ナタリー PowerPush - Dirty Old Men

メンバー脱退を経て生み出された快作「doors」

昨年2月のアルバム「GUIDANCE」に続く新作のレコーディングを進めながら、バンドの屋台骨となるベースとドラムの脱退という危機に見舞われた4人組バンド、Dirty Old Men。さらに歌詞が書けなくなるという問題にも直面したボーカル&ギターの高津戸信幸は、それでも彼を支えたギターの山下拓実と共に苦しみながら前に進んだ。そして、新たにメンバーとなったベースの渡辺雄司、ドラムの岡田翔太朗からなる新メンバーと共にニューアルバム「doors」を完成させた。七転八倒の末に得たこの作品の真っ直ぐな力強さと説得力は、Dirty Old Menの前で固く閉ざされていた成長への扉を今まさに大きく開け放とうとしている。

取材・文 小野田雄 / 撮影 高田梢

絶対Dirty Old Men辞めないから

──今作の制作中にドラムの野瀧真一くんとベースの山田真光くんがバンドから脱退しました。まずはそこからお話を伺いたいんですが、以前から2人が脱退する兆候はあったんですか?

インタビュー写真

正直言えば、ずっと前から辞める辞めないっていう話は出ていたんです。でも、一緒にやってきたこの4人がDirty Old Menだと思っていたので、なんとか2人が辞めないようにつなぎ止めていた状態だったんです。僕自身、所属事務所を何度も変えてきたこともあって、ずっと変わらないものを求めていたんです。その変わらないものが僕にとってはバンドだったんです。

──でも、それは叶わなかった、と。

今思えば、そういうつなぎ止める行為それ自体が逆にダメだったというか。お互い言いたいことも言えなくなってしまって、バンドのあるべき姿からどんどんかけ離れていってしまった。そして、9月にドラムの脱退が決まったんですけど、ドラムとの技術的なバランスがうまく取れていなかったベースにがんばってバンドを続けてもらいたい一心でハードな練習を続けたら、今度はベースとの間もおかしくなって。話し合いの末に「音楽をやるのが辛くなった」ということだったので、10月にベースの脱退が決まったんです。

──リズム隊が抜けてしまったら、バンド自体、続けることが難しいというか、解散しても不思議ではない状況だったんじゃないかと思うんですね。

解散は、もちろん考えました。そもそも、Dirty Old Menは抜けたベースとドラムの3人で高校生のときに組んだバンドだったから、2人がいなくなっちゃうなら俺は1人で音楽を続けようかなって。でも、そんな状況を救ってくれたのがギターの(山下)拓実くんでした。作詞作曲、ボーカルを担当している僕にとって、メンバーの脱退というのは人格を否定されたような感じだったんです。それですっかり自信を失った僕は「もう無理だよ。解散だよ」って言ってたんですけど、それに対して、彼はすごいポジティブで、「俺、ヤダよ。絶対、Dirty Old Men辞めないからね!」って言ってくれて。

──支えてくれた、と。

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そうですね。僕は「これだけ信頼してついてきてくれるヤツがまだいるんだ」って思ったし、決まっていたライブを続けていく中で、お客さんの顔を観て、「やっぱり、自分は音楽と一緒じゃなければ生きられないんだな」って思ったんですね。だから、メンバー2人が脱退することが決まっている状態でツアーを続けながら、拓実くんと新しいメンバーを探していたんです。ただ、アルバムの曲作りや、実質拓実くんと2人で動いていた自主企画イベント「Don't Stop Music」、それから僕は地元の栃木から腹をくくって東京に引っ越したんですけど、そうやって全てをいっぺんにこなさなければならなくて、その時期は本当に辛かったですね。

挫折を糧にして書いた「doors」

──今回のアルバム「doors」は、そんな状況下で作られていったわけですね。

作業は1年3カ月ずっと続けていたんですけど、状況が状況だっただけに、今回はコンセプトアルバムではなく、曲単位で考えたアルバムになりました。新メンバーがもっと早く決まっていれば、もっと早く完成させられたと思うんですけど、ただ、こうやって暗い話ばっかりしてきましたけど、新しいメンバーと出会って、自分の気持ちも変わったことで、過去の話もこうやってできるようになりましたし、今は音楽をやるのがものすごく楽しいんです。

──ベースの渡辺雄司くん、ドラムの岡田翔太朗くんという新メンバーで臨んだ今回の1曲目「doors」以下、「a heart of difference」と「コウモリ」という3曲はいい雰囲気で録音された、と。

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そうですね。あんなに書けずに苦しんでいた歌詞も去年の経験を経て、「doors」では自分の気持ちそのままにすっと書けたんですね。しかも、この「doors」が作品全体を象徴しているように思えたんです。

──と言いますと?

一時期は音楽が嫌いになりそうだったけど、僕はやっぱり音楽が好きだし、自分を守るように変わらないものを探していた時期を経て、いろんなことに挑戦したいと思える今があるのも挫折を糧にしたからなんですよね。そういう思いを「doors」に込めたことによって、扉の前で立ちすくんでいる誰かの背中を押すことができるといいなって思いましたし、そんなふうに聴いてもらえるアルバムにまとまったんじゃないかなって。

ニューアルバム「doors」2012年5月2日発売 / 3045円(税込)/ UNIVERSAL SIGMA / UMCK-1415

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CD収録曲
  1. doors
  2. 変えるのうた
  3. スターチス
  4. 言葉探し病
  5. ただ君を想う
  6. 探し物
  7. ふたり
  8. a heart of difference
  9. コウモリ
  10. 何度も
  11. I'm on your side
  12. シアワセノカタチ
Dirty Old Men(だーてぃーおーるどめん)

高津戸信幸(Vo, G)、山下拓実(G)、渡辺雄司(B)、岡田翔太朗(Dr)の4人からなるロックバンド。2004年に栃木県宇都宮で結成し、インディーズ時代にシングル1枚、ミニアルバム3枚、フルアルバム1枚を発表している。2010年5月にはミニアルバム「Time Machine」でメジャーデビュー。翌2011年2月にはメジャー1stアルバム「GUIDANCE」をリリースし、ツアーや「ROCK IN JAPAN FES.2011」などの夏フェスに精力的に出演した。しかし、2012年3月にオリジナルメンバーだった山田真光(B)と野瀧真一(Dr)が脱退。新たに岡田翔太朗(Dr)と渡辺雄司(B)が加入し、5月2日に2ndアルバム「doors」をリリース。