Chappo「a one & a two」特集|1年間の寄り道が与えた気付き、1stアルバムに詰め込んだ2人の変化と今 (3/3)

バラエティ豊かではなく、バラけすぎ

──アルバムの曲についてはほかの取材でも話してきたと思うんですが、改めて一番思い入れの強い曲は?

福原 「スタンダード」かな。これも古い曲で、いろんなバージョンがあります。弾き語りもあるし、晴れ豆(晴れたら空に豆まいて)で歌モノとしてやったこともありました。もっと変拍子だった時期もあるし、ストレートにシャッフルビートだった時期もある。完全にWilcoのようなアレンジだったこともありました。自分で決めあぐねていたのもあるけど、それだけアレンジを動かしても軸が動かない曲だったのかもしれないです。まあ、今回、正解を決めるのは大変でした。この曲と「あなたならどうする?」は悠太くんが「入れようよ」と言ったのは大きいかな。

細野 そうみたいですね。「スタンダード」は昔からやってる曲で、当時の仮タイトルは「フランキー堺」でした。でも、正解が出ないままなんとなくお蔵入りしていたんです。一旦寝かせて、アルバムを作るとなったとき「あの曲あるじゃん」と思い出して。

細野悠太(B, etc.)

細野悠太(B, etc.)

福原 すでにできているけど今回のアルバムには入れない曲リストを読み上げてたときに、「スタンダード」で悠太くんが「え? 入れようよ」と言ったんだよね。

細野 いい曲だし、1stアルバムに入れるのが正解だと思ったんです。僕も思い入れがあるし、「1stアルバムでこの曲を終わらせよう」みたいなところはあったかもしれない。

福原 僕らは曲作りのやり方として“1曲至上主義”みたいなところがあるんですよ。だからアルバムとしてのバランスが途中でおかしくなってくる。エンジニアさんに「バラエティ豊かとかじゃなくて普通にバラけすぎだ」って言われたこともありました。だけど、アルバムに入れなかった曲のほうが、曲としての完成度は高かった気がする。米呂にも「ライブでも一番完成されてる曲を入れないんだ」と言われました。

──でも、そのバラけすぎな感覚が、今デビューするバンドやアーティストにはあんまりないなとも感じてるんです。はっぴいえんどで言えば「ゆでめん」(1970年リリースの1stアルバム「はっぴいえんど」)じゃなくて「風街ろまん」(1971年リリースの2ndアルバム)を最初から作りたいと思うような感じ。「a one & a two」って「今の自分たちにできることはこれです」と白状してるようなアルバムじゃないですか。

福原 あと、エンジニアさんには「若気の至りが足りない」とも言われました(笑)。

細野 けっこう怖い指摘だよな。

福原 でも、人には絶対に言えないレベルの若気の至りは、2人とも注入できたと思います。

もうできないと思うアイデアを、できるうちに

──そういう意味でも音くんが歌う「あなたならどうする?」を入れたのは大きいですよね。

福原 悠太くんが推さなければ入れなかったです。全曲インストにするつもりで、悠太くんが歌う「You Came A Long Way From St. Louis」も別の形でリリースするつもりでした。でも「あなたならどうする?」は、米呂と功刀くんのライブでのアンサンブルも固まっていて、ギター3本での手応えを感じていたタイミングだったので、2人の音はどこかに入れたいなと考えていました。結果的に「あなたならどうする?」に参加してもらったんですけど、そもそも僕は悠太くんがこの曲をアルバムに入れるとは思ってなかった。

細野 でも、音くんが歌ってること自体については、ほかのインタビューでは意外と聞かれなかったかもしれない。

福原 歌詞の意味についての質問が多かったです。

──Chappoのライブをそんなに観ていなかったら、音くんがもっと歌いたい人だと気が付いてないのかもしれない。

福原 インスト曲も全部歌詞付きのバージョンがありますからね。歌詞と歌の用意はあるけど、人前でやりたくないからインストでやってる感じもある。あと、悠太くんには「"a two"」からラストの「Love's Old Sweet Song」までの4曲の流れが「めちゃ音くんっぽいね」と言われました。それは自分でも気が付いていて、鏡で自分を見てるみたいだったから、バラけさせたいくらいで。僕的には曲順でちょっとごまかしたい気持ちがあったけど、悠太くんは「この流れが、いいアルバムだなと思う」って。

福原音(G, etc.)

