DUSTCELL 3rdアルバムインタビュー|長い長いトンネルを抜けよう──暗闇の中から見える「光」目指して (3/3)

残り続けるのはメロディがいい音楽

──6曲目「可笑しな生きもの」は今年シングルとしてリリースされました。タイアップなどではなかったからこそ、「光」というアルバムに紐付く、重要な意味合いのシングルリリースという印象がありました。

Misumi 「可笑しな生きもの」のアレンジにはquoreeさんという方が関わっているんですけど、彼がMaltine Recordsから出したEP「鉛色の街」(2021年1月発表)に収録されている「透明」という曲に感動したんです。前にMaltine Recordsからリリースしていた、imoutoidというアーティストがいて。その方は僕が知ったときにはすでに10代で亡くなってしまっていたんですけど、その方の音楽が僕はめちゃくちゃ好きで、影響を受けているんです。「もし彼が生きていたらこういう音楽を作っていたかもしれない」と想像させるような強烈な衝撃を、quoreeさんの「鉛色の街」に感じました。それでquoreeさんとは「いつか一緒に何かできたら」と考えていて、今回「ここだ」と思って頼んだらOKしていただきました。quoreeさんの曲の透明なシンセがこの曲に合うだろうなと予想していたら、実際、素晴らしい作品が作れましたね。

──この曲の歌詞にも「光」というワードが出てきますよね。

Misumi そうですね。あと最後に「花火」という言葉が出てきますけど、花火もまた、夜空に見える一瞬の光。僕らのライブ定番曲「独白」にも「花火」が登場するんですよ。

──最初にお話を伺った7曲目「無垢」があり、「雨の植物園」「帰りの会」と続いていくアルバム中盤の流れは孤独な景色が広がっているように感じます。

Misumi 確かに、ここの流れは孤独な感じがしますね。「雨の植物園」は全編を通して雨の環境音を入れて、新宿御苑にある温室の植物園に行ったときの記憶をもとに作詞しました。僕が温室に行ったとき雨が降っていて、その感じがすごく好きだったんです。あの感覚をサウンドにも歌詞にも落とし込めたと思います。あと音楽にはリズムや歌詞、いろいろな要素がありますけど、今回のアルバムは全体を通して「いいメロディを書こう」という意識があって。残り続ける音楽って、メロディがいいものだと思うんです。僕らの音楽も一瞬で消費されたくない。「雨の植物園」もサビの部分は特にいいメロディを書くことができたなと思います。

──今Misumiさんがお話された「消費されたくない」というポイントは、EMAさんはどう思われますか?

EMA ファッションや音楽って消費されがちなものですよね。本当に曲を好きで聴いてくれる人たちもいれば、「この曲を聴いている自分に酔っている」みたいな人もいるような気がしていて。それは悪いことではないけど、正直、悲しくなることはあります。なのでMisumiさんがメロディラインにこだわってくれることは、いいことすぎるというか、偉すぎるというか。

Misumi (笑)。

EMA すごくうれしいことですね。私もDUSTCELLは長ーく続けていきたいし、みんなの心に深く残ってくれればいいなと思うので。

「DUSTCELL LIVE 2023『DAWN』」豊洲PIT公演の様子。

「DUSTCELL LIVE 2023『DAWN』」豊洲PIT公演の様子。

自然的なイメージとDUSTCELL

──「帰りの会」はグルーヴィな始まり方がインパクト大ですし、タイトルが醸し出すノスタルジックな雰囲気も印象的でした。

Misumi この曲も雨の曲なので「雨の植物園」と並べました。最後のほうで「人は変わってしまうものね」と、ここでもまた変化を歌っていると思います。この曲は恋愛で変わっていく人のことを書いたんですけど、「変化してしまうことのどうしようもなさ」が落とし込めたかなと。あと、この曲にも月が出てくるんですよね。「月の裏側に落ちたみたい」という、どうしようもない孤独感。

──使われ方や背後にあるイメージは曲ごとにさまざまだと思いますが、海、雨、月……そうした自然的なイメージが頻出するのは、とても興味深いです。

Misumi 自然、大好きなんです。特に水回り。海、川、滝。世の中のもので一番好きと言っていいくらい、好きです。

EMA 同じくです。

Misumi 音がいいんですよね。部屋で聞いた雨の音とか、誰もいない夜の海の波の音とか、俗っぽさがなくて浄化されるような感じがする。自然とはちょっと違いますけど、神社も好きですね。僕が生きていくうえで大事なものだなと思う。EMAも神社に行っていたよね?

EMA うん。私、実家が本当にド田舎なんですよ。なのでメンタルを崩しちゃうと「実家に帰ろう」となるんです。

Misumi ジブリみたいな感じだよね。

EMA 本当にジブリ感強めの実家で(笑)。実家で暮らしていた頃は「不便だな」と思っていたし、友達と気軽に遊べないから、高校を卒業してすぐに出ちゃったんですけど、大人になると「実家が田舎でよかったな」と思います(笑)。

Misumi EMAの歌声には浄化される感じがあるけど、そういう地元の感覚から出てくるものもあるのかもしれないね。

DUSTCELL

DUSTCELL

──DUTCELLはサウンド面でも歌の面でも浄化が1つのキーワードなのかもしれないですね。そしてアルバム終盤、14曲目「優しい人でありたい」はライブでのEMAさんのMCをもとに、Misumiさんが書かれた曲なんですよね。

Misumi そうなんです。ライブの終盤で出てきた言葉だったんですよね。

──MCで話したときのことは、EMAさんは覚えていますか?

