“バンド感”から離れることで感じられるもの
髙城 2枚目のアルバム「ナマで踊ろう」で坂本さんが弾き始めたスチールギターも印象的でした。あのたゆたう感じのアンビエント性と、コツンコツンって音のパーカッション性と。
橋本 いわゆるポップスやカントリーのアレンジじゃなくて、ムード歌謡的な、聴いたことのない音のバランスになっているのがとても面白かったです。
髙城 やっぱりバンドから音楽の表現が始まってる人って、ギターがガーンと鳴って歌を歌うとか、3人とか4人で「せーの」でやるバンド感みたいなものを知ってしまってるから、なかなかそのフォーマットから離れられないところがあると思うんです。でも、坂本さんはそこから離れて、全部をバラバラにしていった。そこにすごく親近感を感じたんです。自分たちとは違うけど、僕らもceroでそういうことを考えていきたいという契機になった部分はあるかな。
──坂本さんがceroをライブで観たのはいつが最初ですか?
坂本 僕はライブにあんまり行かないから、ceroのライブって実は1回しか観たことがないんですよ。その1回は、LIQUIDROOMでベニー・シングスとやったときです(2015年11月19日)。ceroはアレンジもすごくよかったし、演奏がうまい。僕が好きなレコードとかも聴いてるんだろうし、僕が聴いてないような最近の音楽とかもジャンル問わず幅広く接してる感じで、それらをハイブリッドに融合してやってる感じがしましたね。
──ベニー・シングスとのツーマンでは、まだバンドの編成が今と違いました。
坂本 そうか。だからサポートメンバーが新しい人たちになってからは、まだ観てないんですよ。こないだ、新作の予告的なライブをやったんでしょう?(参照:cero、ニューアルバムの楽曲中心に届けたリキッドワンマン)
髙城 やりました。
坂本 新作の曲をやったんですか? あのアレンジの通りに?
髙城 全部ではないですけど、8曲くらいやりましたね。
坂本 アルバム、すさまじかったですよ。今回、レコーディングは一発録りだったんでしょ?
荒内 そうですね。7、8割は一緒に録りました。
髙城 デカいスタジオで、1人ひとりブースに分けて一発で録りました。
坂本 あの音をライブでそのままいけちゃうんだ。すごいですね。
坂本慎太郎が感じた“すさまじさ”とは
──「すさまじい」という言葉がありましたけど、実際のところ、ceroの新作「POLY LIFE MULTI SOUL」は、坂本さんにはどうすさまじかったんですか?
坂本 最初、ステレオの前に座って聴いてたんですけど、アレンジも演奏もすごすぎて、ボーカルもコーラスもテンション高いって言うか、カオスって言うか、何がどうなってるのかよくわからなくなっちゃって(笑)。すごいことが繰り広げられて圧倒される感じはあったんだけど、曲が把握できなかった。そのあと、ちっちゃいラジカセでかけっぱなしにして作業をしてたんですけど、それもよくわからないまま流れていっちゃって。結局、ヘッドフォンでちゃんと聴いたんです。
髙城 3種類の方法で聴いてもらったんですね(笑)。
坂本 でも、ヘッドフォンで聴いたら印象が全然違ったんですよ。楽器の定位とかが全部わかるから、最初聴いたときの「うわー」ってカオスな感じがなくなって、すごく整理されてる音像に聞こえました。やっぱり1発目に聴いたときには、どうしてもボーカルを聴こうとして、「なんて歌ってるのかな?」みたいな耳になってたんですけど、ヘッドフォンで聴いたときに、ほかの楽器も全部把握できるようになって、ようやく構造がつかめてきて気持ちよくなりました。
cero全員 ありがとうございます!
