eill|すべてをさらけ出しながら 聴き手に寄り添う新曲「花のように」

シンガーソングライターのeillがメジャー3rdシングル「花のように」を8月11日に配信リリースした。

今年4月のメジャーデビュー以降、「ここで息をして」「hikari」「花のように」と2カ月ごとに新曲をリリースしてきたeill。さらに9月には映画「先生、私の隣に座っていただけませんか?」(9月10日公開予定)の主題歌に採用された竹内まりや「プラスティック・ラブ」のカバー音源の配信も控えている。コンスタントにリリースを重ね、注目度も上昇しているeillに音楽ナタリーは2度目のインタビューを実施。メジャーでの活動で得た現状での手応えや、「hikari」と「花のように」の制作エピソードを聞きつつ、「プラスティック・ラブ」の話題もいち早くお届けする。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / Susie

日本語の美しさを大事にしたい

──今年4月のメジャー1st配信シングル「ここで息をして」から約4カ月が経ちました。精力的な活動を続けられていますが、その手応えはいかがですか?

「ここで息をして」はテレビアニメ(「東京リベンジャーズ」)のエンディング主題歌だったこともあって、たくさんの方に聴いていただけている実感はあります。アニメの効果で海外のファンの方も増えたので、いろんな国の言葉で「すごくいい曲です」って言ってもらえるのがうれしいですね。

──活動をするうえで海外を視野に入れているところもあるんですか?

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そうですね。私はビヨンセとかアリアナ・グランデのようなディーバに憧れを抱いてきたので、そういった人たちと同じステージで歌うことを目標にしているところはあって。その思いは歌い始めた当初からずっと変わらないものではあります。とは言え、私は日本語を使ってずっと生きてきているので、日本語の美しさを大事にした曲作りをしていきたいんです。それを海外の人たちにも聴いてもらえたら最高だなって思います。

──メジャーデビュー以降の楽曲はこれまで以上にeillさんの歌の魅力が際立ったものが多い印象もあって。そこは意識的なものなんですかね?

確かにそれはありますね。インディーズ時代は四つ打ちのキックとか、ビート感をすごく大事にしたサウンドメイクをしていたんですよ。でも最近はまず一番に歌が聴こえてくるようにっていうことをすごく意識するようになって。ミックスでもそこはこだわっているところです。

自分に光を与えるのは自分自身

──6月からはワンマンツアー「eill Live Tour 2021『ここで息をして』」が開催されました。ひさしぶりのツアーはいかがでしたか?

ツアーは約2年ぶりだったんですよ。今回は会場のキャパも大きくなったし、お客さんの層もより自分に近い年齢の方が増えた印象があって。その光景を見たときに、「ああ、自分の音楽がちゃんと広がっているんだな」ってすごく感動しました。最近はファンレターをいただくことも増えたので、ちゃんといろんな人に寄り添えていることが実感できてうれしいです。

──SNSのコメントだけではなく、手紙も届くんですか?

そうなんです。手書きの手紙で。みんなすっごい字がキレイなんですよ! どうしたらこんな字が書けるんだろうってくらい、めっちゃキレイ(笑)。よく見ると何回も下書きしてくれた跡があったりもして、毎回「あー愛おしい!」って思いながら読んでますね。

──自分と同世代の人や、もっと若い世代の人に支持されることはやはりうれしいことですか?

もちろんです! 中学・高校くらいの時期って、将来のことで悩んだり、自分の価値についてものすごく考えると思うんですよ。そんなときに自分のことを肯定してくれるのが音楽だと思っていて。私自身、ビヨンセをはじめとするさまざまなアーティストの音楽に自分を肯定してもらったことで、音楽を始めたいと思えるようになりましたからね。だからこそ、私は聴いてくれる人にパワーを与えられる存在になりたいと思いながらずっと歌っているんです。

──その思いは老若男女すべての人に向けた思いでもありますよね。

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そうですね。いろんな人の心の救いになればいいなっていう思いは、活動を続けていく中で、より意識するようになりました。セールスやストリーミングの再生数も大事ではあるけど、私はやっぱり聴いてくれる方、1人ひとりの心に寄り添うことが何より大事だという思いが強いです。

──1人ひとりに寄り添うためには、何を大事にすればいいと考えていますか?

