ナタリー PowerPush - 電気グルーヴ

卓球と瀧が歌う理由

まりんはやっぱり話が早い

──エンジニアについてはどうでしょうか。

卓球 シングルで松本靖雄とひさしぶりに一緒にやりましたね。

──それによって得られたものは?

卓球 彼は歌の処理がすごくうまくて、メジャー感があるんですよね。あと高音の処理の仕方がほかのエンジニアと比較にならないくらい緻密できれいなんで。

 舞台の配置がパキッと明確になりますよね。

卓球 舞台って定位のこと? 役者はすごいね。なんでも芝居に例えちゃうもんですから。こないだテレビのこと「電気紙芝居」って言ってたもんな(笑)。

──渡部高士さんは「20」に引き続き多くの曲を手がけてますね。

卓球 うん。高士が一番長いかな。仕事した回数が多いから、話が早いんですよ。彼の場合だと、エンジニアリングだけじゃなくてマニピュレータ的な資質もあるんで「このシンセの音を使ってるんだけど、イメージとしてはもうちょっとこういう感じがいいんだよな」っていうと、すぐ音を差し替えてくれて。そういうことって普通エンジニアの人ってあんまりやらないんだけどね。

──そういうことも含めてもうツーカーというか、ずっとやってる人たちと一緒だと作りやすいというのもありそうですね。

卓球 でもまあ、だいたいいつもそんな感じですけどね。今回は時間的にも限られてたし、本当はもっと新しい人ともやりたいなと思ってるんですけど。

──「Missing Beatz」で砂原良徳さんと益子樹さん(ROVO)がミックスに参加したのは、そういう意味も込めて?

卓球 まりんは新しくないじゃん(笑)。でもまあ確かに、ちょっと違う気分でミックスっていうのもいいかなと思って。まりんとはしょっちゅういろんなとこで顔合わせてたんですけど、そのときにたまたま「君、ミックスだけってやるの?」って聞いてみたら「ぜんぜんやるよ」って言うので、じゃあ面白いから1回頼んでみようかってお願いしたんです。そしたら、やっぱり話が早いんですよね。

俺らは遭難してる

──そのように音楽に没頭できる環境や周辺の人々がいて、マイペースに制作を続けられるというのはけっこう珍しいというか、恵まれてますよね。メジャーデビューして以来レコード会社の移籍もなくずっと。

 恵まれてるとも言えるけど、作り上げてきたとも言えると思います。この現状は与えられたものじゃない。別に誰かに言われてその人たちを選んだわけではないから。今まで長年積み重ねてきた経験と、意思の疎通で環境を作ってきたんだと思いますけどね。

卓球 ただ、わかんないですよ。売れなかったらすぐ契約を切られるわけだから。「恵まれてた」って言われてしまうと「それなりにこっちもがんばってきた」って気がしてくる。

──もちろん結果を出し続けてきたから現在があるわけですけど、たぶん今の電気グルーヴのポジションをうらやましく思っている若いミュージシャンは多いと思うんですよね。

卓球 妬ましくね(笑)。まあ、時代も違うしやってることも違うからしょうがないと思いますよね。うちらのやり方って制作の方法も、プロモーションの方法も、ほかの人たちには一切役に立たないから。それを参考にしたところで意味がないっていうか。

──確かにそういう道を歩んできた人って、似たタイプの人すらいないですよね。けもの道を切り開いてきたというか。

石野卓球

 切り開いて道を作ったって、使う人がいなくて草生えちゃったらまたけもの道に逆戻りだもんね。

卓球 だって自分らが通れりゃいいんだからさ(笑)。知らないですよ。

 けもの道の真ん中で後ろに草が生えてきて道が閉ざされちゃってる感じ。俺ら遭難してるようなもんですよ。

卓球 だから前に行くしかないもんね(笑)。でも、それがうらやましいなんて若い人たちからひと言も聞いたことないですけどね。

 俺がやってることを見て「あれと一緒になっちゃマズい」と思ってるかもしれない(笑)。

卓球 瀧になりたい人、お笑い芸人だったらいそうだけど(笑)。「あのスタンスおいしいよなー」みたいな。

 「印税もちょっと入ってくるらしいな、あいつ」っていう(笑)。

卓球 しかも普通のバラエティ番組に出たときも、お笑い芸人じゃないからそこまで笑いも求められないという。ボケっぱなしでもOKっていう。スベろうとおかまいなし(笑)。

 「シュール」っていう括りに甘えちゃってますよ。「今回は面白いことを一切言わないっていうシュールさでしたね」って褒められる(笑)。

卓球 存在がシュールだから(笑)。

──そのポジションも自分で作ってきたんですしね。

卓球 作ろうと思って作ったわけじゃないよ(笑)。

 流れ流されてここに漂着したってだけの話で。

卓球 日本海側によく打ち上げられてる、ハングル文字が書かれたポリタンクみたいなもんです(笑)。

40代のおちんちん

──お2人を見ているとずっと楽しそうにやってるように見えるんですけど、実際どうなんですか?

