DUSTCELLインタビュー|アルバムに込めたメッセージは「生きてほしい」 (2/3)

モネ好きが発覚した「青」、シンプルに楽しんだ「音楽」

──ここからは「碧い海」に収録されている新曲についてうかがっていこうと思います。まず「青」は、まさに幕開けにふさわしい1曲ですよね。サウンドの目まぐるしい展開もインパクトがありますね。

Misumi 「碧い海」というタイトルが決まってから、アルバムの主役になるような曲にしようと思って作ったのが「青」ですね。歌詞は恋愛がモチーフなんだけど、根底にあるのは「変化への肯定」だと思いますね。

──Misumiさんと一緒にアレンジでクレジットされている、ぎゅる子さんはどんな方なんですか?

Misumi ボカロPの方なんです。彼の作った「isomers」や「makeaboy」などを聴いたとき、本当に衝撃を受けて、今年一番聴いたアーティストかもしれない。「青」のデモを作ったとき、「ぎゅる子さんに参加してもらえれば、曲の世界観がもっと広がるだろうな」と思って、ご依頼させていただきました。ぎゅる子さんの作品は電子音楽なんだけどポストロック的な要素が入っていて、新鮮なんですよね。

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

EMA 「青」の「何よりそれが美しいんだ クロードモネの絵画より」という歌詞がすごく好きで。絵画には詳しくないんですけど、中学生の頃から仲のいい絵描きの友人がモネを大好きで、その影響もあって、モネの作品だけは美術館に観に行くくらい好きなんです。そのことをMisumiさんは知らないはずなのに、歌詞にモネが出てきたからびっくりして。

Misumi 僕も最近、モネの画集を買ったんだよ。モネの描く海がすごく好きなんですよね。

EMA 私の中でもモネは大きな存在だったから、「やっぱり、Misumiさんとは好みが合うんだな」と思った(笑)。

──3曲目「音楽」は、めちゃくちゃプリミティブな音楽という感じがしますね。このアルバムの中でも異彩を放つ1曲だと思います。

Misumi この曲は最後のほうにできたんですけど、それまでにシリアスな曲を書きすぎたなと思って、「もう、シンプルに楽しもう!」と。なので、歌詞にも深い意味はなくて、DTM用語がたくさん出てくるところがポイントですね。僕、ボカロで音楽を作り始める前は、Maltine Recordsという、tofubeatsさんも曲を出していたネットレーベルのクラブイベントによく行っていたんです。クラブで踊って楽しんでいた頃を思い出しながら作りました。

EMA アルバムのレコーディングも終盤で開放的な気分になっていたので、「さんざん気難しい人間の感情を歌ってきたけど、結局、楽しかったらいいよね」というノリで歌いましたね。

──サウンドはエレクトロニックだけど、言葉も含めて、「音楽」での表現はもはや原始的と言っていいくらいのもの、という感じがしますね。

EMA 私たち2人とも「宝石の国」というマンガが大好きなんです。「宝石の国」の舞台は人間が滅んだあとの世界で、最後は、もはや欲を持たない、岩石生命体だけが残る世界になるんですよ。読んでいると「生きることを複雑に捉えなくていいよね。例えば『お歌は楽しいね』とか、そのくらいシンプルでいいよね」と思うんです(笑)。

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)
「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

ポテンシャルを出し切った曲

──4曲目「憂いの化け物」は非常に強烈な曲ですね。

Misumi この曲は、EMAから電話がかかってきたところから始まったんです。あのとき、なんて言ってたんだっけ?

EMA 「かわいい」と「カッコいい」を共存させたいということと、躁鬱っぽい曲を作りたいと伝えました。私のポテンシャルを全部出した曲にしたかったんです。「憂いの化け物」は「昔のDUSTCELLっぽい」と感じる人も多いと思うんですけど、そこはさっきの「変わらないまま、変わっていく」という話に通じる部分かなと。「やっぱりこういうノリをやらないとDUSTCELLじゃないよね」という気持ちもあるし、同時に「こういう声帯の生かし方をしたことないな」という新しい試みもしている。このアルバムには欠かせない曲だと思います。

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

「DUSTCELL LIVE 2025 -月の裏-」の様子。(撮影:日吉“JP”純平)

Misumi この歌詞に出てくる「アバグネイル」は「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」という映画の主人公からきているんです。アバグネイルは身分を偽ってパイロットになったり、好きになった看護師さんに近付くために医者のフリをしたり、とても破天荒な人なんですね。その規格外なイメージがこの曲にすごくしっくりきて。

──「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は最高の映画ですよね。

Misumi (レオナルド・)ディカプリオがカッコいいんですよね(笑)。

──本当に、EMAさんのさまざまなカラーのボーカルを楽しめる1曲だと思うんですけど、レコーディングはいかがでしたか?

EMA めっちゃ楽しかったです。サビはムズかったけど(笑)。でも、とにかく楽しかった。それが記憶に残っています。