福原音(G, etc.)

──確かに、「Love's Old Sweet Song」には細野(晴臣)さんの声も登場するし、終盤は感動的ですらあります。そしてアルバム全体も「"a one"」「"&"」「"a two"」というスキットが入ることで、Chappoというバンドの歴史や関係性もひと巡りできる構造になっている。

福原 「スタンダード」の間奏に出てくるフレーズがあるんですけど、僕が好きでほかの曲でもよく使ってるんです。「"a one"」「"&"」「"a two"」ではそれを使って、アルバムのテーマメロディみたいにすれば、あちこちに出てくる構成になる。それは面白いなと。それで長尺の「"a one"」をどうやって作るか考えて、声を入れることを思いついたんです。

──そのアイデアを思いついたことで、ようやくアルバムができるぞ、と。

福原 「あ、こういう恥ずかしいことやっちゃえるんだ」と観念しました。往生際が悪いんです。

──でも、このアルバムこそが、恥ずかしいことをやった成果なんですよ。恥を避けてずっと地下にいた2人が表に這い出してきて、胸張って「どうですか!」と叫んでる感じでもないけど、自分を出してる。

福原 恥ずかしさから逃げてるわけではないんです。

細野 正直にやった結果だよね。

福原 こうありたい、とかではなく、自分たちが自分たちである様を見せるにはこうするしかなかった。

──「なんであのときこんなことしたんだろう?」とあとで思えることのほうが面白かったりしますしね。

福原 「めし」みたいなことはもうできない。次はもうフェーズが違うだろうし、もうできないと思うアイデアを、できるうちにやったアルバムですね。

細野 そうだね。

──その結果として、インストアルバムのはずだったのに2人が1曲ずつ歌ったんだろうし、こういう正直な表現には最近触れてなかったから新鮮でした。「バラエティというよりバラけてる」も言い得て妙だし、新しいロックなのかもなと思いました。天才的というより不器用だし、でも面白い。

福原 高野寛さんに「恥ずかしくて歌えないんです」と相談したことがあるんです。そしたら高野さんは「俺だってずっと恥ずかしいよ。でも恥ずかしいと自分で思ってる人じゃないと、ステージで本当に受けて立つことはできないんだよ」と言われて。今考えると、これからストレートなことを僕らがやっても、どこかにいる“うがった自分”が納得できる深さのあることができるようになるには、最短よりいろんな寄り道をしていったほうがいいんじゃないかと思ってます。

Chappo

Chappo

公演情報

シャッポ 1st Album「a one & a two」Release Tour

  • 2025年5月19日(月)福岡県 UTERO
    <出演者>
    Chappo / 松永良平 ※DJ
  • 2025年6月2日(月)東京都 晴れたら空に豆まいて
    <出演者>
    Chappo / MIZ
  • 2025年6月13日(金)石川県 もっきりや
    <出演者>
    Chappo / 澤部渡(スカート)
  • 2025年6月14日(土)京都府 METRO
    <出演者>
    Chappo / in the blue shirt
  • 2025年6月15日(日)愛知県 K.D ハポン
    <出演者>
    Chappo / 野口文

プロフィール

Chappo(シャッポ)

福原音(G, etc.)、細野悠太(B, etc.)からなる2人組バンド。2019年12月に結成。4年弱にわたる創作期間を経て、2023年9月に東京・BASEMENT BARで初ライブを行った。同年12月には1stシングル「ふきだし」をカクバリズムからリリース。2025年4月には1stアルバム「a one & a two」を発表し、5月からは全国5都市を巡る初のツアー「シャッポ 1st Album『a one & a two』Release Tour」を行う。