ナタリー PowerPush - 電気グルーヴ

卓球と瀧が歌う理由

声のピッチを下げると瀧になる

──2人でお互いにボーカルディレクションというか、「ここがダメだからもっとこうしよう」みたいなやり取りはするんですか?

 僕のパートに関してはしてもらってますよ。

卓球 例えば「もうちょっとこういう歌い方で」とか。今はコンピュータが発達してるからピッチはいくらでも直せるんだけど、ニュアンスってコンピュータではどうにもできないから、その部分だけです。普通に歌っちゃうと朴訥としちゃうこともあるから「もうちょっと低音部に力を入れて」とか、「悪い声で」とか。瀧はまあ役者なんで。

 最初に歌詞を書いて試しに歌ってみるときに、普通に朴訥として歌ったり、ちょっとガナって倍音多くしたり、ダブルに声を重ねたり、音程を高くしたり低くしたり、歌詞と曲のなじみかたとかバランスを考えて臨機応変にいろいろやってますよ。最近はそれを自分でもやるようになったし、こいつが指示する部分もあったりとかして。

卓球 「語尾ちょっと短くね?」とかね。でも自分が歌って「これはないな」っていうのは本人もわかるから。模索してる感じだったり方向がわかんなくなってたときにこっちからアドバイスするし、あとはこっちが明確に「瀧のこういう声がほしい」っていう場合は最初から言うしっていう感じですね。

 どう歌えば曲と歌詞がハマるのかは、やっぱいろいろやってみないと正解がわからないから。

石野卓球

卓球 電気グルーヴの曲は声の音域でだいたいのパートを分けてるんですよ。で、実は2人の声はすごく似てて、俺の声のピッチを下げると瀧みたいな声になる。

 で、俺の声を上げるとこいつの声になるんですよ。本当に。

卓球 だから実は過去のアルバムとかで、瀧の声だと思われてるところを俺が歌ってたり、俺が歌ってると思われてるところを瀧が歌ってたりっていうのがけっこうあるんですよ。わざとそうしたりする場合もあるし。

──瀧さんから見て卓球さんのボーカルについては、どう感じてますか?

 歌がうまいというより、やっぱり声っていう意味では非常に魅力があると思いますよ。そこを好きなお客さんがいるのも、まあそうだろうなって思いますね。

10年前に弾いたベースです

──今回クレジットを見ると、卓球さんのところにベースと書いてありますよね。

卓球 「電気グルーヴのSteppin' Stone」だけなんですけどね。この曲は10年前にデモを作ってて、そのときに弾いたものです。実際の音源で本来のベースの位置で鳴ってる音はSLY MONGOOSEの笹沼(位吉)くんが弾いてるんですけど。

──10年前のデモ音源はなんのために作ったものなんですか?

卓球 当時ベースギターを買ってうれしかったんですよ。弾けないんだけど、ショートスケールの16万円くらいするけっこういいやつを買って。その音がすごくよかったから、ベースを使っていろいろやってみようと思ったんですね。ピーター・フック(ex. NEW ORDER)みたいに高いところで歪ませて弾いたりとか。自分のスタジオで作業してて時間もたっぷりあったんで。そのときに作ったのが「弾けないギターを弾くんだぜ」とか「Mr.EMPTY」「中年パンク」みたいな、一連のテンポが速いロックぽいやつ。その流れでTHE MONKEESの「(I'm Not Your)Steppin' Stone」のカバーも作ってたんですね。で、発表しないままずっと宙に浮いてたんですけど、今回このアルバムの内容だったらちゃんとハマるだろうってことで。

──10年越しで新作に入るなんてことあるんですね。

卓球 ありますあります。さすがに10年っていうのはけっこう珍しいですけど。

 古いのが発掘されるんですよ。

卓球 クラブトラックだとすぐに風化しちゃってボツになるけど、電気グルーヴの曲はそういうことありますよ。特に「(I'm Not Your)Steppin' Stone」のカバーはいつか出したいなと思ってたんで。でもたぶん、作ったことも忘れてるようなのもいっぱいあるんですよね。まだコンピュータの中にデータが残ってるだけまだマシなほうで、DATとか使ってた時代のものは聴きなおすのにも時間がかかるんでもうそんな気にもならないし。

おちんちんでシンセいじればいいんだ

──機材などの制作環境にも特に変化はなく?

