怒髪天「more-AA-janaica」特集|増子直純がニューアルバムを徹底解説

怒髪天のニューアルバム「more-AA-janaica」(読み:モウエエジャナイカ)。

このタイトルを見てあなたはどんなサウンドを思い浮かべるだろうか? アルバムに収録されているのは、メンバーが魂を削りながら生み出した全6曲。ユーモアを交えながら、混沌とした世に物申すスタンスは変わらないが、音や歌詞に宿る熱量はこれまで以上に高く、胸に響いてくるものがある。

齢五十七の増子直純(Vo)は「more-AA-janaica」に何を刻んだのか。全曲解説を交えながら熱弁を振るってもらった。

取材・文 / 秦野邦彦

TAKUROから「うちの会報に載せていいか?」

──怒髪天の新しいアーティスト写真、音楽ナタリーの記事でも大反響でした(参照:怒髪天、毛量大増量)。

最高のキャッチコピーをつけてもらってね。1人(坂詰克彦)ヅラですけど(笑)。今年結成39年目なんだけど、名前だけ知ってる人が「40年近くもやってるバンドなんだ? どういう感じなのかな」って検索したら、これを見つけるっていうね。もはや誰だかわからないアー写って自分でもすげえなと思うよ(笑)。

──ニューアルバム「more-AA-janaica」収録曲の「OUT老GUYS」をイメージして撮影されたそうですね。

完全生産限定盤に付属する写真集のために、収録曲それぞれのテーマに合ったビジュアルで撮り下ろしたうちの1枚だね。アルバムに写真集付けるのはヴィジュアル系かアイドルしかいない中、何様のつもりだって(笑)。これは同郷の偉大な先輩バンド、FLATBACKERのオマージュで。高校生のときめちゃくちゃ聴いてて、スタジオで一緒になったときもすごくよくしてもらって。だから、このアー写を見た北海道の友達やバンドからは即反応があったね。GLAYのTAKUROくんから「うちの会報に載せていいか?」って連絡来たけど、これ載せてどうすんだか(笑)。

増子直純(Vo)

増子直純(Vo)

──はははは。

今回アルバムのリード曲は「令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~」か「OUT老GUYS」の二択だなって話になったんだけど、普通のバンドだったら「一択逆転ホームラン」がキャッチーだと思うよね。ただ、リリース前にラジオで「令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~」と「OUT老GUYS」をかけてもらったんだけど全然反応なくて。よくないですよ、存在を無視するのは。いじめですよ(笑)。または泉谷(しげる)枠に入ったかだね。こいつらを相手にしちゃヤバいぞって(笑)。

──いやいや! このアルバムが訴えかけている内容、真っ当さを多くの人に知ってもらいたので、今回ぜひとも増子さんに全曲解説していただきたいと思っております。

いいねえ。じゃ、さっそくいきましょうか。

増子直純による「more-AA-janaica」全曲解説

01. 令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~

怒髪天はもともとハードコアパンクバンドから始まってるんだけど、この歳になって、こんなに毎日腹立つかってぐらい腹立つことばっかりでしょ? この曲では、辛辣な歌詞を楽しい曲に乗せて、ラジオとかテレビで偶然聴いたやつにどのぐらい響くかやってみたかったの。人に何かを伝えるときこそユーモアってすごい大事で。もしも令和の世にハナ肇とクレージーキャッツがいたら黙ってないだろうなと思って、そのテイストを取り入れてみた。Aメロとサビの寒暖差を激しくしすぎたせいで、リハやってて何度も心臓止まりそうになったね。ロックンロールヒートショックだよ(笑)。

「トントカトンのトントン」ってのは、太宰治の「トカトントン」って小説からの引用。戦後の復興期に主人公の青年が何かに本気になると、遠くからトカトントンって拍子抜けする音が聞こえてきて毎回やる気をなくす話。今がまさにそうだよ。よしやるぞ!と思ったら、嫌なニュースばっかり流れてくるし。こんだけ毎日「ふざけんな」って言いたくなる状況で暮らしてる中、それでもラブソングを出せるのって逆に正気じゃねえなと思って。若者ならわかるよ? 恋愛の中に生活があるから。でも俺からしたらいい歳して、知らんわい!って話で。