自分の視点をしっかり持って曲を書くことが大事なのかなと思ってます。私はけっこう自分に自信がないタイプなので、悩んでるときは部屋の隅でちっちゃくなって泣いたりしちゃうんです(笑)。でも、そういう自分がいるからこそ歌う意味があるんじゃないかなってすごく思う。つらいことから逃げないで、そこにちゃんと向き合ったうえで音楽を作ることが、結果的に聴いてくれる方に寄り添うことにもなるんじゃないかなって、今はそう思っています。

──迷いや悩みさえも曲として吐露してくれるからこそ、eillさんの曲は聴き手にとっての光になり得るってことなんでしょうね。

そうであったらいいなって思います。ただその一方で、自分に光を与えるのは自分自身でもあると思っているところもあるんです。その思いを「hikari」という曲で表現できたのは自分としてもすごく意味のあることで。大事な曲になりました。

光を探し出すきっかけに

──6月にリリースされたメジャー2nd配信シングル「hikari」は、放送中のフジテレビ系月9ドラマ「ナイト・ドクター」の劇中で流れる“オリジナルナンバー”として書き下ろされたものですね。

はい。医療をテーマにしたドラマなので、患者さんたちにとっての光となる存在としてお医者さんたちの姿が描かれているんです。でも同時に、お医者さん1人ひとりもまた自分にとっての光を探し続けているように私は感じて。なので主人公となる5人のお医者さんたちが自分にとっての光を探し出せるきっかけになればという思いで歌詞を書きました。

──ソングライティングはどんなイメージで進めたんですか?

ドラマサイドからのオーダーを受け取りつつも、どうすれば自分らしい曲にできるかなっていうところで悩みながら作っていきました。今回は1つの挑戦として、いろんなサンプル音源が手に入るSplice Soundsを使ってデモを作ったんですよ。好みのギターフレーズや四つ打ちのビートをサンプルから持ってきて、そこに自分でピアノを打ち込んで形にしました。なんかちょっと今っぽい作り方をした感じですね(笑)。締め切りまで本当に時間がなかったんですけど、一発でOKをいただけてよかったです。

──この曲ではサウンドプロデューサーとして田中隼人さんが参加されています。

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普段からアレンジはギタリストやキーボーディストなど、デビュー当時から関わってくれているメンバーたちと一緒に、みんなで形にしていくんですよ。今回はそこに田中さんにも入っていただいた形で。eillの要素をしっかり受け入れてくださったうえで、いろんなアイデアを出していただけたので、新鮮で楽しい作業でしたね。

──eillさんがアレンジ面でこだわったところは?

ドロップなんだけど四つ打ちのサビっていうのをずっとやってみたかったんです。最近は海外でもトラップとかが主流で、あんまり四つ打ちの曲がないような気がしているので、今回はあえてそれをやってみたくて。

──歌に関してはどうでしょうか。メロディが乗っているパートはものすごくシンプルなサウンドになっているので、ボーカルにかかる比重がかなり高いですよね。

私の作る曲は1番と2番で全然違ったメロディが出てきたり、そこにさらに大サビが用意されていたり、とにかくてんこ盛りなものがすごく多いんですよ(笑)。なので、ここまで構成もサウンドもシンプルな曲だと、歌の力で感情をピークに持って行かなきゃいけない。それがすごく大変でした。音数が少ないから音程が取りづらいし、それなのにサビはけっこう上がり下がりの多いメロディになっているので、どうやって抑揚を付けていくかはかなり意識しましたね。

──サウンドの構成と相まって、すごくドラマチックな聴き心地が生まれていると思います。鳥のさえずりとともに「いつもあなたの側で笑っているよ」と優しく歌われるラストのワンフレーズにもグッときました。

あの1行はレコーディングの最後に急遽、加えたんですよ。急にひらめいて勝手に足したら、皆さんにも受け入れてもらえたのでよかったなと(笑)。鳥のさえずりに関しては、ドラマに“朝が来る”というテーマがあるので、もともと入れていたんですけどね。