モーニング×コミックナタリー PowerPush - 「神の雫」×DEEN
樹林伸(亜樹直)と池森秀一の作詞共作ソング 「心から君が好き~マリアージュ~」発売記念
ワインマンガの金字塔「神の雫」の原作者・亜樹直が、樹林伸名義で作詞を手がけたDEENのニューシングル「心から君が好き~マリアージュ~」が発表された。世界観のモチーフになっているのは、樹林とDEENのボーカル・池森秀一のふたりにとって創作には欠かすことのできないワイン。新曲はワインと音楽が見事“マリアージュ”した、上質なラブソングだ。
このコラボレーションを記念して、樹林と池森の特別対談が実現。畑違いの2人が明かす表現の共通点に迫る。
取材・文/麦倉正樹 撮影/杉山和行 取材協力/LittleMiracle
音楽もワインも知識は関係ない。楽しみ方は一人ひとりの中にある
──そもそもは、池森さんが「神の雫」の大ファンだったことから、今回のコラボレーションの話がスタートしたそうですね。
池森 はい。もともとワインは好きだったんですけど、あるとき知り合いから、「池森さん、『神の雫』っていうワインの漫画があるんですけど、知ってます? 絶対ハマりますよ」って言われて、まず1巻と2巻を買ってみて。それからすぐ、初めて“大人買い”をしたんですよね。本屋さんに行って、「これ、全部ください」って(笑)。で、それを全部読んで、ワインを飲むことはこんなに豊かなことなんだって、もう食に対する価値観が変わるぐらいのものがあって……ワイン自体のことはもちろん、そこに携わっている人たちのストーリーが、僕はすごい好きなんですよね。
樹林 や、照れますね(笑)。でも、割とこの漫画、アーティストの方で熱烈なファンって言ってくださる方が多くて……小説を書かれる方とかデザイナーの方とか、アーティスト系の方に、すごく読んでいただいているみたいなんですよね。だから、やっぱりワインっていうものに、何かそういう魅力があって、僕らはある程度、それをマンガの中に出せているのかなっていうふうには感じていますね。
池森 もうとにかく、僕が何に衝撃を受けたかっていうと、最初に1巻を読んでいたときに、ワインを飲んだ後、いきなりロックバンドの“クイーン”が出て来たっていう(笑)。あれにすごい驚いたというか、それから価値観が変わって……ワインを飲んだときに、「これは、ミュージシャンでたとえると誰かな?」って思ったりとかして(笑)。そうやって想像するだけで楽しいんですよね。
樹林 そういうのって、実は誰でもできるじゃないですか? 音楽もそうですけど、ワインも本来は、知識とかあんまり関係ないんですよね。その楽しみ方は、一人ひとりの中にあって。でも、その中に共通体験みたいなものが、ちょっとあるんですよね。音楽も、マイナーコードを聴いたときは、ちょっと切なく感じたり、メジャーだったら明るくなったりとかするじゃないですか? そういうのに近いものが、ワインの中にもあるんです。だからこそ、僕らが表現したものを、読者が共通体験として感じることができるっていう。
池森 あとはやっぱり、表現の仕方ですよね。僕も歌詞を書く表現者のひとりとして、言葉を詰めて行く作業の大事さはわかっているつもりなんですけど、樹林さんの表現は、本当に隙が無いというか、とても素晴らしいものがあって……だから今回、是非ということで、樹林さんに作詞のほうをお願いしたんですよね。
長い恋愛の先にある、幸福な瞬間みたいなものを表現できたら
──なるほど。そんなおふたりが共同で作詞をされたDEENの新曲「心から君が好き~マリアージュ~」ですが、これはもともと池森さんが書いた歌詞を、樹林さんにブラッシュアップしてもらうという形でお願いしたとか?
