ナタリー PowerPush - cero

ExoticaからEclecticへ 漂流する物語の行方

「My Lost City」で時間の概念が生まれて世界が動き出した

──ただ録音した曲を集めてそのままリリースするバンドも多い中、ceroは1stアルバムの段階から明確なコンセプトがありますよね。

高城 「My Lost City」では物語を進めていこうという意識が芽生えて、時間の概念が生まれたというか、曲が時系列に並んでいるんです。それに対して、時間の概念がなかった「WORLD RECORD」では「1つの架空の街の地図を作る」というコンセプトのもと、その街で同時多発的に起きていることとして曲をまとめたんです。

──その「街を作る」という発想は、はっぴいえんどの「風街ろまん」で松本隆さんが描いた“風街”という架空の街にインスパイアされたところもあるんですよね?

左から高城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, B, Cho)。

高城 はい。ただ、はっぴいえんどの“風街”が麻布や青山という山手線内のコアエリアをもとにしているのに対して、僕らが住んでいるのは西東京なので、本秀康さんが1stアルバムのアートワークで描いているように、都会の摩天楼を遠くに眺める距離感の街作りに自然となっていったんです。

──なるほど。

高城 「WORLD RECORD」は自分たちだけで録音からミックスまで1年以上かけてダラダラ作業していて、その間にライブをやりつつ、新曲もどんどんできていたので、「WORLD RECORD」がリリースされる頃には「My Lost City」の曲はほぼほぼ出来ていたんですね。だから、時期はズレるにせよ、「WORLD RECORD」と「My Lost City」で異なるストーリー性が生まれたのは自分たちの中で不思議だったりもするんですけどね。

──その違いはどうして生まれたんでしょうね?

高城 人間の想像力を突き詰めていくと、神話的なものに近づいていくんですよね。だから、変わらない楽園がそこにある「WORLD RECORD」から、知恵の実を食べた旧約聖書のアダムとイブじゃないけど、時間の概念が生まれて世界が動き出した、みたいな。「WORLD RECORD」には「21世紀の日照りの都に雨が降る」や「outdoors」だったり、雨の曲が多かったから、街が水浸しになって洪水になるイメージが「My Lost City」に入ってる「大洪水時代」と「cloud nine」の誕生につながったんです。でも……そうこうしているうちに起きた東日本大震災の津波の映像を目の当たりにして、曲が予言めいてて怖いなって思いつつ、そうした曲をひと紡ぎの物語に仕立てる義務を感じて。砂場で遊ぶ子供のように「WORLD RECORD」で作った自分の街を「My Lost City」で壊してしまったという。そして「My Lost City」で作った船も今回のシングルでまた壊してしまったので、ceroの音楽制作というのはわかりやすいスクラップ&ビルドなのかもしれないですね。

音響感覚の変化

──音楽的な部分ではドラムの柳さんが脱退して、サポートであだち麗三郎さんが加わりつつ、「My Lost City」は1st以上にエキゾチックな作品世界を深めるうえで80年代のニューウェイブディスコから受けた影響が大きかったとか。

高城 はい。「My Lost City」を作ってるとき、精神的な部分での影響が大きくて。当時のニューウェイブディスコのごった煮感覚を知ったことで、自分の中でエキゾ音楽の解釈がぐっと広がったんです。ただしエキゾとはいっても、僕らが目指したのは日本語詞のドメスティックな音楽ですね。例えばブラジル音楽も、1960年代はビートルズの影響を受けつつ、最終的にはブラジル音楽としか言いようのない音楽が生まれているわけで。僕たちもエキゾという概念に影響を受けつつ、日本になじむ音楽がやれるんじゃないかなって思ったんです。

──また「My Lost City」はエンジニアに得能直也さんを迎えたことで、低音が増強されて、より肉感的なサウンドになりましたよね。

高城 「WORLD RECORD」までは大音量で音を鳴らすことに抵抗があって、ライブでもなるべく小さい音でニュアンスの繊細なものを鳴らそうという方向性があったんですけど、得ちゃんには爆音で音楽を聴く楽しみ方に気付かせてもらいました。

荒内佑(Key, B, Cho)

荒内 得ちゃんはダンスミュージックのフィールドでも仕事をしているし、よくクラブへ遊びに連れていってもらったんですけど、そうした経験を通じて、いわゆるライブハウス的な音響感覚とは違う、クラブミュージック的な音の出し方を体感的に知ることができたんです。

高城 頭に作用する「WORLD RECORD」に対して、「My Lost City」はより身体に響く作品というか、音のレンジやダイナミズムがぐっと広がって、作品のベクトルも外に向かっていったんです。

──そして「My Lost City」リリース以降、2013年のceroは精力的にライブ活動を行っていましたよね。

高城 そうですね。その途中で僕と荒内くん、橋本くんの3人がプレイヤーの役割から自分たちを解放するべく、サポートでベースの厚海義朗くんとドラムの光永渉くんという突出したテクニックのあるプレイヤーに参加してもらいました。それによってバンドとしての自由度が一気に上がりましたし、彼らの存在が「Yellow Magus」を作る上では大きかったですね。

コンテンポラリーな折衷主義的模造大洋

──その今回のシングル「Yellow Magus」ではそれ以前のエキゾ路線から一気にブラックミュージックの影響が色濃い作風へとシフトチェンジへしました。

荒内 「My Lost City」では夢の世界から強いビートで叩き起こすべく、最後の曲「わたしのすがた」を作ったんですけど、その時点で「今後のceroが目指すのは、もうエキゾの世界じゃないのかもしれない」っていう予感はあったんですよね。

高城晶平(Vo, Flute, G)

高城 6月の「Shimokitazawa Indie Fanclub 2013」で厚海義朗、光永渉をラインナップに加えた新編成のライブをやったとき、それまでは「ceroというグループ名はContemporary Exotic Rock Orchestraの略だ」と言っていたのに、そうは言わず「自分たちはContemporary Eclectic Replica Oceanだ」と名乗ったんです。コンテンポラリーな折衷主義的模造大洋。まあキャッチーな呼び名ではないのでまったく根付かなかったんですけど(笑)、気持ち的にはエキゾではなくエクレクティックなものへと移行しました。それに伴って、僕と荒内くんはブラックミュージックへの傾倒を深めながら、厚海義朗、光永渉の影響でリズムの捉え方も大きく変わったんです。

荒内 今のceroは3人しかいないので、バンドとして成り立っていないというか、常に誰かを入れないと活動できないんですよね。そしてそこに新たな人を迎えることによって、指向する音も変わるっていう。

高城 だからceroは誰のものでもないし、今回のシングルでバンドの中心がいよいよなくなって、ドーナツのような形態になったというか(笑)。

ニューシングル「Yellow Magus」 / 2013年12月18日発売 / [CD+DVD] 1890円 / KAKUBARHYTHM / DDCK-1035
ニューシングル「Yellow Magus」
CD収録曲
  1. Yellow Magus
  2. 我が名はスカラベ
  3. Ship Scrapper
  4. 8points
DVD収録内容

2013年初頭に全国8カ所で行われた“My Lost City”リリースツアーのツアードキュメンタリーと、同年9月8日に東京・LIQUIDROOM ebisuにて行われたワンマンライブより「マイロストシティ」のライブ映像を収録(全71分)。

cero(せろ)

2004年に高城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, B, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Clarinet, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベルcommmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより初の全国流通アルバム「WORLD RECORD」を発表。本秀康による描き下ろしジャケットイラストも話題となった。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成に。2012年10月に2ndアルバム「My Lost City」を発表した。2013年12月に初のシングル「Yellow Magus」をリリース。