パブリックイメージを脱ぎ捨てたサイダーガール、あるべき姿への第一歩となった「SODA POP FANCLUB 4」インタビュー (2/2)

元彼女の浮気への怒りで書いた「ピンクムーン」

──本作には“映画館”というコンセプトのもと、全11曲が収録されています。

Yurin コンセプトを決めて作っていたわけではなかったんですけど、曲が出そろってみるとそれぞれにドラマがあって、11編の短編映画みたいだなと思ったんですよね。なのでジャケットやコンセプトアートも“映画館”をテーマにして描いてもらいました。僕らは夏のバンドというイメージが強いかもしれませんけど、今回はわりとさまざまな季節の日常を表現した曲が多いので、1年通して楽しみながら聴いてもらえたらうれしいです。

Yurin(Vo, G)

Yurin(Vo, G)

──Yurinさんは今回、5曲を手がけていますね。個人的には「かいじゅうのゆめ」がすごく好きで。

Yurin ありがとうございます。これはとにかく変な曲を作ろうってところから始まってるんですよ。ハチロク(8分の6拍子)だし、サビで2回転調してるし、間奏でワルツっぽくなるし。歌詞に関してはほかの4曲をわりとマジメに書いたので、その逆張りとして「かいじゅうのゆめ」は自然とあんな感じになっちゃいました(笑)。

──あははは。まるで子供が見た夢のような世界観ですよね。

Yurin とにかく子供っぽさを出したかったんですよ。なので、ロボットアニメのセリフとか小さい頃に観ていたピンクの怪獣が出てくる番組の曲の一部を使っていたりとか、子供らしいモチーフをちりばめた感じですね。

 僕もアルバムでは「かいじゅうのゆめ」が1番好きで。Yurinくんは逆張りしてなんぼというか。ふざけて書いているようで、でも歌詞にはどれも一貫性を感じる部分もあるし。言葉遊びもすごく面白いですよね。

フジムラ Yurinの曲はメロディの動きやコード感が研究し尽くされてるから、すごくきれいなんですよね。今回の5曲でもそれはすごく感じました。その中で「かいじゅうのゆめ」のような新しい表現にもどんどん挑戦しているので、この人の世界はどこまで広がっていくんだろうって改めて思いました。その無限の可能性に怖さも感じるんですけど(笑)。

──Yurinさんは「ライラック」リリース時のインタビュー(参照:サイダーガール、自分たちであり続けるために変化を選んだ新曲インタビュー)で「映画を観たあとに歌詞を書くことが多い」とおっしゃっていましたが、今回の収録曲はどうだったんですか?

Yurin 5曲とも映画からインスパイアされて書いたものですね。今回は自分自身の内側にある思いを書いているというよりは、別の人の人生のストーリーをちょっと俯瞰で眺めているような曲ばかり。そこがアルバムから感じられる“映画館”という雰囲気につながったところがあったのかもしれないです。

──フジムラさんが書かれた「ピンクムーン」もまた新しさを強く感じさせてくれる1曲だと思います。シンセベースを使われていますよね。

フジムラ そうなんです。YouTubeでいろんな動画を観ている中で「シンセベースってカッコいいな!」と思った瞬間があって。そのまま楽器屋さんに行って衝動買いしました(笑)。それを使って作ったのが「ピンクムーン」です。ロックな要素はありつつも、間奏にワブルベースを使ったりとか、今までの自分がやってこなかったことに挑戦してるので、また新たな扉が開けた感覚があります。

フジムラ(B)

フジムラ(B)

Yurin 結成当初、フジムラが作るのはミドルテンポのバラードが多かったけど、3rdアルバムくらいからどんどん攻撃的になってきて(笑)。今回の曲もすごく新鮮でしたね。シンセのウワモノもけっこうモリモリに入ってて、彼の中での挑戦をすごく感じました。あと、この曲にはラップパートがあるので、そこの表現やニュアンスは自分的に今まであまりやってこなかったことができた印象もありますね。

 「ピンクムーン」は聴いた瞬間、脳直でカッコいいと思える曲ですよね。今の曲も含め、最近はよく怒ってる曲を作るなっていう印象もありますけど。

フジムラ 何なんでしょうね(笑)。コロナでライブできないとか、いろんなストレスが影響してたのかな。あと、僕はけっこう弱気な性格なので人に対して強く怒ったりできないんですよ。だから曲として吐き出して消化してるのかもしれない。ちなみに「ピンクムーン」は過去に付き合ってた女の子が浮気してたことを、ある映画を観ているときにふと思い出したので書きました。数年前の怒りがこみあげてきたんでしょうね(笑)。