池森 そうですね。もともとは冬の歌として書いていたものを、今の季節に合うものに変えて欲しいっていうのはあったんですけど……あとはもう、好きなように料理してくださいっていう。
樹林 若い頃に音楽をやっていたり、作詞の経験も無かったわけじゃないんですけど、メジャーのミュージシャンの方の曲に歌詞をつけるのは、やっぱり初めての体験で。とりあえず、曲を聴きながら、1、2時間くらい考えてみたんですよね。マンガの原作もそうなんですけど、何か光景が浮かぶまで、じーっと考えて……そしたら何か光景が浮かんで来て、これはできるなって思ったんです。
池森 光景が浮かぶって、すごく大事ですよね。
樹林 で、最初は5月ぐらいの季節で入って行ったんだけど、何かちょっと僕の中ではしっくり来なくて、もう少し先なのかなって思ったときに……6月って雨が降るじゃないですか? そういう曇り空の中に、ふっと出て来る晴れ間みたいなイメージが浮かんで来たんです。それで、長い恋愛の先にある、幸福な瞬間みたいなものを表現できたらいいなって思ったんですよね。
──そう、もともとは普通のラブソングだったものに、樹林さんが“結婚”というテーマを加味して行ったそうですね。
樹林 もともとは冬の歌というか、冬でスタートする歌だったので、それを今の季節に変えるとなると、何か時間の流れみたいなもの、時間の縦軸みたいなものが出て来て……その先にあるのはやっぱり、結婚だろうっていう。だから、そういうところに行くのは、何か必然だったような気がしますね。
池森 や、本当にそう思いますね。何か最初は、冬のラブソングというか、全体的にモノトーンな感じのする曲だったんですけど、それが一気に花開いたっていうか、カラーになった感じがして、すごく良かったですね。
結婚って、お互い違う部分を持ち合いながらじゃないと続かない
──この曲のサブタイトルに、「神の雫」読者にはお馴染みの“マリアージュ”という言葉が入っていますが、改めて“マリアージュ”とは、どんなニュアンスの言葉なのでしょう?
樹林 お互いに足りないところを補い合ったり、あるいは似た部分で寄り添ったりっていう……そういう複雑なことなんですよね。ワインの世界で言う“マリアージュ”っていうのは。だから、それが結婚の歌として歌われるのは、すごく良いことだと思っていて。結婚って、お互い違う部分を持ち合いながらじゃないと、続かないじゃないですか? そういうものを、この曲を聴いて感じ取ってくれたら、嬉しいですね。
池森 素晴らしいです(笑)。そういうワインと食事の“マリアージュ”みたいなものを、僕が初めて体験したのは……実は僕、若い頃は、お酒がまったく飲めなかったんですよね。どっちかって言うと嫌い、酒飲みの場も嫌い、打ち上げも行かない、そういうタイプだったんです。
樹林 あ、そうだったんですか?
池森 はい。それがあるとき、レストランに行って、ステーキを食べて……それは、僕があんまり好きじゃないタイプのステーキだったんですけど、連れの人が赤ワインを飲んでいて、「これ飲んでみろ」って言われて飲んでみたら、「神の雫」じゃないけど、自分の中で何かがキラキラってなって(笑)。
樹林 (笑)。
池森 そのとき初めて、お酒を美味しいと思ったんですよね。で、その後にステーキを食べたら、これが劇的に美味しかったんです。肉には赤ワインが合うっていうのは聞いていたけど、初めて自分でそれを体験したときに、「あ、これだったら飲めるかも」って思って。それ以来、食事しながらワインを飲むようになったんですよね。
樹林 や、僕も実を言うと、昔はお酒があんまり好きじゃなかったんですよね。好きだなって思ったのは、ワインだけで……昔、アルバイトでサーブの仕事をしていたときに、余ったワインを飲んで、「わ、これは美味い!」って思って、そこからどんどんハマって行って。だから、池森さんがおっしゃったみたいに、そのときたまたま出会える一本っていうのが、やっぱりあるんですよね。
DEEN ニューシングル「心から君が好き~マリアージュ~(初回限定盤)」2012年6月27日発売 / Ariola Japan
収録曲
- 心から君が好き~マリアージュ~
- 雨がいつか上がるように
- Hello
- 心から君が好き~マリアージュ~(off vocal version)
- 雨がいつか上がるように(off vocal version)
- Hello(off vocal version)
初回限定版 特典CD収録曲
- Re-Birth
- Lost time
- ROUTE 466
- 終章
- NIGHT CRUISIN’
- 太陽と花びら
- ユートピアは見えてるのに
- magic
- 空もハレルヤ
DEEN(でぃーん)
1993年に池森秀一(Vo)と山根公路(Key)を中心に結成された音楽ユニット。上杉昇(ex.WANDS)作詞、織田哲郎作曲による「このまま君だけを奪い去りたい」でメジャーデビューを果たす。同曲はCMタイアップもあり、新人にもかかわらずミリオンヒットを記録。翌年1994年にも「瞳そらさないで」がミリオンを達成し、1stアルバム「DEEN」は150万枚を超える売り上げを記録。メンバーの加入・脱退を経て、現在は池森・山根・田川伸治(G)の3人で活動中。2004年には韓国での日本音楽全面解禁に伴い、日本人として初となるワンマンライブを敢行し成功を収めている。
樹林伸(きばやししん)
(亜樹直 あぎただし)
「神の雫」の原作を亜樹直の名で手がけるほか、多くのマンガ原作を手がける。代表作多数。最近はマンガ原作に限らず、小説・脚本・作詞と多くのフィールドに活動の幅を広げ、マルチクリエイターとして活躍中。