環境の変化で見えた、自分たちらしさ
──Chappoのサポートをしている人たちは、2人を際立たせて一歩引くという感じでもない。いい絡み方をしているから、初見のお客さんでも「この2人がChappoなんだ」とわかる。それはもしかして、音くんと悠太くん2人だけで「Chappoかくあるべし」と決めていくんじゃなくて、側にいる人たちがピンボールのバーになって、2人を弾いて先に連れてってくれる、そういう面白さだったのかなと思います。
福原 そうかもしれないですね。なぜ「a one & a two」というタイトルにしたかというと、結局、僕らは自分たちだけで納得しようとしてもうまくできない。ピエール・ブルデューの「ディスタンクシオン」とか、岸政彦がやっている市井の人たちの話を集めるフィールドワークじゃないですけど、結局自分たちが選んでいるようでいて常に環境に選ばされているという部分がある。僕らは最初、地下にこもって音楽を作ることで環境的な要素を排除しようとしたわけです。それは「誰にも似たくない」という思いからで、例えば悠太くんがベースで2度から5度に移動するフレーズを弾いたとき、僕は「それはよくあるフレーズだからやめよう」と言っていた。
細野 それを外して弾くのは不可能なんですけどね(笑)。
福原 海老原くんもその繰り返しがイヤで正式メンバーは辞めてサポートになってしまいました。そうやってクリシェを避け続けて、それでも残るものが自分たちのルーツだと思ってたんです。でも、そういうことじゃなかった(笑)。その過程も大事だし、最終的には骨組みやソウル的なものになるんですけど、側の部分はもっといろんな人たちに触ってもらって。
細野 ちょっとずつなでられて、形が決まっていくんだよね。
福原 そうなんだな、環境に選ばされてるんだな、でも結局そうやってできたものが一番自分たちらしかったりするんだな、と思ったんです。
細野悠太が考える“いい”の基準
──では実際、アルバム制作をどう進めていったか聞かせてください。
福原 候補曲がある程度そろってきた時点で、最初はドラムとベースをいつもの地下スタジオではなく、違う場所でわりと普遍的な生音で録りたいと考えました。それが最初かな。ライブではXタイム(エンディングなどの展開)をちゃんと決めてない曲が多いので、そこを決める作業を始めたんですけど、それって「曲を完成させる」ということじゃないですか。そのことに気が付いて「あ! ヤバい、完成はイヤかも」と思ったんです(笑)。「完成させるのが怖い」という感覚がずっとあって、アイデアを出してる時間が一番楽しい。アレンジもエンディングも正解を出すと、ほかは不正解になっちゃう。でも、それをやることがアルバム作りなんだと気付きました。イヤな気持ちと覚悟の両方がスタートだった感じです。
──それは1stアルバムならではのもので、今後は感じなくなる初々しさなのかも。
細野 いや、どうだろう? 音くんは一生続くかも(笑)。
福原 そうかも! でも、そういうときに悠太くんの存在は必要なんですよ。イヤがっている僕を動かす装置みたいな。
細野 背中を押してるつもりはないんだけど、「これいいじゃん」と思ったら伝えるようにしてます。いいものはいい、と。音くんはそれで「じゃあ、いっか」となってくれるから、後押しといえばそうなのかも。
──悠太くんがChappoの曲に対して「いい」と思う基準があれば聞きたいです。
細野 なんだろう? 音くんがA案とB案作ってくるパターンもあって、そういうときにあんまり考えずに直感で判断してるのがいい方向にいってるのかも。
福原 かといって、悠太くんは安易に擦り寄ってくるようなことはしないんです。「こっちのほうが作業が早く進むな」とかは基準にしてない。我々の曲作りは、僕のパターン提示から始まってるものが多いんです。しかもけっこう細かいところまで。「ライドか、タムか、どっちがいい?」みたいな。
細野 確かに。
福原 「決める」という作業はそれを選ぶこと。やっぱり、そのときに僕は決められないんですよ。なので悠太くんが選んだほうで進んでいくパターンが多い。
──多数決とも違う。
福原 悠太くんが明らかにめんどくさいほうを選ぶこともあって、やりながら「うわー、なんでこんなに大変なんだ!」と言ってたりする(笑)。
細野 でも結果的に目的地にたどり着いてはいますね。
「めし」問題
──では、ここからはアルバム本編の話をしましょうか。僕は最初に音源を聴かせてもらった段階から「めし」問題と言ってます。1曲目の「"a one"」がイントロダクションだとして、事実上の1曲目にあたるのが次曲の「めし」。柚木麻子さんが書き下ろした主婦の嘆きがナレーションになっていて、一瞬「何を聴いてるんだっけ?」という気持ちになります。
福原 松永さんに最初にそこを指摘されて、僕ら間違えたのかと思いました。
細野 僕はそこまでびっくりされるとは思ってなかった。
福原 この曲順は僕には超必然でした。ただ、品のいいアルバムにしたかったら「バラエティ豊かですよ」という感じで、8、9曲目くらいに置くとは思います。でも、柚月さんもそうだし、「めし」にはこれまで出会った人とか音楽以外の要素がいっぱい詰まってる。そもそもこの曲の原型は2019年にはすでにあったし、もとの形で完成させる方法もありました。でも、そんなんじゃ僕は全然腑に落ちなかったし、ようやくこの形で自分的に腑に落とせたわけですよ。「いろいろあって今腑に落ちた」という感覚がこのアルバムだなと思ったので、2曲目にどうしても置きたくなったんです。悠太くんも「2曲目以外ないんじゃない?」と言ってた。「『"a one"』が声モノだから、次も声モノがきたほうがいいだろ」って。
細野 頭の悪い理由だなあ(笑)。
福原 僕はそれを聞いて「じゃあ、そうしよう」と決断できたんです。
──僕も最初は戸惑いましたけど、アルバムを繰り返し聴いて納得しました。「"a one"」から「めし」っていきなり主役以外のキャラクターがうごめく群像劇映画の導入みたいだけど、これはこれでいろんな人たちが交差するChappoというバンドの個性だと思ったんですよ。「レザボア・ドッグス」のオープニングのような(笑)。それに、僕もこの曲がアルバムの後半にちょっとしたコメディリリーフみたいな感じで入ってたら、小賢しく感じていたかも。今では2人の正直さの表れだと思ってます。
福原 こういうことをまっすぐに持っていけるようにしたくてChappoをやっているというのは、2人の共通認識としてあるかもしれない。
細野 うん。
福原 柚木さんもこのナレーションを書くために映画(※成瀬巳喜男が監督した1951年公開の映画「めし」。主演は原節子)を3回観て、原作も読み直したと言ってました。それくらい本気でやってくれたんです。
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バラエティ豊かではなく、バラけすぎ