Apple Musicプレイリストから紐解く
「POLY LIFE MULTI SOUL」
多彩な音楽的要素で構成された「POLY LIFE MULTI SOUL」。その魅力を紐解くべく、今回の特集では、アルバムを作るうえで多大なインスピレーションを受けたという楽曲を3人にチョイスしてもらった。選曲者による解説を読みながら、それぞれの楽曲を楽しんでほしい。
髙城晶平が選んだ3曲
荒内くんが新作に向けて提示してきた要素に対して自分がどういうものを出していけばいいのかを考えていたときに、ちょうど去年、アートのアルバム「Cuidado Madame」が出て。クロスリズム的な要素が強かったし、自分がそういうリズムについて理解するうえで助けになった曲です。その理解が「ベッテン・フォールズ」にも生かされたし。ボーカリストとしても彼みたいに歌えたらいいですよね。今回「Double Exposure」のエンディングもアートを意識しました。
これもまた荒内くんの打ち出した方向性に対する、僕なりのリズムの理解に役立った曲でした。このアルバム(「Voice Of Chunk」)を知ったときは「Bob The Bob」っていうたおやかで美しい曲が好きで、この曲は「なんだかわからないけどカッコいいな」って雰囲気だけで聴いてたけど、リズムの構造を理解したら、無意識で聴いてたときより面白さが深まりました。今回のアルバム制作のおかげで、よさがわかるようになって、すごくうれしかった曲です。
これも同じように「POLY LIFE MULTI SOUL」のおかげで理解が深まった曲。歌モノですごくポップなんだけどリズムで遊んでる要素がたくさんあって。最初に荒内くんが「Poly Life Multi Soul」を作曲してた時点では、この曲っぽい雰囲気がちょっと入ったりしてたんですよ。僕個人で言うと、今回の作業を通じて、前は雰囲気だけで聴いていた曲の構造を理解したうえで、気持ちよく聴けるようになったのが大きかったですね。
荒内佑が選んだ3曲
ここ最近、アルバムの取材でアフリカ音楽のことをよく話してたけど、具体名を出してなかったなと思ったので選びました。1970年代のアフロファンクとかもいいんですけど、単純に新しい音像と言うか、今の環境で録られた音楽が好きですね。普段聴いてるのはナイジェリアのアフロビートが多いですけど、この人たちはベナンのバンドです。ポリリズムの勉強としてもよく聴いてました。この曲のリズムの仕組みは「魚の骨 鳥の羽根」や「Waters」に応用してます。
ソロに限らず、彼がいたオーネット・コールマンの「Prime Time」とか、1980年代のフリーファンクを今回の制作中によく聴いてました。この曲は十代の頃から好きで、今でもDJでかけます。坂本龍一さんの「B-2 Unit」に入ってる「Differencia」からつないで、千葉広樹さんと服部正嗣さんのバンド、Kineticの曲とかにつなぐとすごくキレイなんですよ。ceroのスタジオで、この曲っぽいことを1回やってみようとしたら、ドリフみたいな感じになっちゃいましたけど(笑)。
「Waters」を作るときにこの曲から取ったコードを自分なりに解釈して使いました。リズムがアフリカ系のポリリズムなんだけど、上に乗っかってるのはこういうビートダウンハウス系のコード感っていうのは、今回やりたかったことの1つなんで。音色や楽器の配置も、この曲を意識してました。楽曲単体でもヒップホップなんだか、ジャズなんだか、ハウスなんだか、R&Bなんだか越境的なところがあって、ジャンル分けしづらくて刺激的だと思ってます。
橋本翼が選んだ3曲
あらぴーが「魚の骨 鳥の羽根」を作ってきたときに、自分はどういう曲をやりたいのかと考えてたら、ちょうどエルメート・パスコアールが来日して。彼の今のバンド編成でのライブが素晴らしくて、その構造がどういうふうになってるかを調べたくなって、そこからcero用の曲を作っていきました。結局そのときに作ったブラジルっぽいハイパーな曲はアルバムには入らなかったんですけど。「溯行」にそっちの空気は残されている気がします。
この曲は「溯行」のアレンジを考えてるときに髙城くんに教えてもらいました。最初のデモでは、もっとアゲアゲな感じだったんです。でも、このままだとアルバムの流れ的には微妙だなと感じていたときに、髙城くんが、デモにもあったアコギの成分について「今は隠れてるけど表に持ってきたら?」ってアドバイスしてくれて。そのときにこの曲を聴かせてもらって、サウンドのバランス感がわかったんです。こういう力の抜け感を「なるほど!」と思えたんですよね。
