書けなかったんじゃないかなと思うんですよね。どうしても自分1人じゃたどり着けない感じがするというか。だから僕にとってタイアップは、自分1人では到達できない新たな境地まで引っ張ってもらえるような成長の機会だとも思っています。大人になってからも10代をテーマにした曲を書けたのは、すごくうれしかったですね。
──Eveさんの曲の作り方って、楽曲単体でももちろん成立してるんだけれども、先ほどおっしゃったように、MVやビジュアル的なものと脳内のイメージをコラボレーションしながら作っていくようなところがあると思うんです。だとすると、単にタイアップというよりも、その作品の持つ色彩感を曲のエネルギーとして与えてもらったような感覚がある。そういう感じなのかなと思いました。
そうですね。だから、MVも自分にとってはタイアップのような存在に近いのかもしれないですね。外から刺激を受けるものでもあるので。だからこそ、そういう外的な要因がない曲をたまに書いてみると、それはそれですごく面白かったり、自分のこういうところが変わった、こういうところが変わってないなと気付けたりもする。そこの2軸を行ったり来たり反復横跳びみたいにするのが大事だなと、活動していて思います。
夜中の散歩や運転中に聴ける曲を
──“青”には深夜から夜明け前の空のイメージもあるように思います。収録曲では「Byme」や「Midnight Runway」「夢に逢えたら」が夜の光景を描いた曲ですね。
すでにリリースしてきた曲の多くは、アルバムの中でリード曲的な、野球で言うところの4番打者のような存在だったんですね。野球って4番バッターだけいてもしょうがないというか、1番も3番も8番もちゃんといて成立するものだなとも思うし、そういう意味でも、今回のアルバムには肩の力を抜いてふわっと聴けるような音楽が欲しくて、「Midnight Runway」を作りました。ふとしたときに夜中に散歩に出かけたり、気分転換で車を運転してどこかに行ったりもするんですけれど、そのときの気分がどこか表れているようにも思います。「夢に逢えたら」はアルバムのラストに置きましたけど、「さよならエンドロール」で終わっても本当はよかったんです。けれど、このアルバムを聴く人にとって、誰しもの心の奥底にある“青”に寄り添うための歌を最後に入れられれば、この「Under Blue」というアルバムタイトルにも説得力を持たせ、本当の意味で“アルバム”として完成するような気がしました。「Under Blue」という作品は、聴いてくれる人にとっての祈りであり、お守りのようなものになってくれればという思いで作ったので。
──「Midnight Runway」も「夢に逢えたら」も親密さがありますよね。自分が主人公になっているというよりは、誰かのためにあるような曲というか。
そうですね。“聴いてくれる人に向けての曲”という感覚になるのかもしれない。作っているときにはそうは思って書いてはないんですけどね。無意識のうちに、自分のことを掘り下げていくか、聴いてくれる“あなた”へ向けた曲になるところはありますね。
Eveが思うヒーローは
──アルバムの収録曲について、いくつかキーワードを立てて伺います。まずは「ヒーロー」。「ファイトソング」「インソムニア」「ぼくらの」など、このアルバムにはヒーローをテーマにした曲が多いと思うんです。もちろんこれは「僕のヒーローアカデミア」や「チェンソーマン」「マイホームヒーロー」という、まさにヒーローをテーマにした作品のテーマ曲ということもあると思いますが、改めてEveさんにとってのヒーロー像というのは、ヴィランも含めて、どういうイメージがありますか?
自分の中のヒーロー像はやっぱり、正義の軸がちゃんとあって、それを貫き通せることかなと思うんですね。それはダークヒーローにも当てはまります。悪の敵であっても、その人にとっての正義を貫き通すというか、それっていわば、自分を信じるということにもつながる。自分の中にブレない正義がある人は、たとえヴィランだとしてもカッコいいですよね。ただ、今おっしゃっていただいた楽曲だと、異なる作品のタイアップなので、楽曲に登場するヒーローのキャラクターももちろん違って。例えば「ヒロアカ」に書いた「ぼくらの」で描いたヒーローは、歌詞にもある“余計なお世話”をしちゃうような身近な存在なんです。ボロボロになったヒーローたちを鼓舞するように、ともに乗り越えていこうという思いで制作しました。
──もしタイアップの話がなかったとしても、自分なりのヒーロー像を曲に描いていたと思いますか?
確かに今思うと、作品を通していろんなヒーローを書いてるなと気付きました。そう考えると、タイアップがなくても自分にとってのヒーロー像を描いていたんじゃないかなと思いますね。
──キーワードとしては「冒険」もあると思います。「冒険録」を筆頭に、アルバムにはファンタジーや異世界をテーマにした曲も多いですね。
そうですね。「冒険録」を書いている時期に、ちょうど月や太陽のことを調べていて。太陽から出た光は8分後に地球に到着するらしく、今、この目で見ている星の光は何十年、何億年以上前のものだということを知りました。そうやって過去から未来に向かってメッセージを発信してくれている星のように、僕が生み出す楽曲もどこか運命に導かれているような感じもするというか。「冒険録」もまた、いつかどこかの誰かに届けばいいなという思いで作りました。
──「ギャツビー メタラバーシリーズ」のタイアップソング「虎狼来」、ブルボン「アルフォート」のCMソング「花嵐」についても聞かせてください。いずれもタイアップの曲ではあるんですが、ツアーやワンマンライブのタイトルにもなっています(「Eve Arena Tour 2023『虎狼来』」「Eve Live 2023『花嵐』」)。つまりこれはEveさんの活動の中でのターニングポイント的な意味合いもあったのではないかと思うんですが、実際はいかがでしょうか。
「虎狼来」に関しては「難しく考えずに軽やかにいきたい」という気持ちが作った当時はあったと思います。コロナ禍でライブも全然できなかったし、僕も含めてみんなどこか目標を失って“迷子”になってるような感覚というか、「これからどうしていったらいいんだろう」という不安があって。「みんな迷子だけど軽やかに進んで行こうぜ」という思いを書きたかったんだと思います(参照:Eveツアーファイナルにヨルシカsuisがサプライズ出演、「運命を感じた曲」でコラボ披露)。「花嵐」のライブは、さいたまスーパーアリーナというすごく大きな会場でやらせてもらえることが決まっていたので(参照:「音楽は僕の救い」Eve、アーティストとしての矜持を見せた「花嵐」)、みんなと祝祭ができるような曲を作りたかった。「これまでの感謝を伝え、これからもよろしく」というファンの方々への思いも込めたかったんです。
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「花嵐」のアンサーソング