卓球 楽しくないことも面倒くさいこともそりゃありますよ。こういう取材とか(笑)。でもメディアとかでそれを表に出しても得にならないっていうか。

──制作での苦労は?

卓球 制作は大変だとは思うけど、それはあって然るべきものでしょ。まあただ、今回のレコーディングは苦しい部分がなさすぎて逆にちょっと不安になったけど。

 どんな仕事でも苦労は絶対ある。マグロ漁船に乗る人だって、釣れるまではなかなかしんどい場面もあるはずだけど、嫌だからやめるのかって言ったらそういうわけにもいかないでしょ。あ、でもマグロ漁船は嫌々乗ってる奴もいるかもしれないから違うな(笑)。

卓球 例えが極端すぎるんだよ(笑)。まあ、仕事に関してはある程度の覚悟ができてるから大丈夫なんですけど、本来だったらしなくてもいいような予期せぬことが起こるのがキツいですね。こういう取材とかはやるべきことじゃないですか。そうじゃなくて、自分たちの意思とは裏腹に物事が進んでいってしまって、それを処理しなくちゃいけないみたいな場面が一番キツいかな。とは言ってもそんなシリアスな話じゃないですけどね。

 でも昔と比べれば、どんなことでも飲み込んでやれるようになってます。昔は嫌なことは一切やんなかったし。こういう場に来ないとか余裕であったけど。

卓球 大人になりましたよ。仕事に行くようになった(笑)。

 でもそういうのが物足りない人たちもいるでしょ(笑)。

──「もっとめちゃくちゃやってくれ」みたいな。

 そうそうそう。

卓球 それは無理でしょう。だって20代でおちんちん出すのと40代でおちんちん出すの違うもん。40代のおちんちんは笑えないんだもん。

 おちんちん出さないからって「丸くなったな」「裏切りやがって」って(笑)。

卓球 何を期待してるんだ(笑)。最終的に、ステージで俺とお前で刺し違えるとこまでいかないと納得されないよ。

くまぇりだもんな

──最後に1つだけ聞いておきたかったんですが、「電気グルーヴ」を略すときはなんて呼べばいいですか?

 なんだってよくない?(笑)

卓球 ああ、俺が最近Twitterで「電グル」って書いてるからでしょ? あれは「電気」って書くと検索できないし、「電気グルーヴ」だと文字数とっちゃうから。あと「電グル」って書くと「卓球が電グルって言ってる!」ってザワついて広がるでしょ。それが理由です(笑)。なんだっていいんですよ別に。

──昔ファンの間で「電気グルーヴは『電気』なんだ! 『電グル』って言うな!」みたいな風潮があったじゃないですか。

 だからそれ、俺らから発信したわけじゃないからね。

卓球 炎上マーケティングってやつ? 名前の呼び方変えただけで(笑)。

 炎上マーケティングって要は放火魔だもんね。

卓球 くまぇりだもんな(笑)。

左から石野卓球、ピエール瀧
ニューアルバム「人間と動物」 / 2013年2月27日発売 / Ki/oon Music
「人間と動物」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3990円 / KSCL-2200/1
通常盤 [CD] / 3059円 / KSCL-2202
アナログ盤 [アナログ2枚組] / 3990円 / KSJL-6165/6
CD収録曲
  1. The Big Shirts
  2. Missing Beatz(Album version)
  3. Shameful(Album version)
  4. P
  5. Slow Motion
  6. Prof.
  7. Upside Down(Album version)
  8. Oyster(私は牡蠣になりたい)
  9. 電気グルーヴのSteppin' Stone
初回限定盤DVD収録内容

電気グルーヴ LIVE at WIRE12 2012/08/25

  • Hello! Mr. Monkey Magic Orchestra
  • SHAME
  • SHAMEFUL
  • Shangri-La
  • キラーポマト
  • 誰だ!
  • wire, wireless
電気グルーヴ (でんきぐるーぶ)

電気グルーヴ

前身バンド・人生での活動を経て、石野卓球とピエール瀧を中心に1989年結成。テクノ、エレクトロを独特の感性で構成したトラックと、破天荒なパフォーマンスで話題になる。1991年にアルバム「FLASH PAPA」でメジャーデビューを果たし、同年に砂原良徳が加入(1998年に脱退)。1990年代の音楽リスナーに本格的なテクノを啓蒙する役割を担いつつ、1994年の「N.O.」や1997年の「Shangri-La」などではシングルヒットも記録する。2001年から2004年の活動休止期間を経て、2005年にはスチャダラパーとのユニット「電気グルーヴ×スチャダラパー」としても活動。その後、2008年にアルバム「J-POP」「YELLOW」、2009年に結成20周年記念アルバム「20」を立て続けにリリースし、その存在感を見せつけた。2011年4月にはベストアルバム「電気グルーヴのゴールデンヒッツ~Due to Contract」とPV集「電気グルーヴのゴールデンクリップス~Stocktaking」を同時リリース。2013年2月に通算13枚目のオリジナルアルバム「人間と動物」を発表した。