ナタリー PowerPush - CASCADE
大先輩・森雪之丞と再タッグ!メンバー興奮の相思相愛対談
ほかを拒絶することがアーティストの出発点
──CASCADEってなかなか他人を中に入れないバンドというか、他者が核心に触れるのをすごく嫌がるバンドだと思うんです。雪之丞さんはそういうことは感じませんでしたか?
森 そうなの? 僕は割と怖いもの知らずだから(笑)。図々しいとも言われるんだけど(笑)。
──一見愛想は良いんですけど、核心に迫ろうとすると……。
MASASHI シャッターを閉めちゃう(笑)。
森 昔の写真を見ると喋る顔してないもんね(笑)。でもそれは基本だよ。アーティスティックであることは、まずほかを拒否するところから始まっていくものだと思うから。嫌な言い方をすればね。でもそういう一面ってアーティストはみんな持ってて、そこが自分ならではの表現を作っていく過程の出発点だと思う。そういうものが確立されたからこそ、今こんなににこやかな大人たちになってるんだと思うけど。
MASASHI そうなんですよ(笑)。
森 デビュー当時に会ってたらどうかわからないけどね。TAMAはその頃に僕と会って「アニメソング聴いてました」って言えた?
TAMA (きっぱり)言えました!(笑)
森 そうなんだ(笑)。子供の頃に聴いてた音楽を否定したい時期もあるじゃない? 僕も自分がザ・ドリフターズの仕事でデビューしたことはしばらく隠してたからね(笑)。ロック系の仕事を始めたときもアニメの話はあえてしなかったし。でも最近アニメの話をするとロックやってる若い奴も盛り上がってくれるんだよね。
雪之丞さんは部活の先輩のよう
──HIROSHIくんは雪之丞さんのことを部活の先輩みたいだって言ってましたよね?
HIROSHI(Dr) そうそう。初めてお会いしたときに僕らすっごい緊張していて、でもごはん食べながらいろんな話をさせてもらって。中学くらいでバンドに興味が出そうなときって先輩がいろいろ訊いてくれるじゃないですか。「なに聴いてるの?」「CD貸してあげるよ」とか。そんなふうでしたね。だから部活の先輩のような感覚だなって。もちろん実際大先輩です!!
森 同じ世界で同じ感性を今でも共有してるわけだから、先輩と言えば先輩だよね。
MASASHI 一緒にお話しててすごく楽しかったんですよ。なかなか音楽の話で盛り上がることってほかではそんなにないんで。CASCADEって、自分らでやってることを自分たちで楽しんでるだけのバンドだから。
森 他のバンドと音楽の話ってしないの?
MASASHI あんまりないですねえ……。
──友達いないんですよ、この人たち(笑)。
MASASHI そんなズバリ言われると(笑)。でも、そういう話ができる人はいなかったんで、すごくうれしかった。
森 初めてデートをしたときは話を聞くタイプなので(笑)。僕はいろんなアーティストとかバンドの中に入って詞を書いてきてるから、話をすることは重要。いろいろ話したことを踏まえた上で詞を書くんです。
MASASHIの曲は遊ばせてくれる
──雪之丞さんはMASASHIくんが作る曲に対してどういう印象を持っていましたか?
森 すごく独特ですね。中でも今回のアルバムに入ってる「かりめろ」すごいよ。この詞はすごくいいと思う。
MASASHI 僕も好きです。はい。
森 MASASHI風に人生を言い当ててる、人生のすべてを言い尽くしてると思う。
MASASHI 本当ですか!? (照れながら)あ、なんか、すごい……がんばろう!
森 ひとつの詞の中に身近なことと、すごく大きなものを共存させてるというか。人生とか宇宙とかのキャパのある詞に、こういう独特のタイトルをつけるのもすごいよね。
──雪之丞さんと仕事をしたことでMASASHIくんの中でも変化が起こったのかもしれないですね。
MASASHI やっぱり雪之丞さんに書いていただいた詞があることで、自分の音楽をさらに客観的に聴けるようになった。
森 バンドに他人の血が入ったからね。
MASASHI 雪之丞さんが書いてくれた歌詞の中に存在するような言葉は自分の中からは出せなかったし、ひとつのストーリーとして作り上げられなかったものを雪之丞さんがうまく綴ってくれたというか。だからすごく勉強になったし、「よーし!」って気持ちが燃え上がりましたね。
森 MASASHIは言葉に関してもすごく面白いものを持ってるからね。「優しいサギ師の寝言のように」もMASASHIがつけてきた仮タイトルだから。それ以外の部分はなかったんだけど、この言葉は既にあって「これいいじゃん」って。そこから、「サギ師の寝言」ってなんなんだろうっていうことを考えながらまとめていった。「優しいサギ師の寝言」に対して「素人悪魔の呪文」があったりとか。だからMASASHIから出てきたMASASHIらしいものをヒントに作っていく、パズルみたいな部分はあったかもしれない。
──前回の「あなたのベッドで眠りたい」もそうですけど、1970年代の歌謡曲風なタイトルが斬新ですよね。
MASASHI あんまり考えてつけてはないんですよね。曲ができたときに思いついたことを、ポッと書き留めておくくらいなものでしかないですけど。
森 でもMASASHIの曲は、こんな展開は普通はないだろうっていうのが結構あって、それが逆に僕を遊ばせてくれましたね。
CD収録曲
- El Paso
- 優しいサギ師の寝言のように
- かりめろ
- サラマンダー
- テキサスフィットネス
- FLOWERS OF ROMANCE ~ヘタウマカウボーイズver.~
- Distortion Pinky ~ぶっ飛ビートver.~
- サイクルキッズ
CASCADE(かすけーど)
TAMA(Vo)、MASASHI(G)、HIROSHI(Dr)の3人からなるバンド。テレビ朝日系で放送されていたオーディション番組「えびす温泉」への出演を機に注目を集め、1995年11月にアルバム「VIVA」でメジャーデビュー。1998年にリリースされたシングル「FLOWERS OF ROMANCE」「YELLOW YELLOW FIRE」のヒットを機に、一躍人気バンドの仲間入りを果たす。個性的なサウンドとカラフルなビジュアルで幅広い層に愛されるも、2002年に解散。その後メンバーは個々に音楽活動を行っていたが、2009年にTAMA、MASASHI、HIROSHIの3人で復活する。同年4月にミニアルバム「VIVO」、2010年5月にフルアルバム「メガラニカ」、2011年に2枚のアルバム「サディスティック・グミ」「マゾヒスティック・ガム」と精力的に新作を発表。2012年4月には過去曲のリメイクを含む新作「ヘタウマカウボーイズ」をリリースし、同月には自身初の主催対バンツアー、さらに6月から全国ツアーも控えている。
森雪之丞(もりゆきのじょう)
東京都出身の作詞家、詩人。大学時代より音楽活動を開始し、1975年に作詞作曲家としてプロデビューする。ロック系アーティストからアイドル、アニメソング、特撮作品など幅広いジャンルでのヒット曲多数。近年は演劇作品の作詞および訳詞も数多く手がけている。実験的なポエトリーリーディングのライブ「眠れぬ森の雪之丞」「POEMIX」を主催。2011年秋より作家の江國香織氏と新シリーズをスタートさせる。同シリーズの次回公演「扉のかたちをした三つめの闇~開けようとするのは江國香織と森雪之丞」は、2012年5月21日に東京・南青山MANDALAにて行われる。