EMA はい。当時「私の人生は生きているだけで理不尽なことが多い」と思っていて。それは今も変わっていないんですけど。人間、完璧な人っていないじゃないですか。黒歴史みたいなことは誰しもあると思う。もちろん私にもそれはあるし。そういう経験を経て、「次からは気を付けよう」と学んでいくものだと思うんです。実際私には、DUSTCELLを始めてから、心が大人になったなと感じることがあって。人に嫌なことをされても、やり返しながら生きていたくないなと考えるようになったんです。我慢して耐えるのはつらいけど、他人を攻撃してもそれは自分に返ってくるし、自分が本当に困ったときに周りに誰もいなくなってしまうような気がして。自分を守るための優しさというか、そういうことを伝えたくて話をしました(参照:「死ぬまで音楽を続けよう」DUSTCELL全国ツアー「ROUND TRIP」完走、EMAが伝えた切実な思い)。

Misumi 藤井風さんの「帰ろう」という曲に「憎みあいの果てに何が生まれるの わたし わたしが先に 忘れよう」という歌詞があって。僕がめちゃくちゃ好きな歌詞なんですけど、EMAが言ったことは同じことだと思います。

EMA うん。未熟な部分もまだまだあるけど「私はそうやって人生を生きたいんだ」という目標みたいなものですね。

──EMAさんの放った言葉を曲にしたいという創作の原動力は、とても尊いもののような気がします。

Misumi こういう作り方をしたのは、これが初めてです。「優しい人でありたい」は僕らにとって大事な曲ですね。

生きていく強さを持ち帰ってほしい

──そしてアルバムのラストを飾るのがタイトルトラックの「光」です。「光」はお二人にとってどんな曲になりましたか?

Misumi 「今を生きよう」というメッセージの曲になったと思うんです。それはDUSTCELLの結成当時からのメッセージでもあるような気がする。この曲もラストに海が出てきて、開放感がある終わり方にできました。あとサビのメロディが本当によくできたと思う。デモをみんなに聴かせるときも自慢げに聴かせた覚えがあります(笑)。こういうこと、あまりないんです。

EMA Misumiさんから自慢げにデモをもらったときから(笑)、「メロが強い!」と思いました。歌詞を紐解いていくと「今生きている」「今がんばるしかない」というメッセージを感じて、私もそう思いながら生きている人間だから、共感しました。ラストに向けて気持ちが浄化されていく感覚が、アルバムの最後にも、リードトラックとしてもふさわしい曲だなと思います。

──EMAさんは「光」という言葉にどのような意味やイメージを持っていますか?

EMA さっき言ったように、長い長いトンネルを抜けたあとに見えるもの、という感じがあります。あとやっぱり、私にとっては「見えちゃうもの」というか。「結局こうなるならがんばるしかないよね」という「最後のひと踏ん張り」みたいなイメージです。

──10月からは「DUSTCELL TOUR 2024『光』」が開催されます。今のお二人にとってライブはどのようなものでしょうか。

EMA ライブは私たちにとってすごくすごく大事なものですね。私たちの顔を出さない活動スタイル的に「本当に存在しているの?」と思われるかもしれないけど、ライブでは直接向き合うことができますし。ファンの人たちが私たちの曲で一緒にノッたり歌ってくれるので、すっごくうれしいです。だからこそ満足させたいし、パフォーマンスをもっと磨いて、演出も、ボーカリストとしても、納得のいくものを見せたいです。

Misumi ライブは「エネルギーの交換」という感じなんですよね。もらえるし、与えられる、特別な場所です。あと太陽でも花火でも、光は見ると生きていくエネルギーをもらえるものだと思う。今回はせっかく光という言葉を掲げたので、来てくれた人が生きていく強さを持ち帰ることができるようなライブにしたいです。

EMA うん。「みんなで一緒に、長い長いトンネルを抜けようや」という感じですね。

「DUSTCELL LIVE 2023『DAWN』」豊洲PIT公演の様子。

「DUSTCELL LIVE 2023『DAWN』」豊洲PIT公演の様子。

公演情報

DUSTCELL TOUR 2024「光」

  • 2024年10月3日(木)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年10月5日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2024年10月10日(木)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

DUSTCELL(ダストセル)

2019年10月に始動した、ボーカルのEMAとコンポーザーのMisumiによる2人組音楽ユニット。それぞれ歌い手とボカロPというキャリアを積んできた2人によって結成され、YouTubeに投稿された初の音源「CULT」が大きな注目を浴びる。2020年5月に1stアルバム「SUMMIT」をリリースし、同年7月に初のワンマンライブを東京・WWWにて開催。その後もコンスタントに楽曲をリリースし続け、2021年10月に2ndアルバム「自白」を発表した。2022年6月にドラマ「明日、私は誰かのカノジョ」のエンディング主題歌「足りない」を配信。2023年3月に2ndミニアルバム「ROUND TRIP」とライブBlu-ray「DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』」を同時リリースした。2024年7月、3rdフルアルバム「光」を発表。10月に東名阪Zeppワンマンツアーを行う。