03. ジャナイWORLD
今の世の中、自分が昔想像してた世界じゃない感じになっちゃってるよね。もう少しマシかと思ってたんだけど。選挙で誰に票を入れようが勝手だけど、巻き添えを食らうのはまっぴらごめんだよ。バカを当選させといてさ、あんなのに俺の払った税金流してもらいたくないし、何を託して投票してんのか本当にわからん。もっと真面目に考えてほしい。本当はみんな社会変えていこうと思ってると多少は期待してたけど、アホばっかりなんだなってことがこの前の選挙で露呈したよ。信じられん。
あとさ、この間、ピザのLサイズを頼んだのに、受け取ったらどう見てもMのサイズ感だったんだよ。値段上がってんのにすごくちっちゃくなってる。ピザって箱を開けて、「うわ、大きいな」って思うもんじゃない? そうじゃないんだよ。これからの子供たちはあの小さなピザがデフォルトで育つのかと思うとかわいそうだよ。ここから日本の状況がよくなることは絶対ないんだろうな。経済の状況が食べ物に及ぶって、末期も末期よ。衣食住に及んできたら国が傾いてると思ったほうがいい。それでもなんとも思わない人たちって、なんなんだろうね。
若いやつらは悩んだ病んだで死にたい死にたい言ってるし、強欲なジジイどもはまだ死にたくねえ死にたくねえって世の中、歪んでるよ。肩組まれて地獄に連れて行かれてる。とにかく敵ばっかりよ。老眼になって近くも遠くもよく見えないけど、敵だけはよく見えるようになってきた(笑)。「プレデター」みたいに体温でわかるようになってきたよ。ただ、敵がいると燃えるよね。バンド名でわかるように基本、怒りが原動力だからね。四方八方敵だらけっていうことを踏まえて、作った歌だね。
この曲はファンクのリズムなんだけど、怒髪天のカバーアルバムが今後出るとしたらこの曲をぜひスガシカオにやってほしいね。俺のイメージではちょっと後ろのノリで歌いたかったんだけど、全然できなかった。しょうがないんだよ。リズム全部頭で拍とっちゃうから(笑)。
04. 一択逆転ホームラン
俺がいつも言ってる“ヤバイ優先”を歌った曲だね。「迷ったらヤバいほうに行け」だよ。負け犬に生まれてどうするかって言ったら、勝つために思いっ切りバット振ってくしかないから。30数年前、我々がブッチャーズ(bloodthirsty butchers)やイースタン(eastern youth)と一緒に東京に出てきて、まずびっくりしたんだよ。東京のバンドマン、みんな大学行ってるか大学出てんの。俺らはバブル末期で現場仕事の日当が高いってだけでも死ぬほど喜んでたけど、そういうレベルじゃなかったんだなと思った。
そのときから俺らはほぼやけくそで、楽しいことだけやってこうって決めたんだよね。負けてるかどうか判断するのも結局自分だから。いい車乗って、いい女抱いて、いいもん食ってみたいな価値観自体、本当しょうもないなと思う。それ以上にそいつらが手に入れられないシビれるものいっぱい持ってるし、こっちの勝ちパターンもあるんだよって示したくてね。世の中的にはハイリスクかもしれないけど。
そして歳を取れば取るほど選択肢がどんどんなくなってくる。俺の歳で今から野球選手になるのはムリでしょ? そう考えると、もう迷えない。この曲はそこに対する意地もちょっと入ってる。そもそも野球ってモチーフが今、新しくないよね。昭和的というか。まあ、それゆえに野球なんだよ(笑)。若者に向けてないから。同級生が聴いて恥ずかしくない曲を作んないといけないんだよ、こっちは。俺の同級生は札幌でライブやるとみんな来てくれるよ。
俺は大人がちゃんと聴いてわかる曲を歌いたい。いい年こいて昔の恋の思い出を歌ってどうすんの? 出てくる主人公いつまで学生だよ? 歌の中の自分どこまで美化すんだ? 外見的にも精神的にもちゃんと歳を取れないのは本当に格好悪いことだと思う。
まあ、世の中の大部分は音楽にそこまで求めてないんだろうね。ただ味が長続きしないガム噛んでペッと吐いてるようなもんだもん。だから一時的にでも味が強いものだけ求めてるでしょ? グッドメロディではなく、もっと刺激を刺激をってなってるから、フレーズもアレンジもアクロバティックになっちゃう。俺なんて「偉い坊さん並みに迷いはない」だよ? ここに坊さん持ってくるところが肝だな。ジジイの例えだもんね(笑)。