アルバムの曲を作ってる時期に、当時よく聴いていたブラジル音楽からもう一歩踏み出して、いろいろな音楽を聴きたい気分になって。最初はThe Avalanchesのサンプリング元の曲があるということで、トニー・モトラの存在を知ったんですけど、アルバムを聴いたらタンゴっぽい曲が入っていたり、サウンドの幅がすごく広くていいなと思いました。ガットギターだけで弾き倒すようでいて、エレキギターも同じくらいの按配で入ってくる音のバランスも面白かったです。
- cero「POLY LIFE MULTI SOUL」
- 2018年5月16日発売 / カクバリズム
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初回限定盤A
[CD+DVD]
3400円 / DDCK-9008 -
初回限定盤B
[CD2枚組]
3400円 / DDCK-9009 -
通常盤
[CD]
2900円 / DDCK-1055
- CD収録曲(共通仕様)
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- Modern Steps
- 魚の骨 鳥の羽根
- ベッテン・フォールズ
- 薄闇の花
- 溯行
- 夜になると鮭は
- Buzzle Bee Ride
- Double Exposure
- レテの子
- Waters
- TWNKL
- Poly Life Multi Soul
- 初回限定盤A DVD収録内容
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- (I found it) Back Beard:Live at STUDIO COAST
- Yellow Magus(Obscure):Live at STUDIO COAST
- Roji:Live at STUDIO COAST
- ロープウェー:Live at STUDIO COAST
- わたしのすがた:Live at STUDIO COAST
- FALLIN':Live at STUDIO COAST
- Orphans:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Summer Soul:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Wayang Park Banquet:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Elephant Ghost:Live at 日比谷野外大音楽堂
- 我が名はスカラベ:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Narcolepsy Driver:Live at 日比谷野外大音楽堂
- 街の報せ:Live at 日比谷野外大音楽堂
<Extra Session>
- Waters
- 魚の骨 鳥の羽根
- 初回限定盤B BONUS DISC収録内容
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「POLY LIFE MULTI SOUL」Instrumental全12曲
- cero(セロ)
- 2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, Sampler, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2015年5月には3rdアルバム「Obscure Ride」、2016年12月には最新シングル「街の報せ」をリリース。2017年4月には2度目の東京・日比谷野外大音楽堂ワンマン「Outdoors」を成功に収めた。2018年5月に4thアルバム「POLY LIFE MULTI SOUL」をリリース。
- 坂本慎太郎(サカモトシンタロウ)
- 1989年にゆらゆら帝国を結成し、ボーカル&ギターを担当。ゆらゆら帝国として、21年の活動で10枚のスタジオアルバムや2枚組ベストアルバムなどを発表し、2010年に解散。翌2011年からは自身のレーベル・zelone recordsを設立。1stソロアルバム「幻とのつきあい方」をリリースした。2013年にシングル「まともがわからない」を、2014年5月に2ndソロアルバム「ナマで踊ろう」を発売。2016年7月には3rdアルバム「できれば愛を」をリリースした。2017年10月にドイツ・ケルンで開催されたイベント「Week-End Festival #7」にて、初のソロライブを行い話題を呼ぶ。2018年1月17日には東京・LIQUIDROOMにて国内初のワンマンライブ「坂本慎太郎LIVE」を実施。またsalyu × salyu、冨田ラボ、中納良恵(EGO-WRAPPIN')、Cornelius、坂本真綾、港カヲル(グループ魂)など、さまざまなアーティストの楽曲で作詞を手がけている。