DUSTCELL 3rdアルバムインタビュー|長い長いトンネルを抜けよう──暗闇の中から見える「光」目指して

DUSTCELLの2年9カ月ぶりのフルアルバム「光」。重低音の効いた楽曲を得意とし、ダークな世界観のイメージを強く持たれがちなDUSTCELLだが、今作は透き通ったサウンドが全体に通底する、優しさや包容力、そして内から湧き上がる生命力を感じるような1枚に仕上がっている。

音楽ナタリーではEMAとMisumiにインタビュー。「光」に込めた思いを掘り下げていくと、活動初期から一貫して歌っているテーマや、一方でリスナーが増えるにつれて変わり始めているマインドが浮かび上がった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 日吉“JP”純平

ダークなイメージに逆行

──2年9カ月ぶりのフルアルバム「光」を作り上げられて、今のお気持ちはいかがですか?

EMA 2ndフルアルバム「自白」(2021年10月発表)を出してから年月はかかりましたけど、その分ボリュームもあるし、満足のいく3rdアルバムが完成したと思います。制作中、私は精神的に不安定なことが多くて。本当に完成するか不安でもあったんですが、なんとか納品直前にパワーを出して(笑)、気合いで作り上げました。

──「光」は既発曲も多数収録された作品ですが、最初から最後まで通して聴くことで、まるで物語の中に入っていくような感覚になるくらい、フルアルバムとしてのトータリティが高いと感じました。16曲を「光」というタイトルのもとにまとめるうえで、考えていたことはありますか?

Misumi 僕らはダークな曲が多いイメージが世間一般的にあると思うんです。だからこそ、アルバムには逆の印象のタイトルを付けたいと考えて。改めて僕らの曲の歌詞を見ると、「光」という単語が多く入っているんですよね。それに気付いてからは「これしかないな」という感じで、EMAにも「『光』でどう?」と提案しました。アルバム全体を振り返ってみても、1stや2ndの頃はサブベースや重低音の効いた曲が多かったけど、今回はそれが少なくなり、透明感のあるきれいな曲が多くなったと思います。ただ、これは自分の中にもともとあった要素だと思うんです。初期のボカロ曲には透明感のある曲も多かったんですよね。

EMA 確かリード曲の「光」はけっこう早い段階でデモがMisumiさんから送られてきたんですよ。「この曲をリードにしたい」とも聞いていたし、「この曲を軸にアルバムができていくんだな」と納得した記憶があります。

EMA

EMA

プラスに作用する音楽

──Misumiさんの中で、パブリックイメージとは逆の言葉をタイトルに掲げたいという気持ちは、なぜ芽生えたのでしょうか。

Misumi ただ単に、自分のモードがそっちに行っていたのだと思うんですけど……そもそも、僕の書く歌詞は暗いと捉えられることが多いと思うんですけど、自分としては明るい歌詞を書いている感覚なんです。例えばアルバム1曲目の「GAUZE」の歌詞も、全体的に苦しみが見えるかもしれないけど、もがきながらも、希望が見える終わり方をしているので。

──ということは、あえて今までと逆のことをやろうとしたというより、自分たちの本質的な部分をちゃんと提示しようとした、と言えるのかもしれないですね。

Misumi そうですね。僕が作る音楽は、聴いた人にとってプラスに働くものであってほしいんです。作曲を始めた頃は、曲はあくまで自分の思いを吐き出すためのものだったけど、多くの人に聴かれるようになって感覚が変わってきた。「がんばっていこう!」みたいな直接的で前向きな歌詞は書けないけど、暗闇の中から見える光みたいなものは書けるんじゃないかと。

──今Misumiさんがおっしゃったポイントと、EMAさんはどのように向き合っていますか?

EMA Misumiさんが言ったように、初期のDUSTCELLは吐き出すように音楽を作っていたと思います。最近のMisumiさんが作る曲は、初期の頃よりもファンの人や、リスナーの人たちのことを少し前提にして書いていると感じる部分は私にもあって。

Misumi 決して「ファンが喜ぶ曲を書こう」というわけではないんだけどね。ただひとえに、プラスに作用してほしい気持ちがある。

Misumi

Misumi

EMA うん、うん。今のMisumiさんの書く歌詞は人に寄り添うところがあると思う。でも逆に私は、未熟だからかもしれないけど、自分が救われるために歌詞を書いている部分が大きくて、「誰かのため」という感覚はないんです。ただ、だからといって「自分だけ救われたらいいや」というわけでもない。自分が吐き出した歌詞を誰かが聴いたとき、その誰かも一緒に救われたらいいな、とは思うので。

Misumi EMAの歌詞が自分の内面を吐き出しているのは初期から一貫していて。僕はそのまま吐き出すことができないんですよ。何かしら形を変えて吐き出している。でもEMAの場合は、もっとストレートに、自分の体の中から出てきている歌詞なんだと思います。アルバム制作中は、EMAが歌詞を書けない状態が続いていて。僕が作詞した曲だけのアルバムになる可能性もあったところ、最後の最後に「無垢」という曲が上がってきた。

EMA 「無垢」は1日で作ったんですけど、トラックに対して今の気持ちを素直にバーッと全部ぶつけたような曲ですね。

──歌詞が書けなかった状況が続いた中で、「無垢」は「それでも何かを言葉にしたい」という気持ちから生まれたのでしょうか?

EMA 正直、このときは「書かなきゃ」でした。でもそれがいい作用になったし、アルバムのピースにハマった感じがあって。すごく達成感がありましたね。

Misumi 確かに「無垢」ができてアルバムが完成した感じはあったね。DUSTCELLは僕の歌詞とEMAの歌詞が両方あって完成するので。

「DUSTCELL TOUR 2023『ROUND TRIP』」Zepp Osaka Bayside公演の様子。

「DUSTCELL TOUR 2023『ROUND TRIP』」Zepp Osaka Bayside公演の様子。

──「無垢」はほとんど独白のような生々しい歌ですが、「この歌も きっと誰かの救いになる」というフレーズで締めくくられます。まさに先ほどのEMAさんの発言が歌詞になっているような部分ですよね。

EMA 作詞をしているとアドレナリンが出るというか、嫌なこととか、考えたくないことがフワーッと浄化されるような感じがあるんです。DUSTCELLの音楽を聴いてくれる人たちって、もちろん元気な人もいっぱいいると思うけど、私生活が大変だったり、心が繊細な人も多くいる気がしていて。そういう人たちも自分と一緒に浄化されればいいな、という気持ちがあるんですよね。

Misumi 「無垢」の歌詞は、もがいているけど最後に光が見える構成が、僕が書く歌詞に近い感じがする。

EMA うん、一緒だと思う。でも私の場合は、光が「見える」というよりは「見えちゃう」のような気がします。活動のこともどうでもよくなっちゃって、「全部マジでやめてえな」となっても、最後は結局なんだかんだでがんばれてしまう。皮肉めいた感じになっちゃうけど、「自分にはこれしかないんだ」と思ってしまうんですよ。そういう部分が無意識のうちに音楽に出ているのかなと思います。

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Misumiにとっての海