ナタリー PowerPush - cero

ExoticaからEclecticへ 漂流する物語の行方

ceroとブラックミュージックの邂逅

──ただしブラックミュージックをやるとなったら、リズムの捉え方だったり、コーラスの重ね方も研究や試行錯誤をしないと、いきなりは形にできないですよね。

左から高城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, B, Cho)。

高城 そうですね。今回のシングルは最終的に1つの作品としてきっちり成立しているんですけど、その制作は次のステップに向かうための練習、勉強になりましたし、そのためにシングルというフォーマットがチャレンジの場としてうまく機能しましたね。そのチャレンジというのは、僕らがよく聴いてるブラックミュージックのマジックを黄色人種としていかに形にしていくかということ。そのために自分たちが聴いてるアルバムを交換しあったり、ブラックミュージックのどういう部分がブードゥー的なマジックを呼んでいるのか、光永渉の科学的な解説でグルーヴについて教えてもらったり。

──黄色人種としてブラックミュージックのマジックを形にするというテーマについて、もう少しご説明ください。

高城 日本においてR&Bやネオソウルをやっている人は、例えば久保田利伸さんや宇多田ヒカルさん、EXILEだったりというオーバーグラウンドの人たちばかりで、インディーズシーンとは断絶があるんですよね。岡村靖幸さんだったり、小沢健二さんのアルバム「Eclectic」だったり、その間をつなぐアーティストや作品が少ないのは本当に不思議なんです。おそらくそれは一流のプレイヤーを揃えたり、いいスタジオを使ったり、レコーディングにお金がかかるのが原因だと思うんですけど、機材が進化したことでお金をかけずに音楽が作れるようになりましたからね。だから音楽シーンの空いているポジションへ常に動いてきた僕たちなりに、そのテーマに挑戦してみようと思ったんです。

高城晶平(Vo, Flute, G)

──では、ブラックミュージックの影響色濃い今回の楽曲にいかに言葉を乗せるか。そのアプローチに関しては、どう考えましたか?

高城 僕らの友達で藤井洋平という人がいて、最近「BANANA GAMES」というアルバムを出したんですけど、その作品には荒内くんが鍵盤で参加していたり、リズム隊もceroと同じだったりして。そのアルバムは日本のネオソウルを実感させてくれる作品なんですけど、彼は歌詞もソウルマナーというか「お前のアソコを俺のものにしたい」みたいなことをがっつり歌うんですよ(笑)。しかも彼のキャラクターやパフォーマンスに説得力があって、その歌詞世界に違和感を感じさせないんです。じゃあ僕たちに同じことができるかといったら、それはできないわけで。僕らはこれまで築いてきた歌詞のスタイルを、あえて変えずにブラックミュージックに乗せて、譜割を工夫することで情報量の多い歌詞を成立させようと思いました。

これから何かを起こすフィールドとしての“砂漠”

──さらに歌詞も「My Lost City」の水の世界から、今回は砂漠の世界へと物語は展開しています。

高城 僕が2曲目の「我が名はスカラベ」と3曲目の「Ship Scrapper」を同時期に作っていたとき、荒内くんは「Yellow Magus」を作っていて。曲のアイデアに関してはやり取りしていたものの……曲ができあがってみたら偶然2人とも砂漠のイメージを歌詞に盛り込んでいたんですよ。

荒内 僕は白石かずこの「砂族」という詩集に触発されて「Yellow Magus」を書いたんですけど、まず考えたのは「My Lost City」で展開した海の物語をどう終わらせるか。そこで出航した船がまた港に戻ったら物語が繰り返しになってしまうので、その船を沈めるか壊すか漂流させるかだなって思ったんですね。だから「Yellow Magus」では船を乗り上げさせたんですけど、そこでバッドエンドを迎えたわけではなく、これから何かを起こすフィールドとしての砂漠が描けたらいいなと思ったんですね。

──つまり、次の作品に向かっていく前段階の舞台としての砂漠ということですね。

左から高城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, B, Cho)。

荒内 このシングルで1つの流れを終わりにもできるし、次の始まりにもできますしね。それは次の作品次第なんですけど、僕らの中にやりたいことははっきりあるので、早く次の作品を作りたいですね。

高城 そう、たくさんあるよね。過去2作のアルバムは言葉の段階でのコンセプトが先立っていましたけど、今回のシングルがそうであるように、次の作品は音のコンセプトが引っ張っていくことになるんじゃないかなと。自分としても次の作品が楽しみです。

cero / Yellow Magus【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ニューシングル「Yellow Magus」 / 2013年12月18日発売 / [CD+DVD] 1890円 / KAKUBARHYTHM / DDCK-1035
ニューシングル「Yellow Magus」
CD収録曲
  1. Yellow Magus
  2. 我が名はスカラベ
  3. Ship Scrapper
  4. 8points
DVD収録内容

2013年初頭に全国8カ所で行われた“My Lost City”リリースツアーのツアードキュメンタリーと、同年9月8日に東京・LIQUIDROOM ebisuにて行われたワンマンライブより「マイロストシティ」のライブ映像を収録(全71分)。

cero(せろ)

2004年に高城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, B, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Clarinet, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベルcommmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより初の全国流通アルバム「WORLD RECORD」を発表。本秀康による描き下ろしジャケットイラストも話題となった。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成に。2012年10月に2ndアルバム「My Lost City」を発表した。2013年12月に初のシングル「Yellow Magus」をリリース。