ナタリー PowerPush - DEEN
サマーリゾートを彩る 洋楽カバーアルバム
テンポの揺れを100分の1秒単位で完コピ
──確かにトータルの再生時間も昔の46分テープにしっくり収まる長さで。昔のお手製カセットテープを思い出させてくれる雰囲気もありますよね(笑)。具体的なアレンジ面で特に意識した点というと、どういう部分ですか?
田川 変にDEENらしさを出そうと意識しすぎないこと、かな。かなり忠実なコピーに徹している曲と、アレンジ的に攻めている曲。それぞれバランスの違いはありますが、原曲へのリスペクトは最大限に払うよう常に意識しています。
山根 これが10年前だったら、いかにも今っぽいアレンジにがらっと変えていたかもしれません。でも今は、オリジナルを尊重しつつ普通に演奏すれば、それだけでDEENの持ち味が自然に出るはずだと思える。その意味では、自分たちが通ってきた道にようやく自信が持てるようになったのかもしれないですね。あとは実際問題、この頃の曲って本当によくできていて。いざカバーしようと思って向き合うと、逆にいじれなくなるのも事実なんです。例えば「So Much In Love」のコーラスなんて典型的ですが、技術的には今よりずっと制約が多かったはずなのに、声の重ね方ひとつとっても説得力がすごくて……。
田川 プレイヤーとしてもアレンジャーとしても、本当に勉強になったよね。1曲目「アメリカン・モーニング」などは、原曲を細かく分析してみると、ものすごく微妙にテンポが揺れてるんですよ。後半になるにつれて歌い手の感情が高まり、それに応じてギターのテンポ感もちょっとだけ速まっていく。それがなんとも言えない気持ちよさを生んでいるんですね。今回のカバーでは、実はその揺れを100分の1秒単位で完コピしています。そういう原曲の持つ人間くさいグルーヴを、21世紀らしいクリアな音の解像度で再現したかったんですよね。
池森 へええ、そうなんだ。全然知らなかった。
田川 大丈夫、すべては池森に気持ちよく歌ってもらうための工夫だから(笑)。かと思うと、ディストーションのかかったエレキソロをフィーチャーした「California Girls」みたいに、かなり攻めてるアレンジもあって。原曲を尊重しつつ、どこまで自分らしさを盛り込むか。その最適なバランスを1曲ごと探っていく作業が、個人的にはとてもスリリングでした。オリジナルと聴き比べてもらうのも、アルバムの楽しみ方として1つ面白いと思いますね。
池森が歌うことでDEENの歌になる
──今回は9曲すべて英語ですが、ボーカルの面では何を一番大切にしましたか?
池森 照れを捨てて、歌の主人公にしっかりなりきって歌うこと。僕は決して英語が得意じゃないけど、中途半端にごまかすのが聴いてて一番カッコ悪いでしょう。だからペラペラにしゃべれる気分になって。日本語のレパートリーと同じように気持ちを入れて歌う。もうそれに尽きます。あとはこの2人が緻密なコーラスワークとアレンジによって、ちゃんとオリジナリティのあるカバーに仕上げてくれる。
──それを特に強く感じたテイクを、あえて1つ挙げるとすると?
池森 みんなそうだけど、Bee Geesの「愛はきらめきの中に」なんて典型的かもしれないですね。僕、もともとこの曲は大好きで。今回もひたすらカバーできる喜びに身を委ねて、オリジナルとほぼ同じメインメロディを歌ってるんです。でもリーダーと田川がそこに一分の隙もなくコーラスを積み上げることで、仕上がりはまったく違う雰囲気になってます。21年一緒にやってますけど、やっぱりこの2人はすごい(笑)。改めて頼もしかったです。
山根 でも、それってアレンジャーから見ると逆なんですよね。例えば「愛はきらめきの中に」で言えば、Bee Geesのファルセットの記憶があまりに鮮烈すぎて、なかなか他の仕上がりをイメージできなかったりするでしょう。でも池森が歌うと、特にフェイクを入れたりしなくてもちゃんとDEENの歌になってくれる。その意味で「君がいる夏」はスムーズで取っつきやすい反面、歌力がすごくストレートに感じとれるアルバムになってるとも思います。
──アルバム最後にはボーナストラックとして、「瞳そらさないで」の英語バージョンも初収録されていますね。ちょうど20年前に初めてのオリコン1位を獲得した、言わずと知れたDEENの代表曲。英語でセルフカバーした感想は?