ハロウィンはやっぱり楽しそう

──知さんも今回は5曲を手がけていますね。

 5曲とも自分の人生で経験したことを、映像作品なんかから受けた影響をもとに、物語っぽく表現している曲が多いですね。本からイメージを受け取ることもあるんですけど。

──「猫にサイダー」のシチュエーションは“お祭り”ですよね。

 はい。家の近所でよくお祭りをやってるんですけど、その帰り道がいつもすごく寂しいんですよ。なのでシチュエーションから、歌う感情が決まった感じでしたね。僕の表現のルーツには寂しさがあると思っているので、それがお祭りというシチュエーションにうまくハマったというか。逆に4曲目の「足りない」なんかは、まずタイトルを決めて。心の中が空っぽな状態をいかに表現するかを考えながら、モチーフを探していったりもしました。

──Zepp Tokyoのライブでも披露されていた「トロール」は“ハロウィン”がモチーフになっています。

 ハロウィンと言うと、渋谷で若者が酒飲んでワーッと闊歩しているイメージがあって。そこに自分も混ざりたいなという気持ちもあるし、一方ではその光景を俯瞰で眺めて滑稽だなと思う自分もいる。そんな感情をゾンビ映画っぽく書いた感じですね。

知(G)

知(G)

フジムラ 5、6年前の知くんは「ハロウィンが嫌いだ」って言ってたんですよ(笑)。そんな人がこういう曲を作り、アルバムに入れるに至った裏にはどんな心境の変化があったのかが気になるところですけどね(笑)。

 なんでですかね? やっぱり……楽しそうだからですかね。

Yurinフジムラ あはははは(笑)。

Yurin 「トロール」は知さんが作る曲としては珍しいくらい振り切れてると思うんですよ。でも、「待つ」や「足りない」と同様に、さっき言ってたルーツである寂しさもちゃんと表現されている。かと思えば「マーブル」というストレートなラブソングもあったりするので、今回は知さんの人間性、人間臭さみたいな部分がしっかり見えてくる曲ばかりだと思いますね。

──「マーブル」は繊細に感情を表現していくYurinさんの歌声も素敵でした。

Yurin 語尾のニュアンスや音程の落ち方、ファルセットに行って戻ってくる流れみたいな部分は、今までの自分にはない表現ができたと思います。知くんから細かくディレクションしてもらえたので、自分としてもいい歌が録れた手応えはありますね。

全員集合できたらいいな

──サイダーガールの新たな表情をたっぷり詰め込んだ本作を引っ提げ、来年1月からは全国ツアー「サイダーガール TOUR 2022 サイダーのゆくえ-SENTIMENTAL THEATRE-」が開催されますね。

Yurin 僕らは3rdアルバムのリリースツアーがコロナの影響でできなかったので、アルバムツアーとしては本当にひさしぶり。ツアーはアルバムの曲たちを育てていく意味合いもあると思うんですよ。1本のライブの中で、その曲がどんな立ち位置になっていくのかが楽しみだし、曲に対しての新たな発見もきっとあるはず。演出面も含め、ちゃんとサイダーガールというバンドのカラーをしっかり打ち出しながら、ワンマンとしては初となるファイナルのTOKYO DOME CITY HALLまで駆け抜けたいと思います。

 音源を聴いてくれた人が、また違った印象を持って楽しんでもらえるようなライブの見せ方をしたいなと思っています。もちろん音源を再現することを前提とはしていますけど、でもライブを重ねる中で少しずついろんな変化を見せていくのが楽曲としての在り方であり、面白さでもあると思うので。そこを目指してがんばります。

フジムラ 今年の夏にも全国ツアーは回らせてもらったんですけど、コロナの影響で参加できなくなってしまったファンの方もけっこういらっしゃったんですよ。なので次のツアーこそは、そこで残念な思いをした人たちも含めて全員集合できたらいいなって思いますね。ライブをやっていくと自分たちの曲がどんどん好きになっていく感覚があるので、今回のアルバム曲に関しても演奏するのがすごく楽しみ。ライブならではのメンバー同士による化学反応にもぜひ期待していてください!

サイダーガール

サイダーガール

ライブ情報

サイダーガール TOUR2022 サイダーのゆくえ-SENTIMENTAL THEATRE-

  • 2022年1月15日(土)香川県 DIME
  • 2022年1月16日(日)広島県 LIVE VANQUISH
  • 2022年1月22日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
  • 2022年1月23日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2022年1月29日(土)岩手県 Club Change WAVE
  • 2022年1月30日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2022年2月5日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2022年2月11日(金・祝)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2022年2月13日(日)福岡県 スカラエスパシオ
  • 2022年2月19日(土)大阪府 なんばHatch
  • 2022年2月23日(水・祝)東京都 TOKYO DOME CITY HALL

プロフィール

サイダーガール

動画サイトを中心に活動していたYurin(Vo, G)と、Vocaloidを使用して音楽活動を行っていた知(G)とフジムラ(B)が2014年に結成した3人組バンド。2017年7月にシングル「エバーグリーン」でメジャーデビュー。同年10月に1stアルバム「SODA POP FANCLUB 1」をリリースした。2021年12月に4thアルバム「SODA POP FANCLUB 4」をリリースし、2022年1月から全国ツアー「サイダーガール TOUR2022 サイダーのゆくえ-SENTIMENTAL THEATRE-」を行う。