卓球 そんなに変わらなかったんですけど、新しく自宅の中にスタジオ作って、そこで制作するのは今回が初めてで。機材が前のスタジオに置かれたままだったりして、まだ自分のスタジオも完全にできあがってるわけじゃないんで、今までに比べるとソフトシンセの比重が多くてハードウェアが少ないかもしれないです。ハードシンセ使うと時間かかるんですよ。1回録っちゃったら直しがきかないから、毎回録り直す作業で行ったり来たりしなきゃいけないんだけど、それはソフトシンセを使ったおかげでなくなりました。

──実機へのこだわりみたいなものは?

卓球 いや、実はもうそんなにないです。単純にハードシンセで作ってると楽しいから今後も使っていくんですけど、ソフトシンセは今すごい進化してるから、音質に関しては正直、ブラインドテストしたらわかんないんじゃないかな。だったら機動力があるほうがいいかなって。

ピエール瀧

 まあでも俺から見てて、使い慣れたアナログシンセでツマミいじったほうが使いたい音に早めにたどり着くっていうのはありますけどね。欲しい音をライブラリから「えーっと」って探すより、アナログシンセのほうがイメージが消えないうちに音作りができる気がする。

卓球 パラメータが多すぎると可能性がありすぎて、何を目的にしてたのか忘れちゃう場合があるんですよね。

──10代からツマミをいじってた機材なら、体で覚えてる部分もありますしね。

卓球 そうですよ。いじってる時間の長さで言えばおちんちんと同じくらいですよ(笑)。

 だからおちんちんでシンセいじればいいんだよ(笑)。

ニューアルバム「人間と動物」 / 2013年2月27日発売 / Ki/oon Music
「人間と動物」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3990円 / KSCL-2200/1
通常盤 [CD] / 3059円 / KSCL-2202
アナログ盤 [アナログ2枚組] / 3990円 / KSJL-6165/6
CD収録曲
  1. The Big Shirts
  2. Missing Beatz(Album version)
  3. Shameful(Album version)
  4. P
  5. Slow Motion
  6. Prof.
  7. Upside Down(Album version)
  8. Oyster(私は牡蠣になりたい)
  9. 電気グルーヴのSteppin' Stone
初回限定盤DVD収録内容

電気グルーヴ LIVE at WIRE12 2012/08/25

  • Hello! Mr. Monkey Magic Orchestra
  • SHAME
  • SHAMEFUL
  • Shangri-La
  • キラーポマト
  • 誰だ!
  • wire, wireless
電気グルーヴ (でんきぐるーぶ)

電気グルーヴ

前身バンド・人生での活動を経て、石野卓球とピエール瀧を中心に1989年結成。テクノ、エレクトロを独特の感性で構成したトラックと、破天荒なパフォーマンスで話題になる。1991年にアルバム「FLASH PAPA」でメジャーデビューを果たし、同年に砂原良徳が加入(1998年に脱退)。1990年代の音楽リスナーに本格的なテクノを啓蒙する役割を担いつつ、1994年の「N.O.」や1997年の「Shangri-La」などではシングルヒットも記録する。2001年から2004年の活動休止期間を経て、2005年にはスチャダラパーとのユニット「電気グルーヴ×スチャダラパー」としても活動。その後、2008年にアルバム「J-POP」「YELLOW」、2009年に結成20周年記念アルバム「20」を立て続けにリリースし、その存在感を見せつけた。2011年4月にはベストアルバム「電気グルーヴのゴールデンヒッツ~Due to Contract」とPV集「電気グルーヴのゴールデンクリップス~Stocktaking」を同時リリース。2013年2月に通算13枚目のオリジナルアルバム「人間と動物」を発表した。