折からのラップブームの中、今年4月にメジャー移籍を発表し、シーンをざわつかせたCreepy Nuts(参照:Creepy Nutsがメジャーデビュー、DJ 松永は童貞のまま)。続けてメジャーデビューシングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」の発売を8月とアナウンスするも、リリース直前になって権利処理に一部不備があることが判明したため発売が延期に(参照:Creepy Nuts、メジャーデビューシングルが発売延期)。そんな経緯もあり、音楽ナタリーではシングルについての取材を行っていたが、掲載を見送っていた。このように“メジャーデビューにも失敗”というお騒がせな展開でいわく付きとなった本作が、いよいよ11月8日に発売が決定した。ここでは、お蔵入りになっていたインタビューを掲載する。
本人たちが発売延期について「俺らがあまりにもヒップホップすぎた」とラジオなどでコメントしている本作は、2人が生配信したWebラジオ番組をまるごと収録した70分超えの異端作。彼らがどんなコンセプトで本作を作り上げたのか、制作の裏側を大いに語ってもらった。
取材・文 / 猪又孝 撮影 / 山川哲矢
ラジオ自体が曲フリのコンセプチュアルな作品
──今回は、なんともけったいなシングルを作りましたね(笑)。
R-指定 あはは。確かにけったいですね(笑)。
DJ 松永 曲名がシングルのタイトルじゃないし。
──そもそもどういう意図で今回の制作は始まったんですか?
R-指定 メジャーデビューシングルやから変わったことをしようと。「普通に出しても面白くないから、ちょっとビックリされるようなものを作りたいなあ」という話をしていて、マネージャーと3人でごはんを食べてるときに、俺が思いつきで「じゃあ、ラジオを入れよう」と言ったんです。今回の曲に対する気持ちをしゃべった内容をそのままブチ込んでしまおうと。そしたら全員「いいね」となって。
DJ 松永 ラジオではあらかじめリスナーからデビューに失敗した黒歴史のエピソードを募集したんです。シングルの1曲目は「メジャーデビュー指南」、2曲目はラジオパートを収録した「“悩む”相談室メジャーデビュー特別編」、3曲目は「だがそれでいい」。だからラジオで黒歴史のエピソードを紹介していって、最後にそれらをすべて肯定して「だがそれでいい」に入るっていう流れを作れば、ラジオ自体が曲フリになるっていうコンセプチュアルな仕上がりになるんじゃないかって。
R-指定 「だがそれでいい」単体じゃなくて、ラジオパートも込みで聴いてもらうと聞こえ方が変わる。
DJ 松永 ラジオパートの中で、昔流行った「Myプロフィール」(自己紹介ページを容易に作成できるWebサービス)のR-指定のページを紹介するくだりがあるんですけど、あれは全部、R-指定に言わずダマでやったんです。俺が2年くらい前にひょんなことからR-指定のプロフィールを発見して「これはヤバ過ぎる(笑)」と思って温めといたネタで。それを架空のメールネタにしてR-指定にドッキリで読み上げさせたら憔悴しきっちゃって(笑)。でも、何も知らずあの「Myプロフィール」を読み上げたことによって、心からの「だがそれでいい」になったと思うんです。取り繕った言葉じゃなくて、マジで自分を肯定したい気持ちがこもった「だがそれでいい」になった。だから、ラジオパートを聴いてから3曲目を聴いてもらったほうが余計沁みると思うんです。
──今回のシングルって、実は3曲目の「だがそれでいい」がタイトル曲のような重要な存在になってますよね。
R-指定 そうですね。実際、シングルの制作に取りかかってまずできあがったのが「だがそれでいい」だったから、3曲目が核になってると思います。で、もう1曲作ろうという話になって、1曲目の「メジャーデビュー指南」に取りかかったんで。
DJ 松永 「メジャーデビュー指南」を作るときはそんなに流れは考えてなかったもんね。とりあえずパンチのあるいい曲を作ろうと。そのあとラジオパートを入れることになって、「じゃあその2曲を回収できる内容にしよう」という話になりました。
地元の友達にしたり顔でアドバイスされる=“メジャー感”
──1曲目「メジャーデビュー指南」も意表を突く内容だと思います。メジャーデビューシングルの1曲目だから気合いの入った感じで来るだろうと思いきや、会話劇が始まるっていう(笑)。これはどんな発想から生まれた曲なんですか?
