ナタリー PowerPush - Dirty Old Men

メンバー脱退を経て生み出された快作「doors」

成長したかったからストレートな歌詞に挑戦した

──そんなバンド解散の危機を乗り越えた今回の作品では、前作収録の「パントマイム」に象徴される物語性の高い歌詞からストレートな心情を歌ったものへと、歌詞の面での大きな変化が表れたと感じました。

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世の中にはストレートな言葉の歌詞があふれるほどあるじゃないですか。そんな中でも、グッとくる歌詞が本物だと思うんですね。でも、高校生の頃から音楽を始めた僕は若かったこともあって、ストレートな歌詞の良さがよくわからなかったんです。だから、これまではそういう歌詞とは全く異なる、フィクションのような物語を書いてきたんですね。でも、音楽を始めて9年、今年で25歳になるんですけど、昨年の震災を経て、愛のような目に見えないつながりや人間の結束力のすごさを痛感させられて。しかも、僕の地元は栃木なんですけど、東北ほどではないにせよ、地震の被害を受けたこともあって、震災を経た心境を書きたかったし、成長したい、変化したいっていう思いもあったので、ストレートな歌詞に挑戦したんです。

──でも、実際に取り組んでみたら、なかなか書けなかった?

そうですね。今まで書いたことのない歌詞だったので、自分の中で戸惑いがあったんです。だから、いろんなプロデューサーさんを付けてもらって、同じ曲に何十回も違う歌詞を書いて、「ああじゃない、こうじゃない」ってやりとりするうちに、自分の判断基準がわからなくなってしまった時期もあったりして。そんな中、いろんなアーティストの歌詞をあれこれ読んでみたら、言葉巧みに気の利いた表現で情景を見せてくれる歌詞もあれば、ただ、「ありがとう」って歌っているだけなのにすごく伝わってくる歌詞もあって。言葉を扱う表現者の人間力や説得力を痛感させられたりもしましたし、「俺にはまだストレートな歌詞は歌えないのかな」って思ってしまったときもありましたね。

いしわたり淳治から叩き込まれた作詞術

──今回「変えるのうた」や「探し物」のプロデュースを手がけたいしわたり淳治さんには、歌詞の面で学ぶところが多かったそうですね。

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はい。「カッコいい男じゃないとカッコいい音楽はできないぞ」って言われたのが印象に残ってます。あと言われて一番悔しかったのは、「お前、鮭の切り身がいくらかわかるか?」って訊かれたので、「250円くらいですかね」って答えたら、「100円で買えるんだよ。そんなことを知らないやつにいい曲は書けないぞ」って言われて。あまりに悔しかったんで、スーパーへ鮭の値段を見に行ったんです(笑)。もちろん、そういう話ではなく、「経験をしろ」ってことなんですよね。そんなことすらわからなかった当時の僕に、淳治さんは包み隠さず本当にいろんなことを教えてくれたんです。

──例えば?

言われて、よく覚えているのは「メロディが生まれたとき、言葉はその中にあるんだよ」っていう話ですね。「その言葉をそのまま書けばいいだけだよ。最高のメロディがここにあるんだから簡単だよ。じゃ、やってみようか」って言って、曲を何度も聴きながら歌詞を書こうとしている僕の横で淳治さんはずっと待っているんですよ。そして、「できました!」って言って書いた歌詞を見せたら、「これでいいならいいけど、俺だったら、この言葉は使わないな」って言って、どこが良くないかを説明してくれるんです。それがあまりにスゴくて、何も返せないっていう(笑)。そうやって歌詞は徹底的に突き詰めていきましたね。

もっともっと大きな人間になりたい

──メンバーの脱退は図らずしてストレートな歌詞を歌うための人間力や経験を高津戸くんに与えたというか、そうやって得たまっすぐな歌の力強さはこのアルバムの大きな魅力になっているな、と。

そうかもしれないですね。「doors」が出来上がったとき、自分でも「この曲を書くために自分は苦しんでいたんだな」って思ったんですよね。ただ、この曲で完結したわけではなく、まだまだその先の表現を探していくとは思います。というのも、今振り返ると、前作は弱音を吐いたままの曲が多かったし、自分自身に甘えていた。でも、一人暮らしを始めてみて、自分1人でできないことがいかに沢山あるか。そのカッコ悪さが身に染みたりもするし、逆に親だったり、周りに対する感謝の気持ちが生まれたり。まだまだ、そんな段階なので、そうやって、音楽と共に生活していく中で、気付いたものを糧に、もっともっと大きな人間になりたいなって思っているんです。

──新体制となったDirty Old Menですが、バンドとしては今後、どんな方向に向かうことになりそうですか?

新たに加わった2人は歌とか歌詞を大切にしているバンドが好きなんですね。だから、僕の歌と演奏は今まで以上にバンドに寄り添っていくと思います。そして、彼らはこれまでいろんな経験をしてきているんです。技術的に優れているのはもちろんですけど、ハードコアやメロコアのバックグラウンドがあったり。例えば、ドラムは前のバンドでラップを披露していたり、ベースはデスボイスも出せるんですね。だから、そういう要素も入れたい……というのは冗談ですけど(笑)、これまではメンバーの技術的な制約でできなかったことも今は可能になったので、バンドアレンジの幅が今後広がっていくことは間違いないですね。前のメンバーにはもちろん感謝していますし、彼らと過ごしてきた時間は最高だったと思っているんですけど、今の体制になって、また、さらに音楽が楽しいんですよ。そして、楽しければ、いい曲ができるし、前に進んでいくための勇気にもなるんだろうなって。今はそう思っていますね。

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ニューアルバム「doors」2012年5月2日発売 / 3045円(税込)/ UNIVERSAL SIGMA / UMCK-1415

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CD収録曲
  1. doors
  2. 変えるのうた
  3. スターチス
  4. 言葉探し病
  5. ただ君を想う
  6. 探し物
  7. ふたり
  8. a heart of difference
  9. コウモリ
  10. 何度も
  11. I'm on your side
  12. シアワセノカタチ
Dirty Old Men(だーてぃーおーるどめん)

高津戸信幸(Vo, G)、山下拓実(G)、渡辺雄司(B)、岡田翔太朗(Dr)の4人からなるロックバンド。2004年に栃木県宇都宮で結成し、インディーズ時代にシングル1枚、ミニアルバム3枚、フルアルバム1枚を発表している。2010年5月にはミニアルバム「Time Machine」でメジャーデビュー。翌2011年2月にはメジャー1stアルバム「GUIDANCE」をリリースし、ツアーや「ROCK IN JAPAN FES.2011」などの夏フェスに精力的に出演した。しかし、2012年3月にオリジナルメンバーだった山田真光(B)と野瀧真一(Dr)が脱退。新たに岡田翔太朗(Dr)と渡辺雄司(B)が加入し、5月2日に2ndアルバム「doors」をリリース。