05. たからもの
宝物っていうのは歳を重ねてこないと気付かないものだね。若い頃に一途だったものじゃなく、結果的にフィットして自分が必要だったものはこれだったのかと思うことっていっぱいある。自分の趣味だったり、食べ物だったり、恋人でも嫁さんでもそうだけど、理想がすべてではない。
妥協ではなく巡り合わせによって、自分が手に入れられるものによって人生ができているのはすごく素敵なことだし、それこそが宝物なんだと思う。いい車乗って、いい家住んでとか、そういうことじゃないのよ。若いうちは野望が行動の原動力になるけど、それがすべてではないってこともいずれわかる。こればっかりは自分で体験しないとね。若いやつに何かメッセージありますか?って聞かれたら、俺は「歯を大事にしろ」しか言わない。歯はあとから金かかるから。インプラント、すごい高いよ。
それぞれに転ばないと痛さはわかんないし、そこから復活した自分を「よく俺やってきたな」って思えるのも、自分で実際に立ち上がらないと実感できない。それに、つまずいて地面に手をついたときに拾ったものが宝物になることもいっぱいある。生きるってそういうことなんだ。
06. Go 自愛
長く生きてくると、どうしても親も友達も死んでいくよね。そうなったとき、自分に何ができるかなって毎回思う。その死を教訓に自分は生きなきゃ、みたいな考えが重くのしかかってきてね。
でも、そいつの分までがんばろうったってがんばれるもんじゃないよ。一昨年うちの親父が死んで、母ちゃんがすごい凹んでね。「私ももう死にたい」って言うから、「それは違うよ、今まで通りの母ちゃんでいてくれることを親父は一番望んでるよ」って伝えたの。それまでの自分を愛して信じてくれたんだから、そのまんまでいることが相手に対する一番の愛情じゃないかなって俺は思う。
だから愛してくれた人が自分を愛してくれたように自分を愛する。自分を信じてくれたように自分を信じてみる。その人に愛されたこと、信じられたことが自分の勲章になる。そういう生き方をするだけで、特に成長する必要もないと俺は思ってる。テーマ的に辛気臭くなりそうだったから、1分48秒でパッと終わるハードコアスタイルにしたけど、言ってることはすごく大事なことだね。自分の母ちゃんもそうだけど、連れ合いを亡くすのは親を失う以上につらいだろうから。そうなったときに俺が言ってあげられることって、こんなもんかな。自分自身にもね。
「あんなふうにはなりたくない」って言われたい
──クレージーキャッツのオマージュに始まり、メタルあり、ファンクあり、歌謡曲ありとバラエティに富んだ6曲で、怒髪天というバンドの底知れないポテンシャルを改めて強く感じました。
歌詞の世界観にブーストがかかるサウンドを突き詰めていくと、このぐらいの振り幅になっちゃうよね。うちのギターの(上原子)友康の引き出しがすごく多いから、リズム隊の2人(清水泰次、坂詰克彦)は本当に大変だと思う。ただ、あの2人は「できない」って言わないんだよね。言わないっていうか、できないという概念がないんじゃないかな。だから一生懸命練習してるよ。ちなみに坂さんに「ツーバス踏んでくれ」って10年ぐらいずっと言ってたら、今回やっとツインペダルを買ったんだよ。で「絶対ツーバス入れてよ」と伝えたら「わかりました」って言うから、てっきり「OUT老GUYS」に入れると思ったら「ジャナイWORLD」に入っててね。聞いたら「OUT老GUYS」はまだ練習しないと速くて踏めないって(笑)。
──歌詞の面でも、ロックやパンクはリアルであることが信条という増子さんの言葉通り、今の世の中に言いたいことを詰め込んだ1枚になりましたね。
