BGMに合わせて次々と場面が転換する映像編集技術・トランジションを用いた動画で人気を集め、TikTokのフォロワー数が240万人を超える“トランジション系クリエイター”ケチャップが、トイズファクトリー内のレーベル・VIAから3月23日にデビュー曲「加工迷彩」を配信リリースした。
「加工迷彩」は、作編曲をレーベルメイトであるTAKU INOUE、作詞をDECO*27が担当。アートワークは藤井風など数多くのアーティストビジュアルを手がける丸井元子、ミュージックビデオはEve「廻廻奇譚」の映像などを手がける佐伯雄一郎が制作した。
音楽ナタリーでは、ケチャップとDECO*27にインタビュー。ケチャップがアーティストデビューするに至った経緯や、デビュー曲「加工迷彩」の制作過程について聞いた。
取材・文 / 杉山仁撮影 / 伊藤元気(ヘッダ写真)、伊藤惇(文中カット)
トランジションとの出会い
──ケチャップさんがTikTokでトランジション動画をアップし始めきっかけはどんなことだったんでしょう?
ケチャップ トランジションには2年ほど前に出会いました。それまでTikTokは音楽に合わせて踊ったりする場所だと思っていたので、場面転換や編集技術を多用するトランジションの動画に感銘を受けたんです。それで自分もやってみたいと思ったのがきっかけですね。もともと音楽が好きで常にカッコいい音源を探しているので、それに合わせて自分にしか撮れない動画を作りたいなと思って。
──ケチャップさんは、DECO*27さんの音源も使ってトランジション動画を投稿していますよね。例えば「シンデレラ」の動画だと、どんなふうに考えていったんでしょう?
ケチャップ ご本人の前で言うのは恥ずかしい……!
DECO*27 ははははは。
ケチャップ もともとDECO*27さんの曲が好きだったんですよ。DECO*27さんの書かれる歌詞は振り付けが思い浮かびやすくて、動画の展開が考えやすいんです。TikTokの15秒という短い動画でも、伝えたいことがしっかりと伝わるというか。
──確かに独特の言い回しや仕掛けが多く、フレーズの強さが感じられます。
ケチャップ そうですよね。聴いた瞬間に「DECO*27さんだ!」ってわかると思うんです。
DECO*27 ありがとうございます。恐縮です(笑)。
──「シンデレラ」を使ったトランジションだと、「蛹になって出直すわ」の部分で服をキュッとかぶって蛹のような姿になるのも印象的でした。
ケチャップ あれはまさに歌詞を意識して撮った部分です。私はトランジション動画は音楽がないと撮れないものだと思っているので、楽曲選びは重要なんです。
──DECO*27さんは「シンデレラ」を使った動画はご覧になりました?
DECO*27 観ました! 僕の音源を使ってくれている動画はもちろん、今回のオファーをいただいてから、「どんな活動をしている方なのかな?」といろいろとチェックさせていただいて。僕はそれまでトランジションがどういうものなのか知らなくて、TikTokというと音楽に合わせて簡単な振り付けで踊ったり歌ったりする「気軽に参加できる楽しい場所」というイメージだったんです。でも、ケチャップさんのトランジション動画はまた違うタイプの作り込まれた作品で、観ていてすごいなあと思いました。「ああ、自分の曲をこんなふうに解釈してくれるんだ」と。
ケチャップの音楽的ルーツ
──アーティストデビューをすることになったきっかけはなんだったんですか?
ケチャップ TikTokで動画クリエイターとして活動する中で、音楽を探すときに悔しいなと感じることがあって。「自分もいつか、TikTokで使っていただけるような楽曲を出したい」「トランジションに合わせて作った音楽があれば、カッコいい動画を撮れるんじゃないか」という思いがあったんです。そういう話は前々から事務所に伝えていたのですが、ある日「ケチャップさん、アーティストデビューしませんか?」とお話をいただいて。自分から提案したものの、実感がないままに今に至るという感じですね(笑)。
──もともとはケチャップさんの提案だったんですね。
ケチャップ そうですね。自分の場合、音楽活動をやってきたわけではないですし、歌の動画を出したこともなかったけど、音楽は昔から好きでバンドを組もうとしたこともあったんです。結局、精神面の理由でバンドを組むことはできなかったけど、そういう挫折もある中で、今回事務所をはじめさまざまな方の力をお借りできるなら、ぜひやってみたいと思って。
──なるほど。ケチャップさんはどういう音楽が好きだったんですか?
ケチャップ 小さい頃は母親が運転する車の中で音楽を聴いていて、GLAYや酒井法子さんの楽曲をよく歌っていました。自分で意識的に音楽を聴くようになったのは、父親が観ていたBOØWYのライブ映像がきっかけだったと思います。大きくなってからはMALICE MIZERやDIR EN GREYが好きになって、GACKTさんもそうですけど、ああいうジャンルの音楽にズブズブとハマって。
DECO*27 僕も中学生の頃、DIR EN GREYの「GAUZE」を聴いてました。ちょうど「ミュージックステーション」で「残-ZAN-」を演奏していた頃かな。
ケチャップ えー! うれしい! あとはアニメが好きなのでアニソンを聴いたり、ゲーム音楽も好きでゲームのサウンドトラックを聴いたりします。そのほかだとテクノポップやラウドロックも好きですね。最近は眩暈SIRENの作品をよく聴いてます。
DECO*27 眩暈SIREN、いいですね。
DECO*27が語る、ケチャップの魅力
──お二人は「加工迷彩」の制作で初めて会ったんですか?
DECO*27 そうです。歌詞についてのミーティングがあって、そこでTAKU(INOUE)さんも交えて話をしたのが初めてでした。
ケチャップ 私は学生時代、ボカロ曲をよく聴いていて。あるときランキングを見ていたら、DECO*27さんの「二息歩行」に出会ったんです。「二息歩行」は今でも歌詞を見ずに歌えるくらい好きな曲で、「いったいどんな人が書いているんだろう?」とDECO*27さんについて調べたのを覚えています。私はボカロから離れて、また戻ってみたいなことが何回かあるんですけど、何も知らずに聴いて「いいな」と思うのがDECO*27さんの曲だということが多くて。TikTokで初めて使わせていただいた「リバーシブル・キャンペーン」も、そういう楽曲でした。
──DECO*27さんはケチャップさんのどういった部分にクリエイターとしての魅力を感じますか?
DECO*27 ここまでの話を聞いていて、「監督さんかな?」と思わせる雰囲気がありますよね。さっきの「音楽を探す」という話もそうですけど、自分の世界観に合う音楽を探してきて、それに合った動画を作っているという意味でもセルフプロデュースの能力がとても高いと思います。自分のアイデアをしっかりとクリエイティブに落とし込んでいるなと。
ケチャップ うれしいです……!
──映像と音楽をトータルで考えながら魅力的な表現をする、というのはお二人の共通点かもしれませんね。
DECO*27 僕の場合、作品を作るときに音楽と映像を分けて考えないところがあるんです。頭の中で「こういう絵作りをしたい」と、ある程度浮かんでから曲を書くことが多くて。「こういう色で、こういう伝え方をしたい」というイメージがあるんですよね。
ケチャップ 私はMVを映像作品として楽しんできた人間で、映像は音楽の余白の部分を補填する表現だと思っていて。音楽の伝えたいことをより引き出す瞬間があるというか、そこに惹かれているんだと思います。
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DECO*27らしさが存分に発揮された歌詞