ナタリー PowerPush - CASCADE
大先輩・森雪之丞と再タッグ!メンバー興奮の相思相愛対談
昨年9月にリリースされた「マゾヒスティック・ガム」での初顔合わせを経て、今作「ヘタウマカウボーイズ」で再度タッグを組んだ作詞家・森雪之丞とCASCADE。互いの個性が見事に混ざり合った、このシュールでスリリングな21世紀型ニューウェイブアルバムが完成するまでの経緯を解き明かすべく、今回ナタリーでは両者の対談を企画した。緊張のせいか妙に口数が少ない3人と優しい雪之丞。この対談から、レコーディングでも影響し合っていた2組の関係を感じ取ってほしい。
取材・文 / 佐々木美夏 撮影 / 平沼久奈
CASCADEは自由さを持ってるバンド
──実際に会う前、雪之丞さんはCASCADEにどんなイメージを持っていましたか?
森雪之丞 今回のアルバムの1枚前(2011年9月リリースの「マゾヒスティック・ガム」)からお手伝いさせてもらってるんですけど、会う前から持ってたイメージは、TAMAの声の特異さと、今はすごく減ってしまった1980年代のいわゆるニューウェイブ、いろんなことが巻き起こってとても自由だった時代のロックの魔力をまだちゃんと持っているバンド、という2点がありました。CDが爆発的に売れてしまってバブルを迎えた頃に、売れるためにはこういうふうにするんだ、っていう方程式みたいなものができあがったようなところがあって。そのせいで、みんなすごく狭いところで音楽を作り始めたなって僕は感じてた。でもCASCADEはそういうふうになる前の音楽の自由さをすごく持ってるバンドだと思いますね。
MASASHI ありがとうございます! 僕らが小さい頃から影響を受けている方にそう言っていただけてすごくうれしいです。
森 前回のアルバムはある意味で顔合わせみたいな意味もあったんですよね。僕みたいな外部の人間がバンドの中にどのへんまで入るか、自分の色をどのくらい、どんな色を混ぜればいいかっていうのはやってみないとわからないことなので、前作を一緒に作ってみて一番良かったのは「わかった」ってことかな。実際に一緒にモノを作ったアーティスト同士として理解し合えたので、そういうことが今回はすごく活きてると思います。TAMAとは飲んだりもしていろいろな話をしたし。僕は作詞歴が長いんだけど、ロックフィールドの中で僕が書いてたものだけじゃなくて、アニメ向けに書いてた曲とかも聴いてくれてたので、その話を聞いて、「ああそうか、じゃあもうちょっとここのところ僕が隠していたある種の技だとか毒だとかを注入してもいいんだ」と思って(笑)。今回一緒に作った2曲(「サラマンダー」「優しいサギ師の寝言のように」)はそのへんが楽しく出せたし、僕は本当にいい作品になったと思う。そういう意味でも前作は今作のためにあったのかな、という気がしています。
僕らは森雪之丞の歌詞で育った世代
──TAMAちゃんはシブがき隊の曲とか「ドラゴンボール」の主題歌とかも好きだったんですよね?
TAMA(Vo) いやあ、僕はもう、子供時代からアニメソング、歌謡曲、ロック……好きだった音楽の中に、雪之丞さんの詞がたくさんありまして。それで育った世代ですからね。
森 僕が20歳を過ぎて仕事を始めた時期と、彼らが音楽を聴き始めた時期っていうのがちょうど同じくらいなんですよね。僕も僕の人生があって、自分の書いてるジャンルが変わってきたり、書きたいものが変わってきたんだけど、TAMAとかは僕が書き始めた頃からずっと聴いててくれて、そのまま現在に至ってることを話してくれて。その話が僕を解放してくれたっていうか。今の僕だけじゃなくて、昔書いてたようなものもCASCADEだったらいい混ざり具合になるって思ったんですよね。本当に今回のアルバム、僕は好きなんですよ。一発録りに近いHIROSHIのドラムもすごくよかったし、MASASHIのギターもすごくカッコいいし、TAMAのボーカルもストレートな部分をすごい感じて。決して一般的なストレートさではないんだけど、すごく鋭利な部分をTAMAの声に感じて、それがすごくいいと思う。ところで今回のアルバムには、昔の曲も入れてるんだよね?
MASASHI リメイク2曲と、インディーズの頃の未発表曲を1曲入れてます。
森 だからすごく作品自体の密度が濃いというか完成度が高いというか。さっき言ったけどニューウェイブの頃ってヒカシューとか有頂天とか、歌詞にしても曲にしても自由だったでしょ。ロックンロールのブルースコードじゃないものでもいろんなロックが作れるっていう時代で、革命っていうか発明がいっぱいあった。僕はその頃の音楽がすごく好きで。なんで最近の若い人たちのロックがきちんとしちゃってるんだろうなって思ってる中で、CASCADEはあの頃のようなでたらめさを持ってくれててすごくうれしい。それでいて今回のアルバムは、ロックの強さやアジテーションが感じられるからね。
CD収録曲
- El Paso
- 優しいサギ師の寝言のように
- かりめろ
- サラマンダー
- テキサスフィットネス
- FLOWERS OF ROMANCE ~ヘタウマカウボーイズver.~
- Distortion Pinky ~ぶっ飛ビートver.~
- サイクルキッズ
CASCADE(かすけーど)
TAMA(Vo)、MASASHI(G)、HIROSHI(Dr)の3人からなるバンド。テレビ朝日系で放送されていたオーディション番組「えびす温泉」への出演を機に注目を集め、1995年11月にアルバム「VIVA」でメジャーデビュー。1998年にリリースされたシングル「FLOWERS OF ROMANCE」「YELLOW YELLOW FIRE」のヒットを機に、一躍人気バンドの仲間入りを果たす。個性的なサウンドとカラフルなビジュアルで幅広い層に愛されるも、2002年に解散。その後メンバーは個々に音楽活動を行っていたが、2009年にTAMA、MASASHI、HIROSHIの3人で復活する。同年4月にミニアルバム「VIVO」、2010年5月にフルアルバム「メガラニカ」、2011年に2枚のアルバム「サディスティック・グミ」「マゾヒスティック・ガム」と精力的に新作を発表。2012年4月には過去曲のリメイクを含む新作「ヘタウマカウボーイズ」をリリースし、同月には自身初の主催対バンツアー、さらに6月から全国ツアーも控えている。
森雪之丞(もりゆきのじょう)
東京都出身の作詞家、詩人。大学時代より音楽活動を開始し、1975年に作詞作曲家としてプロデビューする。ロック系アーティストからアイドル、アニメソング、特撮作品など幅広いジャンルでのヒット曲多数。近年は演劇作品の作詞および訳詞も数多く手がけている。実験的なポエトリーリーディングのライブ「眠れぬ森の雪之丞」「POEMIX」を主催。2011年秋より作家の江國香織氏と新シリーズをスタートさせる。同シリーズの次回公演「扉のかたちをした三つめの闇~開けようとするのは江國香織と森雪之丞」は、2012年5月21日に東京・南青山MANDALAにて行われる。