今回に関して言うと、若者に響いてほしいとか、もっと売れてほしいとか、全然思わなかったね。ただ思いっ切りやるだけ。それで響かなかったらまあいいやって。もちろん届いてくれるとありがたいけど、結局それは俺らの考えることじゃない。放ったものをどう焼こうが煮ようが俺の手の届く範囲じゃないんで、お好きにどうぞって。ただ、願いはあるよね。言いたいことは全部言った。これをおっさんの戯言だと受け流されてもいい。ただし、そいつにはそれ相応の地獄が待ってるから(笑)。そう思って生きていくだけだよ。
──増子さんは現在公開中の映画「GOLDFISH」(アナーキーのギタリスト藤沼伸一の初監督作)に出演されていますが、今作には初期のアナーキーに似た痛快さを感じました。
アナーキーはもともと政治的な思想はなく、なんとなく腹立ったってことでバンドを始めたのが最高なんだよね。ガキどもが怒って暴れて、理由が「なんか気に入らないから」っていうのがパンクの一番美しい形で。それって気付いちゃったらもうできないのよ。知っちゃったことを知らなかったことにできないから。悲しいかな。
──そこを怒髪天と増子さんは自分のリアルで戦ってますよね。
そうだね。最近思うんだけど、芝居って自分じゃないキャラクターを演じるじゃない? 表現って意味ではバンドと同じくくりだけど、ものすごい対照的なところにあるもので、バンドは演じちゃダメなのよ、絶対。いかに自分をさらけ出していくかが大事。でも、自分の求められる世界観を演じちゃってるバンドも多いよね。そういうやつに限って「お前らこうしろ」って歌詞で言うんだよね。最悪でしょ? 俺は「俺はこうだぜ」と「これはやめようぜ」しか言わないから。変に啓蒙されるのイヤじゃない? お前、ナンボのもんだよっていう。俺は怒髪天のボーカルの増子を演じようと思わないし、こういうふうに見られたいってものも特にない。結局バンドなんて、日々嫌なことを我慢して汗水たらして働いてる方々の遊興費から少しお代を頂戴して生活してるんだから、もうちょっとそれを肝に銘じろよとは思うけどね。
──今作を聴いて、ジャケットやアー写も含めて世の中をパッと明るくするってこういうことかと思いました。
音楽ってそういうもんだし、聴いたときになんとなく気分が上がればいいと思う。それであわよくば何かしらその中から気に入った言葉でも拾ってくれればいい。昔、雰囲気で聴いてた曲の歌詞をあとから読んでびっくりしたことあるもんね。なんの内容もねえなって(笑)。初期のThe Beatlesの日本語訳詞集を買ったけど、買う必要なかったよ。ほぼ「I LOVE YOU」しか言ってねえから(笑)。だけど曲のメロディとアレンジ、レコーディングがすごいからとんでもないバンドだよ。ずっと聴けるもんな。
──怒髪天も実験を重ねていますよね。昨年の配信シングル「100万1回ヤロウ」の冒頭は大滝詠一さんへのオマージュだったり。
音楽的にけっこういろいろやってるんだけど、全然気付かれないね。演奏も歌も意外と難しいぞって。俺自身もここ10年ぐらいで、ちゃんと歌うことを意識するようになったの。それまでちゃんと歌うのはカッコ悪いことだと思ってたのよ。エモくてナンボ、メロディなんて関係ねえだろと思ってたんだけど、ちゃんと歌うのも悪くないなと思うようになった。今回で言うと「たからもの」は70年代の歌謡曲のマナーに則って歌ってる。クレイジーケンバンドの横山剣さんが以前「楽曲至上主義に徹したい」と言ってたけど本当にその通りで、楽曲を生かす最大限の努力をしなきゃいけないってことは強く思う。
──音楽制作集団としても怒髪天はこれまで関ジャニ∞、ももいろクローバーZなど数々のアーティストに楽曲を提供してきました。
俺ら絶対いい曲は作れると思うんだよ。それは関ジャニ∞に提供したときに本当に思った。友康と東京ドーム公演を観に行ったら5万人が自分たちの作った曲を歌ってて、なるほどそういうことかと。演者の問題だったんだなって(笑)。
──5月10日には全国ツアー「more-AA-janaica TOUR ~もうええじゃないか、もう~」が始まります。ライブ会場での声出しも解禁されて、いよいよバンドの本領発揮ですね。
