音楽ナタリー Power Push - DECO*27
イノベーターが生み出した 俯瞰し、輪廻する“GHOST”
移ろう社会を俯瞰する“ゴースト”
──「ゴーストルール」の再生数が伸びた要因はいろいろあって、歌詞もその1つだと思います。DECO*27さんらしい言葉遊びの面白さやインパクトのある言葉使いがありつつ、また少し歌詞の書き方が変わってきたのかなって。
この曲は自分がついた嘘でどんどんドツボにはまっていく姿を、反面教師的に描いた歌詞ですね。それに最近「イェイイェイ」とか「ウォーウォー」とか、覚えやすいフレーズを曲の中に入れることで、みんなが一体となって盛り上がれるセクションがあったらいいなって考えるようになったんですけど……。
──まさに、ニコ動でのこの曲の「おーおー」の弾幕はすごいですよね(笑)。
あれはホントに「ありがとうございます!」っていう感じで、皆が楽しんでくれていることを実感できてうれしいです。
──「嘘」についての歌詞を書いたのは、何かモチーフがあったんですか?
最近はワイドショーで「嘘をついてました」みたいなことが日常的にあふれていますよね。そういう“今起きていること”に対して書いた歌詞が今回はすごく多いですね。いろんな事件や騒動を客観的に見て、それに対して自分がどう思うかを書いています。例えば、「ライアーダンス」は恋愛問題だったり。
──確かに、去年あたりから「嘘」の話ってホントに多いですもんね。「素晴らしきこの世界 あべこべに いい嘘悪い嘘 まぜこぜに」という歌い出しの「正義のタレット」も同じようなモチーフがあるんですか?
「正義のタレット」は、ネットが炎上しているときに起きる言葉の集中砲火みたいなものを客観的に見ていて、そのときの気持ちを書いた曲です。必要以上に正義を振りかざしてバンバン言葉を浴びせてる人を見ると、「これはどうなんだろうか?」って考えちゃいましたし、この曲ではそういう人の立場って簡単に入れ替わっちゃうんじゃないかな?ってことを書いてるんですよね。だから今回は自分がゴーストになって、そのことに直接干渉はできないけど、俯瞰して見ている。アルバムタイトルは、そういう意味の「GHOST」でもあります。
“進化したミク”と“VOCALOIDにおける歌心”
──歌詞の書き方が変わって、ミクの歌わせ方にも変化があったかと思います。DECO*27さんはこれまでも初音ミクの声をちゃんと聴かせることに重きを置いていたと思うんですけど、今回は調教のニュアンスの付け方がいつにも増してすごくて。例えば「リバーシブル・キャンペーン」の早口は特に印象的でした。
ミクの声が生きるようなメロディと歌詞の組み合わせっていうのは意識していて、「リバーシブル・キャンペーン」の歌詞は何回も書き直しましたね。自分が伝えたい言葉をミクがうまく歌えるかどうかのバランスを何度も見つつ、なんとか形にしました。今回のアルバムは全部初音ミクのV4Xβっていうバージョンを使ってるんですけど、ミクの進化がありつつ、自分自身もいろんなボーカリストさんのプロデュースワークの中で学んだ、歌心という新しい武器を手に入れたこともあって、すごく成長できたかなと思います。V4Xになって、すごく歌わせやすくなった一方、独特の癖もあるので、そこを理解するまでに時間がかかったんですけど、アルバムを1枚作ったことで、仲良くなれたと思いますね。
──ミクのバージョンアップが楽曲の完成度の向上に大きく関係していることは間違いないですよね。さっきおっしゃった「プロデュースワークの中で学んだ歌心」というのは?
ボーカリストの方に曲を書いて、レコーディングをしてるときって、いつも頭の片隅にミクが浮かんでるんです。歌ってくれる方の声や癖を聴いて「こういうふうにミクを調教したらいいのかな」って、ヒントを得ることが多くて。これまでアルバムを作っているときにはそのヒントを反映させることってあんまりなかったんですけど、今回はそういう耳で人の声を聴いていたという経験がすごく生きてると思います。今までは自分でメロディを書いて、歌詞を付けて、自分で仮歌を歌って、その仮歌に近づける感じで仕上げてたんですけど、今回はそれプラス、人の歌い方をいろいろ吸収して「こういう歌い方をしたら、歌詞が印象に残るな」とか、いろいろ考えましたね。
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- ニューアルバム「GHOST」2016年9月28日発売 / U/M/A/A
- 「GHOST」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / UMA-9083~4
- Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] / 2700円 / UMA-1083
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CD収録曲
- ゴーストルール
- リバーシブル・キャンペーン
- LOVE DOLL
- 散散駄目調子
- 妄想感傷代償連盟
- いいや
- 正義のタレット
- ライアーダンス
- Find The Light
- 生心病
- 針鼠
- Sprite Girl
- at
初回限定盤DVD収録内容
- ストリーミングハート
- Find The Light -short MV-
- 『MIKU in the GHOST』 Analog Live Drawing by おぐち
※副音声:DECO*27、おぐちによる解説
※数量生産限定盤は売り切れのため、割愛しております。
DECO*27(デコニーナ)
1986年12月生まれの、福岡出身の男性アーティスト。父親の影響で13歳でギターを手にし、14歳からオリジナル楽曲を作り始める。その後、VOCALOIDを使って制作した作品をニコニコ動画に投稿すると、乾いたギターサウンドが特徴的なバンドアレンジで注目を集める。2010年4月、1stアルバム「相愛性理論」でデビュー。同年12月、2ndアルバム「愛迷エレジー」をリリースした。また他アーティストへの楽曲提供やコラボレーションも積極的に行い、中でも柴咲コウとTeddyLoidとのユニット「galaxias!」を結成したことは大きな話題となった。そして2012年4月「DECO*27 feat. 初音ミク」名義として初のシングル「ゆめゆめ」を発表し、7月には中川翔子、声優・悠木碧らが参加の3rdフルアルバム「ラブカレンダー」をリリース。またKOTOKO、Buono!、MEGらに楽曲を提供する傍ら、2013年9月には単独名義では1年8カ月ぶりとなる新作ボカロ曲「妄想税」を発表。以来「愛言葉II」「音偽バナシ」と毎月連続で新曲を発表し、同年12月にボーカロイドナンバーのベストアルバム「DECO*27 VOCALOID COLLECTION 2008~2012」を、翌2014年3月にオリジナルフルアルバム「Conti New」を発表し、2016年9月、約2年半ぶりとなるアルバム「GHOST」をリリースした。