幼少期の記憶を手繰り寄せて
──7曲目「いちばんぼし」は、最初に少し話に出ましたけど、作詞はEMAさん、作曲はEMAさんとMisumiさんがクレジットされていますね。EMAさんはどんなふうに歌詞を書かれたんですか?
EMA 歌詞はいつもバーッと書き上げていて、この曲も1日で一気に書きました。私が創作をするときって、とにかく衝動が大きいんです。衝動というか、言葉にならない感情というか。こういう仕事をしていると、どうしても言葉にできない感情が生まれるときがあって。この曲の歌詞も、そういう気持ちがあふれ出たときに思いつきましたね。歌詞の冒頭に「流れる電車の車窓から 知らない景色が見えて すこし 寂しくなったの」とありますけど、たまに電車に乗ると、知らない土地で心細くなるときがあるんです。土地勘のない場所で、夕方、1人でポツンと立っている、そんな寂しさ。幼い頃の記憶なのかもしれないけど、私の中に、夕方の空を見上げると一番星みたいな大きな星が光っている……そんな記憶があって。その一番星になりたいと思って、タイトルは「いちばんぼし」にしたんです。自分の中にある幼少期の記憶を手繰り寄せながら、今の自分の心情や感情をバーッと言葉にしました。
──「青」では「この感情は理屈じゃない この感情に名前はない」と歌うし、「表情差分」でも「この感情はなんて呼ぶんだろう」と歌っているし、名付けようのない感情に対して優しく寄り添うアルバムですよね。
EMA うんうんうん。
Misumi 感情について考えることは多いですね。いろんな感情があることで、人間を人間らしくする。喜び、悲しみ、憎しみ、嫉妬……たくさんあって、感情は、失くしたら楽にはなれるけど、人間として生きている意味を感じられない。そう考えているから、歌詞に「感情」という言葉をよく使うのかもしれない。
EMA 感情は厄介なものでもあるよね。
Misumi そうだね。楽しいことがあっても、苦しみはついて回るし。だからこそ、感情は人間を人間たらしめているものなんだと思う。難しいですよね、生きることは。
EMA 難しいです。
美しい地球に思い馳せた「ブルーマーブル」、Misumi楽曲の延長線上にある「後書き」
──8曲目の「ブルーマーブル」の歌詞には「ねぇ まだ孤独な月の裏で 終わったことを終わらせられないんだ」というフレーズがありますが、11月に東京と大阪で開催されたワンマンライブのタイトルが「月の裏」であることを考えても、「月」はDUSTCELLにとって重要なモチーフですよね。振り返れば、「光」に収録された「帰りの会」にも「月の裏側」という言葉が出てきているし。「ブルーマーブル」は、Misumiさんにとってどんな曲ですか?
Misumi 僕はSF映画が好きで、「インターステラー」とか「2001年宇宙の旅」とか、宇宙を舞台にした映画をよく観ながら、月から見た地球は美しいだろうなと想像するんです。月って地球と比べたら何もないし、誰もいない、開けた場所……もっと言えば、月は孤独を表現するのに最適な場所だと思うんですけど、そんな月から眺める地球ならではの美しさがあるんじゃないかなって。「ブルーマーブル」という言葉自体は、「三体」というNetflixのドラマを観ていたときに字幕に出てきて、「これだ」とひらめいたんですよね。この曲は失恋の歌なんですけど、引きずってしまっている気持ちとか、思いが届きそうで届かない感覚を表現するために、月から地球を見ている情景がしっくりきたので、そこから膨らませて作りました。
──「青」も恋愛の曲でしたけど、恋愛というのは、今作の世界観を生み出すために大きな要素になっていると思いますか?