マスクありだったけど、この前お客さんが歌えるようになったときは感動しちゃったもんね。俺が思ってた以上にみんなの歌声がデカくて。この3年くらいの間に作った曲はコール&レスポンスとか、みんなでサビ歌ってもらうことができなかったから、「この曲のここを歌うんだ?」みたいな発見もあったし。きっと「OUT老GUYS」をフェスでやったら若者はドン引きだろうね。「あんなふうにはなりたくない」って言われたいよ(笑)。昔は大人が眉をしかめるのがロックだったけど、今は若者が眉をしかめるのがロック。「親が怒髪天聴いてんのヤだな」と思われる感じになってほしいね(笑)。ともかく新しい曲作って、それをライブでやることにワクワクできるのはバンドにとって一番の喜びだと思うよ。
ライブ情報
more-AA-janaica TOUR ~もうええじゃないか、もう~
- 2023年5月10日(水)千葉県 千葉LOOK
- 2023年5月13日(土)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2023年5月19日(金)石川県 Kanazawa AZ
- 2023年5月20日(土)岐阜県 yanagase ants
- 2023年5月27日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2023年5月28日(日)香川県 DIME
- 2023年5月30日(火)奈良県 EVANS CASTLE HALL
- 2023年6月1日(木)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2023年6月3日(土)福岡県 小倉FUSE
- 2023年6月4日(日)福岡県 LIVE HOUSE CB
- 2023年6月6日(火)滋賀県 滋賀U★STONE
- 2023年6月10日(土)長野県 ALECX
- 2023年6月11日(日)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
- 2023年6月17日(土)宮城県 Rensa
- 2023年6月18日(日)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2023年6月24日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2023年7月1日(土)大阪府 umeda TRAD
- 2023年7月7日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2023年7月14日(金)東京都 新宿 BLAZE
怒髪天 presents 2023 WORLD BAKA CLASSIC 決勝
怒髪天 vs 柳家睦&THE RATBONES
- 2023年6月25日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2023年7月2日(日)大阪府 umeda TRAD
- 2023年7月8日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2023年7月15日(土)東京都 新宿BLAZE
プロフィール
怒髪天(ドハツテン)
1984年に札幌で結成。自らの音楽性をJAPANESE R&E(リズム&演歌)と称し、独自のロックンロール道を確立している。メンバーは増子直純(Vo)、上原子友康(G)、清水泰次(B)、坂詰克彦(Dr)の4人。2014年1月には結成30周年を記念して初の東京・日本武道館公演を開催。楽曲提供、映像作品や舞台への出演、アイドルとのコラボなど、ロックバンドというイメージにとらわれることなく、ジャンルの垣根を越えて活動を展開している。2022年3月に6曲入りのアルバム「more-AA-janaica」をリリースし、5月から全国ツアー「more-AA-janaica TOUR ~もうええじゃないか、もう~」を行う。