池森 やっぱり慣れてる楽曲なので。今回の9曲では、一番スムーズに歌いこなせた気がしますね。訳詞も気心の知れた知人が手掛けてくれましたし、感情の込め方も基本的には日本語で歌っているときと同じ。ただ難しかったのは、英語に置き換えるとセンテンスが簡潔になって、メロディに対して言葉が足りなくなっちゃうんですね。そこを必要に応じて補いつつ、新しい言葉で歌い直すのは新鮮でした。
これからもいろんな表情を見せるバンドでありたい
──さて、今年の10月12日には毎年恒例となりつつある武道館ライブ「DEEN LIVE JOY Special 日本武道館 2014」も控えています。最後に今後に向けた抱負を教えていただけますか?
池森 僕たちDEENにとってこの5年間はとても濃い期間でした。47都道府県のライブハウスを3人だけで回った完全アコースティック編成のツアーから、開放的なリゾートの雰囲気を楽しんでもらう「Summer Resort Live」、ヒット曲はほとんど演奏せずAORに特化したBillboard Live TOKYOのイベント、そしてデビュー当初から続けてきた大規模なホールライブ。いろんな挑戦が形になり、リスナーにもしっかり受け止めてもらって、バンドとしてかなり幅が広がった実感があるんですよ。今回の洋楽カバー集も、そんなチャレンジから生まれた1つの成果だと思います。願わくばこれからも自分で自分を型にはめてしまうことなく、いろんな表情を見てもらえるバンドであり続けたいなと。
田川 僕らのヒット曲しか知らない人が今回の洋楽カバー集を聴けば、「へえ、こんなオーガニックな感じの曲もやるんだ」と新鮮に感じてくれるかもしれないし。反対にリラックスモードの「Summer Resort Live」を楽しんだ人が武道館ライブを見れば、作り込んだエンタテインメントの醍醐味を再確認できるかもしれませんよね。そういうレンジの広さはこれからも大切にしていきたい。そして、長くバンドを支えてきてくれた人、ずっとライブに足を運んでくれているリスナーの方々に、感謝の思いをよりしっかりと伝えていきたいですね。
- 洋楽カバーアルバム「君がいる夏 -Everlasting Summer-」 / 2014年6月11日発売 / EPICレコードジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4968円 / ESCL-4215~16
- 通常盤 [CD] 3146円 / ESCL-4217
CD収録曲
- Just When I Needed You Most
- So Much In Love featuring Kasarinchu
- California Girls
- How Deep Is Your Love
- Reality
- The Loco-Motion
- Don't Worry, Be Happy
- Lucky
- Hitomi Sorasanaide -English Version-
初回限定盤DVD収録内容
- DEEN LIVE JOY-Break18~CIRCLE 20→21~ Final 2014/3/9 中野サンプラザ
DEEN Summer Resort Live ~4th wave~
- 2014年7月5日(土)
- 長野県 軽井沢大賀ホール
- 2014年7月6日(日)
- 長野県 軽井沢大賀ホール
- 2014年7月18日(金)
- 兵庫県 神戸新聞 松方ホール
- 2014年7月19日(土)
- 兵庫県 神戸新聞 松方ホール
- 2014年7月31日(木)
- 神奈川県 大さん橋ホール
- 2014年8月1日(金)
- 神奈川県 大さん橋ホール
DEEN LIVE JOY Special 日本武道館 2014
- 2014年10月12日(日)
- 東京都 日本武道館
DEEN(ディーン)
メンバーは池森秀一(Vo)、山根公路(Key)、田川伸治(G)の3人。1993年上杉昇(ex.WANDS)作詞、織田哲郎作曲による「このまま君だけを奪い去りたい」でメジャーデビューを果たす。同曲はCMタイアップもあり、新人にもかかわらずミリオンヒットを記録。翌年1994年にも「瞳そらさないで」がミリオンを達成し、1stアルバム「DEEN」は150万枚を超える売り上げを記録。2013年3月にデビュー20周年記念ベストアルバム「DEENAGE MEMORY」を発表し、10月には日本武道館2DAYS公演を成功させた。2014年6月11日、初の洋楽カバーアルバム「君がいる夏 -Everlasting Summer-」をリリース。7月から8月にかけて3都市を巡るリゾートライブ、10月12日には日本武道館公演を開催する。