ほかの曲もそうだけど、我々ロックバンドができることはお上に楯突いて、声を上げていくことなんで。でも、今の政府はダメだって言うと「じゃあどうすればいい。代替案を出してください」ってね。え? それ考えるのお前ら政治家でしょ? 結局、野党も代わりになれないし、終わってるよ。我々はあと何十年かで死んじゃうからいいけど、子供たちとか下の世代に何かしらもうちょっとよくなるようにはしてやれたらとは思うんだよね。

この曲はまさに「ええじゃないか」(江戸末期の民衆運動)をもう1回起こしてやろうかって曲だね。LAUGHIN' NOSEのPONが言ってたよ。「怒髪天こそ日本政府が一番気を付けなきゃいけないバンドだ」って。震災のあと、斉藤和義くんが反原発の歌を歌って炎上したけど、実は俺らも同じようなこと言ってんだよね。ただ、パンチ力は強力だと思うけど、リーチが短くて届いてなかった(笑)。全然当たってなかった。なんとか届いてほしいんだけどね。

02. OUT老GUYS

ロックとかパンクはリアルであることが守るべき信条で、それ以上に大事なものは絶対ないと思ってる。ただ、今年57歳になる俺のリアルを突き詰めれば突き詰めるほど、世間の言うロック的なカッコよさとは乖離してくね。俺はそこに一切興味ないんだけど。

ミュージシャンで曲が書けなくなるとか歌詞が書けなくなるってやついるけど、信じられないよ。言いたいことがなくなるって。俺が書いてるのは日記みたいなもんで、正しい正しくない関係なく俺が日々思うことをただ書いてるだけだから、これはもうリアルよ。歌詞で書いてる友達に孫が生まれたのも、深夜のスーパーで激突したのも実際あった話だから。真夜中の1時過ぎにイかれたおばちゃんがいろんな人にカゴぶつけてギャーギャー言ってるから「いい加減にしろよ!」って怒鳴りつけたの。そしたら向こうのほうで大学生ぐらいの男3人と女の子1人が「大人げねえな」って笑ってるから「なんだと、待ってろ!」つったら、ピューッって帰っちゃったっていう話。

怒髪天

怒髪天

ちなみに、それから数カ月して、またスーパーでカゴぶつけられて「何この!」って言ったら、お互い気付いたね。あれ? これ前の人だって(笑)。お店の人が「どうなさいましたか?」ってすっ飛んで来たけど、いやこれ2回目なんで大丈夫ですって。おばちゃんも下向いてスーッといなくなっちゃった(笑)。俺はバスとか電車でマナーの悪いやつがいると注意するけど、俺のほうがいづらくなることが何回もあるんだよ。急に声を荒らげたおじさんみたいに見られちゃって。

まあ、老害だなんだ言われる歳になってきたけど、こちとら年季が違うよ。「若き頃から害悪なり」ですから。ロックバンドとお笑い芸人にコンプライアンスを求めるなって俺よく言ってるけど、結局は親から「あの子と遊んじゃいけない」って言われた成れの果て。害悪の化身なわけだから。それを今さら老害って言うのも鼻で笑っちゃうよなって曲がこれ。ここに触れたバンド、これまであんまりいないと思うな。

いい歳したやつらがライブでこれ歌って拳上げてたら、若者は具合悪くなるんじゃないかと思うと楽しみだよ。「我老いてなお害する者なり」って文字が背中に入ったTシャツ作りたいね。これ着てるジイさんがいたら厄介でしょ? 絶対近寄りたくないもん(笑)。俺、泉昌之さんの「ジジメタルジャケット」ってマンガがすごい好きなんだけど、映画化するんだったらこの曲をぜひ使ってほしいね。