坂本 ボーカルが真ん中にドカーンといて、その後ろに伴奏があるって音像じゃないでしょ? 1個1個の楽器に耳が行くようになると、ボーカルと同じくらいの存在感でリフが来たり、ドラムが来たり、コーラスが来たりしてることがわかってくる。コーラスがけっこうキャッチーで存在感がすごいし、かと思えば、メインのボーカルが、しゃべってるような歌メロの曲もある。その感覚をつかんで、改めて「すごいことやってるな」と思いました。
髙城 今回は、荒内くんの曲(「魚の骨 鳥の羽根」「Buzzle Bee Ride」「Waters」)に僕が歌詞を書くにあたって、「歌のメロディも一緒に考えてほしい」って依頼されていたんです。僕がメインで歌うようなAメロは「(楽器の)ソロだと考えてくれ」と。ジャズにおける、テーマがあってソロがあるみたいな関係で、テーマがサビだとして、そこに至るまでのソロを考えるみたいな作り方だったんです。だから、Aメロがお膳立てをしてサビにたどり着くというよりは、本当にトリッキーなことをして、いろいろソロを取ったうえでテーマに行くみたいな方法でした。
坂本 歌メロも髙城くんが考えたってことは、どの状態で依頼が来るの?
髙城 オケの中にまったくメロディがない部分があって、しばらくするとサビがシンセで鳴りはじめて、「あ、これがサビなんだな」って思う感じでしたね。そこに至るまでは何もメロディを奏でてるものはなくて。
坂本 それは難しそうだね……。
──でも、荒内くんは髙城くんならできると思ったから、それを振ったわけですよね。
荒内 そうですね。メロディを指定してもいいんだけど、やっぱり髙城くんのボーカルがすごく力強くなったというのも大きかった。ジャズのソロとか、ラップで言うバースを聞かせるのって、内容ももちろんですけど、その人のスキルを生かせる場でもあるから、今回は任せられた感じですね。
坂本 じゃあ、そこはメロディより歌詞が先?
髙城 歌詞が先みたいなところはありますね。とりあえずメロディとか何も考えずに、「こんなことを歌おう」って、言葉をバーッと書くんです。それとは別に「どんなメロディで歌おうかな」というのは何回もオケを再生して鼻歌で歌いつつ、自分が書いた言葉を見て、「あ、今のところにこの1文がはまりそうだな」って、ちょっとずつ移植して曲に反映させていく、みたいな。
荒内 ジェームス・ブラウンの「Sex Machine」とか、マイケル・ジャクソンの「Thriller」とかもそうなんですけど、意外とAメロがパッと思い出せないんですよ。ああいうのって彼らはどうやって作ってるのかわからないですけど、意外と歌詞が先なんじゃないのかな。それってたぶん、ジャズのソロから由来してるんじゃないかなと思ったりもしてて。
坂本 あと、日本語って間延びしちゃうでしょ。だから言葉を詰め込まないと細かいリズム感が出ない。そうすると、ラップみたいになるか、しゃべってる感じになるかだけど。
荒内 だから、すでにあるメロディに対して言葉を入れていくと、基本的に1音に対して言葉を詰め込まざるをえない方向になるんで、言葉をメロディごと歌う人に任せたほうがいいんじゃないかなと思ったんです。
メロディやサウンドが導く言葉
髙城 そういう意味だと、坂本さんって人に歌詞を書くときは、自分の曲を書くときと同じように言葉を当てていけるんですか?
