音楽ナタリー Power Push - cinema staff

“完成のあとの解体”バンドの新たな挑戦「Vektor E.P.」インタビュー

「返して」のバランスが自分たちのオリジナル

──2曲目の「返して」はギリギリのバランスで成り立つようなアンサンブルを軸にしたナンバーです。ベースの音色なども攻撃的ですね。

三島 そう、音がいいですよね。「返して」は、“今、一番ナチュラルに曲を作ったらこうなる”という感じの曲です。この曲はすぐにできましたから。

久野 最初にできた曲だよね。

三島 キメが多くて、楽器の絡みは歪んでいる。でもギターのフレーズは美しくて、歌のメロディはすごくキャッチー。こういうバランスが自分たちのオリジナルなんだろうって思いますね。

久野 うん、昔から目指しているところなので。

飯田 「白い砂漠のマーチ」(2011年のアルバム「cinema staff」収録曲)もそうだよね。 あの曲ができたとき、三島が「これが俺の一番やりたいことだ」と言っていたけど、「返して」もそれに近い曲に仕上がってる。

三島 うん。日本のバンドでこういうバランスの曲が作れるヤツらはいないって思うんですよ。「やれるもんならやってみろ」っていう感じと言うか。

久野洋平(Dr)

久野 昔は僕らも「自分たちのアイデンティティってなんだろう?」って悩んでた時期もあったんですよ。僕らは歌モノも聴くけど、それだけが好きなわけではないし。それに飯田の声の感じも僕らにとっての1つの武器だと思っているから。

──いい声ですからね。メロディアスな歌が似合うというか。

久野 演奏が複雑だったり、遊んでるような部分もあるんだけど、歌もしっかり存在している。以前は「わかりづらい」って言われることもありましたけど、その両方を追求した結果、今のcinema staffになっているので。

飯田 ずっと同じことをやっているわけではないんですけどね。「返して」に関して言うと、言葉が詰まっている感じがあって、それがすごく新鮮だったので。歌うのは難しかったですけど。

三島 言葉を詰めている感じは、「eve」のときから試しているんですよ。飯田の声にはロングトーンが合うんですけど、同じことをやっているとメロディが焼き増しみたいになってくるので。

──「似た感じにしたくない」というのは、ギターのフレーズも同じですか?

三島 どうですかね? 「返して」はサビ裏のフレーズ以外は、ぜんぶ辻くんに任せたんですけど。

 ギター2本で1つのフレーズを弾くという考え方は同じですね。

三島 飯田のギターが変則チューニングなので、そこに対して辻くんのフレーズがどう絡んでくるかは楽しみにしていて。今回も僕からは言うことは何もなかったですね。

──「いいね」みたいなことは言わないんですか?

三島 言わないですね(笑)。「いいね、辻くん」みたいなのはないので。「無言だったらOK」っていう感じです。

久野 cinema staffはメンバー同士で褒め合わないですね(笑)。120点のときは何か言うかもしれないけど、100点のときは無言です。

三島 恥ずかしいじゃないですか、褒めるとか(笑)。

録音の当日も練習してたリフ

──そして3曲目の「ビハインド」はすさまじい疾走力にあふれたナンバーで、インパクトがありますよね。

三島 「こんな曲があったらいいんじゃない?」っていう久野のアイデアがきっかけなんですよ。以前にも似たような楽曲を作ったことがあるんですけど、それをそのまま使うのも悔しいので、新たに作って。

久野 結果的には全然違う曲になりましたね。せっかくのトリプルA面なので、1曲はすごく遊んでる曲を入れたくて。cinema staffにはこういう遊びまくってる曲もたくさんあるんですけど、そういう部分が僕らを軽く知ってるくらいの人には届いていない気がして。トリプルA面として出すタイミングで「こういう色もある」ということを知ってほしかったんです。とにかくテンポが速くて、演奏は“趣味全開”という感じ。

辻友貴(G)

 レコーディングの直前にアレンジが変わったんですよ。「イントロから歌に入るまでに変化がほしい」ということになって、急遽リフを考えて。思い付いたリフが難しくて弾けなくて、録音の当日もずっと練習してました。

飯田 「30分練習させてください」って言ってね。

久野 俺ら3人はテレビ観ながらメシ食ってた(笑)。

飯田 でもあのリフが入ったことで、メチャクチャ曲がよくなったからね。

三島 ギリギリだったけどね。

 ライブで弾けるかなあ。

久野 もしかしたら顔でごまかすかもしれないからな(笑)。

──確かに演奏陣のプレイはブッ飛んでますよね。でも、全体としてはすごくキャッチーじゃないですか?

