eddaが新作CD「ねごとの森のキマイラ」を5月23日にリリースする。
本作はeddaが敬愛するdetune.の郷拓朗が作曲した「グールックとキオクのノロイ」、レーベルメイトであるCoccoが作詞作曲、河野圭が編曲を手がけた「ダルトン」、ササノマリイとの共作曲「夢のレイニー」、たま「さよなら人類」のカバー、ミワコウダイ編曲の「案内人」という個性豊かな5曲入り。eddaとさまざまなアーティストとの化学反応が凝縮された1枚に仕上がった。
濃密な新作を完成させた今、eddaは何を感じているのか。楽曲解説を交えながら明かしてもらった。
取材・文 / 須藤輝
Track 1「グールックとキオクのノロイ」解説
──今回のEPは、初回盤のみ収録のボーナストラック「リピート」を除くと、全5曲のうち4曲がeddaさん以外の方の作曲ですね。
はい。
──eddaさんはこれまでシンガーソングライターとしてご自身で作詞作曲してこられたわけですが、他者の曲を歌うということに対して抵抗はありませんでした?
正直、最初は戸惑いました。どの曲も自分のメロディではないし、特にCoccoさんから提供していただいた「ダルトン」は、詞も自分のものではなくて。それを自分の曲として歌うという、今までにない経験だったので。どういう視点で歌えばいいのか、自分なりに物語を噛み砕いて、eddaとして表現できる世界に落とし込んでレコーディングしたんですけど、すごくたくさんカロリーを消費した気がしますね。
──その「ダルトン」のお話はのちほど伺うとして、まずは曲順に沿ってお話を聞かせてください。1曲目「グールックとキオクのノロイ」の作曲は、detune.の郷拓郎さんです。
私は昔から「detune.さんが好き」と言い続けていて、上京してからも、例えばジャケット案を話し合ってるときも「例えばこのdetune.さんの~」みたいに、何かにつけてdetune.さんを引き合いに出してたんです。それをスタッフさんが汲み取ってくださって。
──楽曲提供に至ったと。
はい。最初に郷さんと打ち合わせさせていただいたんですけど、今まで生きてきた中で一番緊張しました。
──そこでeddaさんから楽曲に対するリクエストなどもされた?
そうですね。まず「私の中でdetune.さんは、“月のウサギ”みたいなイメージなんですよ」という話をして。私にとって月のウサギって、かわいいと同時に怖い側面もある、不思議な存在なんです。そしたら郷さんは「じゃあ、そういうイメージで曲を作ります」とおっしゃって。
──「グールックとキオクのノロイ」はエレクトロニカ風味の、少し陰のある四つ打ちのナンバーですね。できあがった曲を初めて聴いたとき、どんな印象を受けました?
打ち合わせから2週間ほどで「サビのメロディができたんで聴いてください」っていう連絡を郷さんからいただいたんですけど、その時点で鳥肌が立つくらいカッコよくて。そこからアレンジ面も含めて小まめにやり取りをさせていただいて、一緒にコツコツ作り上げていった感じですね。
──先ほど「月のウサギ」とおっしゃいましたが、「グールックとキオクのノロイ」の歌詞はどのような着想から?
