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“完成のあとの解体”バンドの新たな挑戦「Vektor E.P.」インタビュー

cinema staffインタビュー

全員一致で「次は解体かな」

──アルバム「eve」のリリース後は、精力的なライブ活動が続いてますね。

飯田瑞規(Vo, G) アルバムを発表したあとはずっとライブをやってました。ほかのバンドのツアーに誘われることが多くて。

三島想平(B) 夏はライブがメインでしたね、ホントに。曲を作る暇がないくらい(笑)。

飯田 特に年下のバンドに呼ばれることが増えていて。

久野洋平(Dr) My Hair is Badとかね。ツーマンが多いからライブの尺も長めで「ライブをやってる」という感じがすごくありますね。

辻友貴(G) ずっとライブをやっているので曲が体になじんでいるというのもあるし、納得のいくライブができてる気がします。

久野 ライブバンドと名乗ったことがあるかはわからないけど、そういうスタンスで活動してるわけだから「誘われたらなるべく断らず、戦うような気持ちで出ていこう」って話していて。それも納得のいくライブができている一因だと思いますね。

──新作「Vektor E.P.」に収録された3曲も、ライブ映えしそうな楽曲ばかりですね。アルバム「eve」以降のcinema staffの方向性が示された作品だと思いますが、どんなビジョンがあったんですか?

三島想平(B)

三島 もともと秋口に音源を出そうっていうプランはあって。今作に関しては「3曲共アッパーな楽曲で、MVも撮って、全曲押し出したい」という要望がスタッフからあったんです。そこからバーッと一気に作ったのが、この3曲ですね。

久野 「次はどういう方向性でいくか」ということは、メンバー間で少し話してたんですよ。スタジオとかで。

三島 「eve」は自分たちにとって、1つ完成された作品だと思っていて。だから「次は解体かな」っていうビジョンはありました。

──解体?

三島 そうですね。「eve」のときはプロデューサーもいたし、しっかり考えて計算しながら作っていた感じもあって。今回はもっと直観的というか思い付いたこと、やりたいことをバンバン入れようと思ったんです。

久野 そこは全員の意見が一致してたんですよね。モメごともなく(笑)、自然に「次はそういう感じだよね」って。

飯田 アルバムの流れでいうと「blueprint」は少し重めの雰囲気で、「eve」は歌を押し出したポップな感じだったんですけど、三島の歌詞は2作共聴き手に寄り添うような書き方だったんです。ただ、ファンタジーだったり、フィクションの要素が強かったバンドの初期の頃に三島が書いていた歌詞のテイストも僕はすごく好きで。今回あえてそこに戻ることで、また新しい表現ができるんじゃないかと思ったんですよね。

──その方向性も一致していた?

久野 そうですね。ただ、収録曲についてはギリギリまで話してました。5曲くらい候補があって、4曲デモを録って、その中から3曲を選ぶのにちょっと時間がかかってしまって。しかも、まだ収録曲が決まってない段階で曲名だけ先に発表したんですよ。

飯田 それ言っちゃう?(笑)

三島 大丈夫、最終的には曲名のイメージ通りの楽曲に仕上がったから(笑)。矛盾は生じていない。

──「Vektor E.P.」というタイトルについては?

三島 それもギリギリまで迷ってました。コンセプトはなかったんですけど、まあ、今のバンドの雰囲気を表しているつもりです。「Vektor(ベクトル)」は位置エネルギーのことなので「同じ方向を向いている」という意味で。あと、ドイツ語を使ってみたかったのもあるし。

「望郷」の頃に戻って書いた歌詞

──今作の1曲目に収録されている「エゴ」はエッジーなギターフレーズを軸にしたロックナンバーに仕上げられています。

久野 デモの段階で三島がかなり作り込んでいたんですけど、最初に聴いたときは衝撃的でしたね。すごく新しいんだけど、cinema staffっぽさもしっかりあって。

三島 この曲は“思い付いちゃった系”ですね。ビートがわりと淡々としていて、その中でほかの楽器がうねりを出していくっていう。もともとはバンド全体、オケ全体で展開していく曲のほうが好きというか得意なので、「エゴ」みたいなアレンジの曲は意外とやったことがないんですよ。「そういう曲をバンドでやったらどうなるか?」という興味もあったし。

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久野 俺もリズムごと展開していくほうが好きだし、確かにこういう淡々としたドラムはあまり叩いたことがなかったですね。なるべく機械的に叩くことを意識していて、面白いけど難しいっていう感じでした。

 ギターのアレンジも新しい感じですね。ギター同士でユニゾンしているところが多くて。

──抽象度の高い歌詞も印象的でした。先ほど飯田さんが言った通り、こういうテイストも三島さんの歌詞の魅力ですよね。

飯田 うん、そうですよね。

三島 自分としては「blueprint」「eve」の流れの中で「まともな歌詞が書けるようになってきた」という感じがあって。だから「昔の歌詞がよかった」と言われると「ふざけんじゃねえ」っていう気分に少しなるというか……まあ、それは自分の被害妄想なんですけど(笑)。

飯田 (笑)。

三島 確かに「eve」のときはわかりやすい言葉をセレクトしてたんですよね。誰が聴いても同じ印象になるというか。今回は「望郷」(2013年発表のアルバム)の頃に戻って、抽象的に書いてみようと思ったんです。そのうえで今まで使ったことのない言葉を使ってみようかな、と。だいぶ苦労しました。

飯田 聴いてくれる人に考える余地を与える歌詞というか、それも三島のオリジナルだと思うんですよ。そういう曲があるからこそ「YOUR SONG」みたいな真っすぐな歌、聴き手に手紙を渡すような感じの歌詞もグッと入ってくるんじゃないかなって。

cinema staff自主企画「シネマのキネマ」
2016年11月30日(水)東京都 東京キネマ倶楽部
<出演者> cinema staff / Halo at 四畳半 / HOWL BE QUIET / Ivy to Fraudulent Game
cinema staff(シネマスタッフ)
cinema staff

飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にメジャーデビュー作となるポニーキャニオン移籍第1弾作品「into the green」を、2013年5月にメジャー1stフルアルバム「望郷」を発表した。同年8月、テレビアニメ「進撃の巨人」の後期エンディングテーマに提供した「great escape」がスマッシュヒットを記録。同曲を含むニューアルバム「Drums,Bass,2(to)Guitars」を2014年4月にリリースした。2016年5月にはプロデューサーに江口亮(la la larks)を迎えて制作された5thアルバム「eve」を発表。同年11月には新作音源「Vektor E.P.」をリリースする。