久野 そうなんですよね。デモの段階では歌が乘ってなくて「演奏がエグければそれでいい」という感じだったんですけど、ボーカルが入ったら、歌モノとしてもちゃんと成立していて。三島、覚醒したなって思いました。

三島 何も考えずに作ったんだけどね。酒を飲みながら適当に歌って、いいのが出たら録っておいて。

飯田瑞規(Vo, G)

飯田 僕自身も一番驚いた曲が「ビハインド」ですね。もともと「パッと始まってパッと終わる曲にしよう」と言ってたんだけど、あまりにもメロディがよかったから、「このメロはもう1回聴きたいね」ってことになって尺がちょっと長くなって。

久野 このサウンドに対してこれだけいいメロディを持ってこれるというのは、いろんな作品を作ってきたからこそだと思うんですよ。原点回帰という意識がありつつ、今の僕らだからこそ成立した曲と言うか。

三島 DAWソフトが使えるようになったのも大きいんですよ。適当に歌いながら作っても、あとで音符的に解釈できるようになったのは大きな変化ですね。あと、こういうハードコアな曲を作ってるときって、昔は脳内で飯田とは違う声をイメージしてたんですよ。でも最近は飯田の声だけが再生されるようになってきてる。そこはすごく変わったところですね。

“絶対に負けられない戦い”が定期的にある

──cinema staff本来の個性と新しい挑戦が共存しているし、すごく刺激的な3曲がそろいました。

三島 そうですね。「エゴ」とか、少し前の「eve」の制作中だったら「暗い感じだから収録しない」って言われてたかも。

飯田 そうだね。

久野 「eve」をしっかり作り切ったことで、いろいろと抜けたんだと思います。さらに自由になったし、今までのいいところを出しながら、「eve」で培ったものもちゃんと入っているというか。今回の3曲って、演奏はかなりマニアックだと思うんですよ。それをポップに聴かせるワザも身に付けられたと思うし。

三島 ポップに聴かせられるかどうかは、だいぶ精査するようにしています。僕自身、大衆芸術にしか興味がないというか、人に評価されないものには価値がないと思っていて。

久野 もちろんオリコン1位の曲をマネするとかではなくて、僕らにしかできないことをやりつつ、それがちゃんとみんなの評価につながるようにしなくちゃいけないんですけど。

三島 端的に言えば褒められないとやってられないってことです(笑)。前回の「eve」と今回の「Vektor E.P.」は、どちらも「自分たちに求められているのはなんだろう?」ということをすごく考えて、チャレンジした作品なんです。だからリリース後にどういう反応があるのかもすごく楽しみですね。

──「Vektor E.P.」のリリース日である11月30日には、東京・東京キネマ倶楽部で自主企画イベント「シネマのキネマ」が開催されます。後輩のバンド3組と競演するという、cinema staffにとっても新しい試みだと伺いましたが、どういう意気込みで臨もうと思っていますか?

久野 今回のイベントはレコード会社のスタッフさんの提案もあって実現したんですけど、すごく新鮮だし面白そうですよね。

三島 たぶん自分たちのアイデアだけでは実現しなかった企画ですから。楽しみですし、後輩には格の違いを見せたいですね。いつまでも憧れられる存在でいたいので。

 年下ですからね……絶対に負けられないです。

久野 絶対に負けられない戦いが……。

飯田 キネマ倶楽部にある、と。しかも定期的にやろうと思っているので、「絶対に負けられない戦いが定期的にある」っていう(笑)。

三島 そうだね(笑)。イチローの言葉を借りれば「向こう30年、cinema staffには手を出せないなと思うような勝ち方をしたい」という感じですね。それぐらいのライブをやります。

cinema staff
cinema staff自主企画「シネマのキネマ」
2016年11月30日(水)東京都 東京キネマ倶楽部
<出演者> cinema staff / Halo at 四畳半 / HOWL BE QUIET / Ivy to Fraudulent Game
cinema staff(シネマスタッフ)
cinema staff

飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にメジャーデビュー作となるポニーキャニオン移籍第1弾作品「into the green」を、2013年5月にメジャー1stフルアルバム「望郷」を発表した。同年8月、テレビアニメ「進撃の巨人」の後期エンディングテーマに提供した「great escape」がスマッシュヒットを記録。同曲を含むニューアルバム「Drums,Bass,2(to)Guitars」を2014年4月にリリースした。2016年5月にはプロデューサーに江口亮(la la larks)を迎えて制作された5thアルバム「eve」を発表。同年11月には新作音源「Vektor E.P.」をリリースする。