私は、月のウサギというのは、地球から月へ帰っていった人たちだと思ってるんです。で、例えば「竹取物語」のかぐや姫は、天の羽衣をまとうと地球にいたときの記憶をなくしてしまうじゃないですか。そういったお話を踏まえると、月に帰った人たちは頭に記憶を消す装置を付けられて、その装置がウサギの耳のような形をしているんじゃないかって。
──地球からウサギに見えていたものは、実は動物のウサギではなく、ウサ耳を付けた人だった。
そう。それで、記憶を消されちゃうから、月には記憶の概念がないんですよ。ただ、言い伝えみたいな形で「キオク」というワードだけは残ってるんです。そこに、地球での記憶の欠片みたいなものがわずかに残っている子がまれにいて、それがグールックなんです。だからグールックは、月から地球を眺めていると、なぜだか胸がうずいたりして。
──SF的ですね。
そんなグールックに対して、周りのみんなは「かわいそうに」「それはきっとノロイ(呪い)だよ」みたいなことを言う。それでもグールックは「この感覚はなんだろう?」と突き詰めていくんですけど、もし真実を知って、自分たちが記憶を操作されていたことや、地球での暮らしを思い出してしまったら、それはすごく恐ろしいことだなって。そういう、真実に触れる前の緊張感みたいなものを表現したかったんです。
Track 2「夢のレイニー」解説
──2曲目「夢のレイニー」の作曲は、ササノマリイさんです。
私はけっこうボカロ曲を聴くんですけど、ササノさんが“ねこぼーろ”名義で活動してらっしゃったときから彼が作る曲が好きだったんです。「これは私には作れないメロディだな」と常々思いつつ、恐れながらも世界観としてはeddaとそこまでかけ離れてはいないんじゃないかって。やっぱり私がササノさんのファンであることをスタッフさんが汲んでくださって、ありがたいことにコラボレーションが実現しました。
──曲調としてはバンドサウンドを打ち出した、透明感のあるロックナンバーですね。
「夢のレイニー」は、最初の打ち合わせで「夏っぽい感じで」みたいな、ざっくりしたオーダーを出させていただいたんです。「ぼくのなつやすみ」っていうゲームがあるじゃないですか。ああいう空気感の曲を作っていただきたくて。
──ああ。「夏っぽい」と聞いて、すごくしっくりきました。
でも実は、ササノさんが書いてくださった曲は、私が想定していたよりも広い範囲の「ぼくなつ」が表現されていたと言うか。もっと別の場所が匂ってくるようなメロディ展開で、主人公の年齢も私が考えたよりも少し高めで、なおかつ切なさみたいなものもはらんでいて。だから詞もそうあるべきだなと、曲に寄り添う形で書き進めていきました。
──確かに歌詞にも“ひと夏の思い出”的な儚さがありますね。
私の持論と言うか、いつも思ってることなんですけど、経験って記憶に基づくものじゃないですか。で、夢も記憶として残るから、経験と言っていいんじゃないか。と言うことは、夢=現実という図式も成り立つんじゃないかって。
──夢で得た経験も、現実の経験と同列であると。
はい。と言うことは夢の中で会った人も、忘れなければ存在したことになるんじゃないか。ただ、私はよく夢を見るほうで、覚えてたらノートにメモしたりしてるんですけど、忘れちゃってることも多くて。そういう自分の薄情さに落ち込むこともあるんですよ。「あんなに一緒に冒険したのに……」って。この「夢のレイニー」も、夢で会ったレイニーちゃんという女の子のことを忘れないように、一緒に旅をしようっていうお話なんです。結局、次の朝には忘れちゃうんですけど、でも忘れちゃいけない夢を見たなっていうことだけは覚えておこうみたいな。
──テーマ的に「グールックとキオクのノロイ」と重なる部分がありますね。
そうですね。全然意識してなかったんですけど、記憶つながりの2曲になりました。
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Track 3:「ダルトン」解説
- edda「ねごとの森のキマイラ」
- 2018年5月23日発売 / Victor Entertainment
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初回限定盤 [CD]
1836円 / VICL-65001 -
通常盤 [CD]
1620円 / VICL-65002
- 収録曲
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- グールックとキオクのノロイ [作詞:edda / 作曲:郷拓郎 / 編曲:detune.]
- 夢のレイニー [作詞:edda / 作曲・編曲:ササノマリイ]
- ダルトン [作詞・作曲:Cocco / 編曲:河野圭]
- さよなら人類 [作詞:柳原幼一郎 / 作曲:柳原幼一郎、知久寿焼、石川浩二、滝本晃司 / 編曲:砂守岳央、松岡美弥子(未来古代楽団)]
- 案内人 [作詞・作曲:edda / 編曲:ミワコウダイ]
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- リピート[作詞・作曲:edda / 編曲:ミワコウダイ]
初回限定盤ボーナストラック
- edda(エッダ)
- 1992年生まれ、福岡県出身の女性シンガーソングライター。音楽塾ヴォイスで作曲や作詞を学び、2017年にeddaとして活動をスタート。2017年5月に福岡限定シングル「半魚人」を発表し、7月に初の全国流通盤となるミニアルバム「さんかく扉のむこうがわ」をリリースした。同年10月にシングル「チクタク」でメジャーデビュー。2018年5月にCocco、ササノマリイ、detune.ら参加の新作「ねごとの森のキマイラ」をリリースする。