DIR EN GREY|司令塔・薫が思い描く行く末

ただちゃんと届けるために

──今回の新曲「落ちた事のある空」はいつ頃作られたんですか?

これは去年からあったものですね。ある程度自分で仕上げたところでメンバーに持っていって、みんなでいじくってやってたんですけど、自分が「これだ!」となるポイントがなかなか見つけられなくて。完成した曲の状態を100%だとすると、最初に「みんなでこれをやってみようか」となったときはまだ5%ぐらいだったんですよね。そこから歌や各々の楽器が入ってきて20%ぐらいになる。さらにそこから曲の方向性をどこに持っていくのかっていうところですごく時間がかかるんです。それが定まれば一気に70%ぐらいまでたどり着くんですけど。70%になったらまたみんなに持っていって、そこから100%にしていく感じです。

──最初からバシッと決まるときもあるんですか?

ありますが、そういう曲はアルバムの中でも数曲くらいですね。

──DIR EN GREYの曲は、非常に緻密に構築された複雑なものが多いことにも関係してきますか?

どうなんですかね? 自分が迷っちゃうだけっていうのもありますけどね。どういう方向がいいのかなっていうところで、ずっとあっち行ったりこっち行ったりしてるので。

薫(G)

──前のシングル(2019年9月発売の「The World of Mercy」)のタイミングでお話を伺ったときは、常にペダルは漕ぎ続けてないと、なかなか創作は前に進まないものだとおっしゃっていましたね。そうやって常に音源を作ったりいじったりすることで、だんだんとうまく回転して曲になっていくと。

そうですね。だからサボってるとサボってるだけ、どんどん後退していく。今の状況だといろいろなことが気になってしまうので、なかなか身が入りにくい。だから今回は時間がかかったところもありますね。

──今回のシングルは配信のみでフィジカルでは出さないんですよね。初めての試みだと思うのですが、どういう意図でしょう?

もともと7月にぴあアリーナMMでのライブが決まっていたので、その前後でシングルを出そうっていうことは去年から話していたんです。そこに向けての制作は続けていながら、ライブもどうなるかわからないという中で、シングルをリリースする時期を発表したときはCDショップも営業自粛していたので、実際にフィジカル作品での予約を始めてもどれだけ予約が来るかわからないし、お店からの発注がどれだけあるかわからない。そんな中でCDを制作することに意味があるのかなと思ったり、実際にお客さんがお店に足を運んでCDを買う行為ができるかどうかもわからなかったので、通販にするよりはデジタルでみんなが確実に手に入れることができる状態で販売するのがいいんじゃないかと。いつものようにフィジカルだけ販売するのであれば、リリースの発表をせずに先延ばしにしていたと思うんですよ。でも、こういう状況なので少しでもファンに向けて前を向いている情報を出せたほうがいいんじゃないかと思って、曲を届けるということに重きを置いた形です。

──なるほど。これまで配信よりもフィジカル / パッケージに力を入れていたのは、バンドのこだわりですか?

そうですね。自分たちがそこで育ったというか、聴き手としてCDのブックレットなどを含めてアーティストが出すすべての表現を受け取りたかったので、やっぱりCDに関してはそこに一番こだわっていたところではありますね。

──世界的にストリーミングがリスニングにおいて主流になりつつある……というよりは、もはや完全に主流になっている状況ですよね。

ええ。でも、日本はまだCDが売れているほうなので、やっぱり手にする人がいる限り出していこうっていう気持ちなんです。逆に続けていくことにこだわりを覚えるようになりました。CDを購入する人たちを離さないというか。

──ストリーミングでリリースすることは新しいリスナーにリーチしやすくもなります。今回の配信リリースに関してはそういう意味合いもあるんですか?

いや、そこはあまり考えてないですね。いろんな人に聴いてもらえるからデジタルにしたという考えではないです。ただちゃんと届けるという気持ち。どんなところにいる人でも、リリース日に聴けることを大事にした感じです。

芯のある音を求めて

薫(G)

──今回のシングルを聴いて一番感じるのは、音響バランスが以前とだいぶ違ってるんじゃないかと。特にセルフカバー「CLEVER SLEAZOID」の中低域の厚いサウンドデザインがこれまでと全然違うので、これが今のDIR EN GREYのモードなのかと思いました。

年々芯のある音を求めている感はありますね。芯がドンとある方向に音を作っています。だから今回のギターに関しては、前ほど歪んでいるような音作りはしてないです。わりとオーソドックスな音出しですね。

──今回の表題曲ではミックスエンジニアにジョシュ・ウィルバーを起用してますね。

ジョシュはいろんなものをやられている方なんですよね。メタルだけでなくポップバンドのミックスもしてる。これまで一緒にやってきたメタル寄りのエンジニアだと、こっちの要望をあんまりわかってくれなかったりしたんですよ。エンジニアが“自分のサウンド”にしちゃうことが多くて。ジョシュも、最初に上がってきたミックスは思っていたものとはわりと違う方向だったんですよ。でも、「こうしてほしい」と伝えたらすぐに調整してくれた。全然いろいろなことをやれる人なんだなと思って。ハマってよかったなと思ってます。

──合わないままだったら、どうされるつもりだったんですか?

自分で変えるしかないかなって。

──いつもやっているエンジニアの方もいらっしゃると思うのですが、そうじゃなくて新しい人に頼みたいというのは、新しい面を開拓する意味もある。

今回はシングルなので、次のアルバムをどういうふうに進めるのかということを念頭に置きつつ、新しいことを試してみたほうがいいんじゃないかと。ジョシュはアルバムのエンジニア候補の中の1人ですね。