坂本 僕が歌詞を提供してるのはCorneliusとか、小山田(圭吾)くん関連の作品が多いんですけど、言葉数は少ないんですよ。少ない音に言葉をはめていく感じだから、意外と考えやすい。でも、今回のceroみたいな曲に「歌詞を付けてください」って言われても、たぶん、できない(笑)。
髙城 なるほど。僕は逆に「小山田さんの音楽にどうやって歌詞を付けるんだろう?」っていつも思ってたんです。確かに、文字数的に考えたら意外と考えやすいのかもしれない。
坂本 あと、デモの歌メロがシンセだったりすると、ニュアンスが入ってないから考えやすい。なんちゃって英語みたいなので仮歌が入ってると、「やっぱりここは1音じゃなくて2音にしないといけない」と思ったり、強弱も出てくるからすごく難しくなるかな。
髙城 むしろ、わりと機械的な情報で与えられたほうが考えやすい、というのはあるんですね。
──以前、髙城くんは「サウンドが導く言葉がある」というような発言もしていましたけど、坂本さんの場合も、例えばCorneliusの「あなたがいるなら」だったり、曲が導く言葉というのは、やっぱりあるんですよね。
坂本 もちろん。歌詞はサウンドを聴いて書くんで。
髙城 「こういうことを書いてほしい」というリクエストが来るわけではなく。
坂本 そうではないですね。だいたいオケができてるから、それを聴けば「これはこういう曲なんじゃないかな」と思いますね。
──まさに今回、髙城くんもそういう作業をしていたんじゃないかと思いますが。
髙城 そうですね。荒内くんから曲をもらうときに「こういう曲だから」みたいなことを言われることは、ほぼほぼなかったです。唯一「魚の骨 鳥の羽根」だけは、映画「トゥルー・ロマンス」のような、異形のラブソングみたいにしてほしいというテーマがありましたけど、基本的には譜割すらも与えられてない。だから、本当に自由に考えましたね。
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歌と楽器が並列にある水平構造
- cero「POLY LIFE MULTI SOUL」
- 2018年5月16日発売 / カクバリズム
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初回限定盤A
[CD+DVD]
3400円 / DDCK-9008 -
初回限定盤B
[CD2枚組]
3400円 / DDCK-9009 -
通常盤
[CD]
2900円 / DDCK-1055
- CD収録曲(共通仕様)
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- Modern Steps
- 魚の骨 鳥の羽根
- ベッテン・フォールズ
- 薄闇の花
- 溯行
- 夜になると鮭は
- Buzzle Bee Ride
- Double Exposure
- レテの子
- Waters
- TWNKL
- Poly Life Multi Soul
- 初回限定盤A DVD収録内容
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- (I found it) Back Beard:Live at STUDIO COAST
- Yellow Magus(Obscure):Live at STUDIO COAST
- Roji:Live at STUDIO COAST
- ロープウェー:Live at STUDIO COAST
- わたしのすがた:Live at STUDIO COAST
- FALLIN':Live at STUDIO COAST
- Orphans:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Summer Soul:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Wayang Park Banquet:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Elephant Ghost:Live at 日比谷野外大音楽堂
- 我が名はスカラベ:Live at 日比谷野外大音楽堂
- Narcolepsy Driver:Live at 日比谷野外大音楽堂
- 街の報せ:Live at 日比谷野外大音楽堂
<Extra Session>
- Waters
- 魚の骨 鳥の羽根
- 初回限定盤B BONUS DISC収録内容
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「POLY LIFE MULTI SOUL」Instrumental全12曲
- cero(セロ)
- 2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, Sampler, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2015年5月には3rdアルバム「Obscure Ride」、2016年12月には最新シングル「街の報せ」をリリース。2017年4月には2度目の東京・日比谷野外大音楽堂ワンマン「Outdoors」を成功に収めた。2018年5月に4thアルバム「POLY LIFE MULTI SOUL」をリリース。
- 坂本慎太郎(サカモトシンタロウ)
- 1989年にゆらゆら帝国を結成し、ボーカル&ギターを担当。ゆらゆら帝国として、21年の活動で10枚のスタジオアルバムや2枚組ベストアルバムなどを発表し、2010年に解散。翌2011年からは自身のレーベル・zelone recordsを設立。1stソロアルバム「幻とのつきあい方」をリリースした。2013年にシングル「まともがわからない」を、2014年5月に2ndソロアルバム「ナマで踊ろう」を発売。2016年7月には3rdアルバム「できれば愛を」をリリースした。2017年10月にドイツ・ケルンで開催されたイベント「Week-End Festival #7」にて、初のソロライブを行い話題を呼ぶ。2018年1月17日には東京・LIQUIDROOMにて国内初のワンマンライブ「坂本慎太郎LIVE」を実施。またsalyu × salyu、冨田ラボ、中納良恵(EGO-WRAPPIN')、Cornelius、坂本真綾、港カヲル(グループ魂)など、さまざまなアーティストの楽曲で作詞を手がけている。