R-指定 “高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー”みたいな内容は「だがそれでいい」に全部入ってるので、もう1曲“メジャーデビュー”をテーマに曲を作るとしたらなんやろなと考えたんです。そのときに“メジャーデビューあるある”みたいなことなのかなと思ったんですけど、それはありがちやし、食傷気味かなと。だったら、その「あるある」に対してちょっと違うアプローチをしようと。
──結果、自分たちが置かれている状況を会話劇で説明しながら、自分たちのメッセージも忍ばせるという、ヒネった作りになってますよね。客観と主観が並行していくメタ構造になってる。
R-指定 なんか、メジャーデビューっていうものに対する“ざっくり感”みたいなものを表現したかったんです。メジャーってことはより多くの人に知れわたるっていうことじゃないですか。その多くの人たちの中には、自分たちをざっくりとした認識で捉える人もたくさんいるだろうと。で、一番ざっくりした認識で捉えるのは誰かと考えたときに、それは地元の友達やなと。そこまで事情に詳しくないんやけど、近いところにいる分聞きかじりでけっこう知ってるみたいな。自分の中では、それくらいの知識の人にしたり顔でアドバイスされるっていうことこそ“メジャー感”なんじゃないかなって。
──会話の中に出てくるアドバイスはけっこうステレオタイプな意見ですよね。
R-指定 ステレオタイプと言うか、わかってるようでわかってない人の意見みたいな。でも、メジャーに行くっていうことは、よりそういう目に遭うし、そういう人たちの前に晒されるってことなんだろうなって思うんです。例えばどこかのデパートで歌っている売れない演歌歌手を近所のおじいちゃんおばあちゃんが応援し始めて、その人が売れたら「ワシが育てたんじゃ」みたいなことを言い出すっていうような。そういうざっくりした感じを出したかったんです。で、そのアドバイスに対して「勝手にやらせろや」と答えていくと。
──つまり、この曲で伝えたい思いは「勝手にやらせろや」。
R-指定 そう。「勝手にやらせろや」の伝え方として、「どういう方法がいいんやろな?」と考えたらコレになったんです。
──そういうヒネり方が実にCreepy Nutsらしいなと思いました。なおかつ、サビで「フレッシュか古いかって ふるいにかけられ震えてる」って歌ってるけど、実は斬新でフレッシュな手法を採ってるし。実にややこしい構造だなと(笑)。
DJ 松永 確かに(笑)。会話劇のバースもちょっと遊びを入れて、しゃべりながら韻を踏んでるんです。こういうフザケもメジャー1発目でできたら面白いよなと思って。
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AV業界用語と“落語感”を入れた「メジャーデビュー指南」
- Creepy Nuts「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」
- 2017年11月8日発売 / クリーパーズ
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完全生産限定盤 [CD+Tシャツ]
3000円 / XSCL-30~1 -
通常盤 [CD]
1000円 / XSCL-32
- Creepy Nuts「メジャーデビュー指南」
- 2017年10月27日先行配信開始
- 収録曲
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- メジャーデビュー指南
- “悩む”相談室メジャーデビュー特別編(構成:佐藤満春)
- だがそれでいい
- 全国ツアー「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけど“遂に”メジャーデビュー。」
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- 2018年2月2日(金)大阪府 BIGCAT
- 2018年2月12日(月・祝)福岡県 DRUM LOGOS
- 2018年2月14日(水)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2018年2月25日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2018年3月2日(金)愛知県 名古屋ReNY limited
- 2018年3月9日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2018年3月16日(金)新潟県 NEXS Niigata
- 2018年3月21日(水・祝)東京都 TSUTAYA O-EAST
- Creepy Nuts(クリーピーナッツ)
- MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」大阪大会で5連覇、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で3連覇を成し遂げた経歴を持つ大阪出身のラッパー・R-指定と、「DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS」国内2位でTOC(Hilcrhyme)のバックDJなどでも活躍する新潟出身のDJ 松永によるユニット。観客が投げたお題でR-指定がフリースタイルを披露する“聖徳太子フリースタイル”などを織り交ぜた、観客を巻き込む形のライブパフォーマンスで人気を集めている。2016年1月に1stミニアルバム「たりないふたり」を、2017年2月に2ndミニアルバム「助演男優賞」を発表。2017年11月8日にはソニー・ミュージックエンタテインメントよりメジャーデビューシングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」をリリースする。