Misumi そうですね。恋とか愛って、人間性が出るものだと思うんですよ。そういう意味でも、今回はテーマになりやすかったのかもしれないです。
──そして、ラストの「心臓」の前に来るのが「後書き」という曲ですね。
Misumi 「後書き」も本当に、生きることを表現している曲ですね。デモを出したとき、EMAもマネージャーさんも気に入ってくれました。
EMA 自分が書いた曲も含めてこのアルバムの曲は全部好きだけど、その中でも「後書き」は特に好きですね。歌詞も、メロディも、本当によすぎて。最初、ワンコーラスだけのデモが送られてきたんです。私は気分屋なので、「今は音楽を聴ける気分じゃないな」と思ったらちょっと放置しちゃうこともあって。そのときはたまたま、送られてきたのをすぐに聴いたんです。それで、あまりにもいい曲だからすぐにレスしたくなって、そこから「この曲、超いいよね⁉」と盛り上がりました。レコーディングも、いつも以上に丁寧に録った記憶があります。
Misumi 僕は昔、ボカロで「死に場所じゃない」という曲を出したことがあるんですけど……。
EMA 懐かしい。
Misumi この「後書き」の歌詞にも「死に場所はまだここではない」とあって。自分の中で「後書き」は「死に場所じゃない」の延長線上にあるような曲で、当時の自分を思い出しながら作りました。ただ、「死に場所じゃない」は絶望したまま終わっていく、生きる方向には向かっていなかった曲なんです。でも、「後書き」は生の方向に向かって終わる。
EMA 「後書き」の歌詞は自分に重なるんですよね。歌い出しの「人といたい 近づかないで一人でいたい」という部分も、「これに尽きるな」と思うくらい共感できる。本当は、孤独は嫌だけど、いざ他人と向き合うと怖くなっちゃって、「1人のほうが楽だ」と思う瞬間もあるし。それに「忌まわしき出来事が 夜の底に足を連れ去った」という部分も、私の音楽活動においてこういうことばかりだったなと実感して。メロディはもちろんだけど、歌詞が本当に好きな曲ですね。
Misumi 今、苦しんでいる人にとって、救いになるような曲であればいいなと思います。
さんざん「生きろ」と言った
──DUSTCELLの音楽はずっと聴く人に向けて放たれていたけど、今作は特に「生きてほしい」という気持ち、「救いになればいい」という気持ちが強い作品になったんだなと、お話を聞いていると改めて思いますね。
Misumi でも、「生きろ」ということはさんざんこのアルバムで言ったので。もう、いいです。
EMA ははは。
Misumi もう、俺は伝えました(笑)。なので、次のアルバムは全然違う感じになるんじゃないかなあ。
──「生きろ」は、このアルバムで言い切るくらい書けましたか?
Misumi うん、言い切った……たぶん(笑)。
──そのくらい、このアルバムの制作期間、その思いが強かったということですね。
Misumi そうなんですよね。周りを見たら苦しんでいる人たちもいっぱいいて、「歌詞をどうするか?」となったら、自然と生きることについて書いていた。そう思うと、アルバムの最後が「心臓」の「今を生きていく」という歌詞で終わるのは本当にすごいですね。ここに集約されていく感じがする。この取材の最初に言われて気付いたんです。作っている側としてはまったく意識していなかった。
EMA こういう偶然が私たちは本当に多いよね。
──改めて、「心臓」は本当に素晴らしい曲ですよね。この曲がすべてを肯定している感じがします。
Misumi ライブでもすごく大事な曲になりましたからね。
EMA 要の曲になったね。
──初期のDUSTCELLの感覚も入っているし、本当に「変わらないまま、変わっていく」という表現がぴったりのアルバムですね。
Misumi そうですね。「碧い海」……海になりたいんだよなあ。
EMA すごくわかります。
公演情報
DUSTCELL TOUR 2026 -碧い海-
- 2026年1月28日(水)神奈川県 KT Zepp Yokohama
- 2026年1月31日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2026年2月7日(土)宮城県 仙台PIT
- 2026年2月11日(水・祝)福岡県 DRUM LOGOS
- 2026年2月13日(金)香川県 高松festhalle
- 2026年2月15日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2026年2月20日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2026年3月15日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2026年3月18日(水)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
プロフィール
DUSTCELL(ダストセル)
2019年10月に始動した、ボーカルのEMAとコンポーザーのMisumiによる2人組音楽ユニット。それぞれ歌い手とボカロPというキャリアを積んできた2人によって結成され、傷、痛み、命、孤独といったテーマに寄り添う楽曲を多数発表している。2020年5月に1stアルバム「SUMMIT」をリリースし、同年7月に初のワンマンライブを東京・WWWにて開催。その後もコンスタントに楽曲を発表し続けている。最新アルバムは2025年12月リリースの「碧い海」。同年3月にキャリア初となる東京・日本武道館での単独公演「DUSTCELL LIVE『ONE』at 日本武道館」を実施した。2026年1月から3月にかけてはZeppツアー「DUSTCELL TOUR 2026 -碧い海-」を行う。








