音楽ナタリー Power Push - DECO*27
イノベーターが生み出した 俯瞰し、輪廻する“GHOST”
これまでで最長のインターバルとなる2年半という月日を経て、DECO*27のニューアルバム「GHOST」がついに完成した。今作に先駆けて今年1月にニコニコ動画で公開した「ゴーストルール」はすぐに100万再生を記録し、現在ではニコ動でのトリプルミリオンに迫る勢い。一時期はVOCALOID / ニコニコ動画の低迷も噂されたが、そんな噂を払拭したのは、やはりシーンを最初期から引っ張ってきたDECO*27だったのだ。この2年半に起こったさまざまな出来事を凝縮させた渾身のアルバムについて、じっくりと語ってもらった。
取材・文 / 金子厚武
試行錯誤の先に見た“ロック”という光明
──「GHOST」は前作「Conti New」(2014年3月リリース)から2年半ぶりのアルバムになりますが、この2年半はDECO*27さんにとってどんな期間だったのでしょうか?
ホントはもうちょっと早めに出そうと思ってたんですけど、なかなか自分の納得いくものができなくて、アルバム2枚分くらい作り直して、やっと形になったんです。一時期音楽を辞めようと思っていたところ、初音ミクのライブだったりに救われて(参照:DECO*27「DECO*27 VOCALOID COLLECTION 2008~2012」インタビュー)、「もう1回がんばろう」って思って出したのが「Conti New」という作品で。個人的にもすごく気に入った作品だったんですけど、その次の作品を作るならそれもちゃんと超えないといけないと考えていたので、なかなか納得いくものができなかったんですよね。
──試行錯誤の2年半だったと。では、アルバムの形が見えてきたのはいつ頃でしたか?
去年の10月くらいに「ゴーストルール」ができたあたりから、「こういう感じかな?」って自分の中で固まり始めました。「ゴーストルール」と、あと「リバーシブル・キャンペーン」という曲も去年の段階でできていて、こういうちょっとロックな方向に寄せていく感じでいこうって決めて、その後の3カ月くらいで一気に仕上げたんです。
──「なかなか納得いくものができなかった」とのことでしたが、「ロック」という方向性に先を見出したわけですね。
「Conti New」に入っていたロックな曲をもっと濃く、強くして、それで引っ張っていくようなイメージでした。「ゴーストルール」はスクラッチを入れたミクスチャーっぽい曲をやりたいと思って作った曲、「リバーシブル・キャンペーン」は「ストリーミングハート」(「Conti New」収録曲)をもっと尖らせた感じです。前作の編曲は全部kousさんと一緒にやったんですけど、今回はNaoki Itaiさん、emonさん、KTGさんという、それぞれ独自の持ち味のある方をアレンジャーに起用ました。その方々とやりとりをしつつ、サウンド面は作り上げていった感じです。
──Naoki Itaiさんは「ゴーストルール」をはじめとした4曲で編曲をされていますが、もともとギタリストで、ミクスチャーをルーツに持つ方なんですよね?
はい。その一方では西野カナさんとの仕事とかもやられていて、そういうバランス感覚のある人と一緒にやることで、いいものが作れるんじゃないかなって思ったんです。今まで全部自分でギターを弾いていたので、ギターをバリバリ弾ける人にアレンジをお願いするのってなんとなく避けてたところがあったんですが、今回、自分が思い描いたバンドサウンドをほかの人の目線でアレンジしてもらったことで自分の曲を客観的に見れたので、やってよかったと思いましたね。
自分の懐かしさは誰かの新しさ
──「ゴーストルール」は公開してすぐに100万再生を記録して、現在はニコニコ動画とYouTubeを合わせて500万再生超えという大ヒットになっているわけですが、こういうミクスチャー系の曲はこれまでのDECO*27さんにはありませんでしたよね。
自分が今までやってこなかったジャンルってなんだろうと思ったときに、ミクスチャーってやってないなって思ったんです。基本的にアルバムを作るときって、外からの影響を受けたくないので、自分の曲以外聴かないんですけど、今回は自分が中学生くらいの頃に聴いてたサウンドを掘り起こしました。「ゴーストルール」はHoobastankとかLinkin Parkとか、あの辺を意識した曲です。
──僕としてもロック×ヒップホップな「まさにミクスチャー」というサウンドに懐かしさを感じたんですけど、でもきっと今の10代にとっては逆に新鮮で、それが再生回数がここまで伸びる一因になったんだろうなって思ったんですよね。
そうかもしれませんね。自分は今年30歳になるんですけど、自分が懐かしく感じるものって、新しくVOCALOIDを聴き始める子たちにとっては、ホント新しいんじゃないかなって。ただ、自分でもここまで再生回数が伸びるとは思ってなかったし、実はもともと(動画サイトに)上げる予定もなかったんです。でも初音ミクのスマホゲーム(「初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星」)のテーマ曲になったことをきっかけに公開することにして。最初は「じゃあ、きちんと動画も作ろう」って話だったんですけど、最終的には一枚絵でアップすることにしたんです。
──それはなぜ?
「自分が懐かしいと思うことが、新しいと感じてもらえるんじゃないか」って話と同じで、自分が2008年にVOCALOIDを始めた頃って、みんな一枚絵で、それでもすごく盛り上がってたんです。なので、そういう懐かしい感じを出したいっていう気持ちはあったんですけど……ホントに、ここまで伸びるとは自分でも思ってなかったですね(笑)。
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- ニューアルバム「GHOST」2016年9月28日発売 / U/M/A/A
- 「GHOST」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / UMA-9083~4
- Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] / 2700円 / UMA-1083
- Amazon.co.jp
CD収録曲
- ゴーストルール
- リバーシブル・キャンペーン
- LOVE DOLL
- 散散駄目調子
- 妄想感傷代償連盟
- いいや
- 正義のタレット
- ライアーダンス
- Find The Light
- 生心病
- 針鼠
- Sprite Girl
- at
初回限定盤DVD収録内容
- ストリーミングハート
- Find The Light -short MV-
- 『MIKU in the GHOST』 Analog Live Drawing by おぐち
※副音声:DECO*27、おぐちによる解説
※数量生産限定盤は売り切れのため、割愛しております。
DECO*27(デコニーナ)
1986年12月生まれの、福岡出身の男性アーティスト。父親の影響で13歳でギターを手にし、14歳からオリジナル楽曲を作り始める。その後、VOCALOIDを使って制作した作品をニコニコ動画に投稿すると、乾いたギターサウンドが特徴的なバンドアレンジで注目を集める。2010年4月、1stアルバム「相愛性理論」でデビュー。同年12月、2ndアルバム「愛迷エレジー」をリリースした。また他アーティストへの楽曲提供やコラボレーションも積極的に行い、中でも柴咲コウとTeddyLoidとのユニット「galaxias!」を結成したことは大きな話題となった。そして2012年4月「DECO*27 feat. 初音ミク」名義として初のシングル「ゆめゆめ」を発表し、7月には中川翔子、声優・悠木碧らが参加の3rdフルアルバム「ラブカレンダー」をリリース。またKOTOKO、Buono!、MEGらに楽曲を提供する傍ら、2013年9月には単独名義では1年8カ月ぶりとなる新作ボカロ曲「妄想税」を発表。以来「愛言葉II」「音偽バナシ」と毎月連続で新曲を発表し、同年12月にボーカロイドナンバーのベストアルバム「DECO*27 VOCALOID COLLECTION 2008~2012」を、翌2014年3月にオリジナルフルアルバム「Conti New」を発表し、2016年9月、約2年半ぶりとなるアルバム「GHOST」をリリースした。