音楽ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN

“変わらない4人”の新曲とドキュメンタリー

BUMP OF CHICKENはコンプレックスの上で成り立っている

──今までビデオクリップの世界で付き合ってきた彼らと、このツアーでずっと見続けた彼らの違い、発見ってなんですか?

升秀夫(Dr)(c)TOY'S FACTORY / LONGFELLOW

ツアー回って面白かったのは……単純に1人のプレイヤーなんだなって思いました。演奏家であることにひたすらこだわってるっていうか。今まで会うときはプロモーション時が多かったんですが、ツアーのときは本当に純粋に1人ひとりが演奏家なんだなって思いましたね。……なんか気がラクでした(笑)。「普通に演奏する人なんじゃん」っていうか(笑)。ライブが楽しくて、いいライブしようと思ってがんばってるただのバンドマンなんだなって思いましたね。

──余談ですが、僕も2001年のツアーから彼らの楽屋にずっといるんです。別に何するわけじゃないんですけど、ただ単に彼らの残った弁当を食って、ライブを観て、それだけでずっと記事書いてるんですよね。それは、ただいるだけなんで、すごい気軽なものに思われてるんですが、なんでだか、1日あれをやっていると終わったあとに異常に疲れるんですよ(笑)。同じような取材形式をほかのアーティストと取ることもあるんですが、長年お付き合いしているこのバンドとのほうが、明らかに疲れてしまうんですね(笑)。それはきっと彼ら4人が何気ないことですごく集中力とか緊張感を持っているし、その気を発してるんだなって勝手に感じたんです。番場さんはそのへんどう思ってるんですか?

あー、すごい。面白いです、その意見は。僕も緊張感はすごく感じます。でも、仕事のときにいると緊張感あるんですけど、ツアーのときはそんなに緊張感はなかったですね。あと、映画の編集して思ったのは、もうすでにMCとか楽曲の中で全部言ってるんだなって思いました。ライブや音楽の中で彼らは言ってたんだなって思いました。改めて引き出そうと思わなくてもMCや歌詞でみんな言ってて、ただそれに気付けなかったんだなって思いましたね。

──すごくわかります。結局ライブ会場に入って、5、6時間彼らがやっていることって、人前で何をするのかっていうことに対して集中したりその意識を集約したりする以外、何もしてないっていうことなんですよね。

そうですね。何気ないけど、その中に全部あるんですよね。だから掘り下げようって思ったけど、別にもう言ってるしやってることだなって。

──僕がバックエリアで疲れるっていうのも、そういうことなんですよ。彼らは、人前に出ることが自分らの天命だと思ってないし、スター稼業をやることにエクスタシーを感じてないじゃないですか。だから逆に、人前に出ることにいろんなことを考えるし、プレッシャーを感じると思うんです、今も。言ってみれば、ネガティブとかコンプレックスとかいろんなものを抱えていて、それでもやっていくんだっていう思いを自分たちに課してる部分があって。それが彼らの緊張感につながってるのかなって僕は思ってるんですけど。

はい、そうだと思います。そう言われると、BUMP OF CHICKENのすべての合点がいきますね。……本当にそう思います。コンプレックスとかそういうのがいろいろあって、その上で成り立っているところが、ちょっと違うんですよね、彼らは。

本当に彼らは変わってない

──映画の最初は、東京ドームでのアンコール時のフジ(藤原基央 / Vo, G)のMCから始まりますが。

あのMCを聞いて、「あ、これだ」と思いました。これが「WILLPOLIS」だと思ったんです。あれこそが結論と言えば結論だなって。そこから映像の中では彼らを追っていくのがいいんだなって思いました。……ライブ(パート)に関しては、できるだけステージだけじゃなくて、いろんな要素があってライブのムードができてるっていうのは見せたいなって思って、ああいうふうな撮り方になったんです。……ツアー回ってドキュメンタリーを撮ってて具体的に見えたものはないんですよ。それは藤原くんが鹿野さんとのインタビューで言ってたことで──「扉」っていう言葉が出てきたと思うんですけど。

──はい。

増川弘明(G)(c)TOY'S FACTORY / LONGFELLOW

「新しい扉」っていうものが、このツアーにはいっぱいあったっていう。それって昔からMCでも言ってたし、歌詞でも言ってることだなって思って。今新しく出てきた考えじゃなくて、こっちが鈍感なだけだったんだなみたいな。

──番場さんのBUMP OF CHICKENの作品で、前からすごいなって思ってたことがあるんです。「ダイヤモンド」の取材時にチャマ(直井由文 / B)の家で雑誌の撮影をしたんですね。そしたら、チャマの親父さんがビデオを持ってきて。それが高校時代のコンテストの映像だったんです。コンテストだから司会者がいて、「次は、佐倉市は臼井から来たBUMP OF CHICKENさんです」とか言って、インタビュー受けてて。「聴きどころは?」「自分たちのアピールは?」とか言われてるんですが、そこでフジが俯きながら「僕たちのことはどうでもいいですから、僕たちの音楽を聴いてください」と言ってて。

ははははは(笑)。本当に変わってないっていうか、今もそうですよね(笑)。

──基本、ずっとそうなんですよね。彼らは最初から彼らで、今も彼らなんですよ。で、最初の頃の彼らは「音楽だけを聴いてください」って言ったときに、本当に音楽だけだったと思うんですよね。つまりは、映像も歌詞カードもない世界っていうか。でも、そこに絵とかストーリーとか、番場さんの世界観を音楽以外で入れていったじゃないですか。あれはすごく攻めてるなと思ったんですね。

ああ……そこまで考えてなかったですね。そこまで考える余裕がないままずっとやって来ているので……でも本当に彼らは変わってないですもんね。

──「自分たちの音楽だけを聴いてください」って言うここ最近の彼らの音楽の中には、ライブの演出とか、今回こうやって映画になることとか、そういうものが全部内包されてきてるんだなって思って。

それを藤原くんが言ってたのは、「そこに曲を連れてってあげる」っていうことで。「それは曲が求めてることだから」っていうことで。それは僕もそう思いました。

勇気ある4人の背中を映す

──番場さんにとっての「WILLPOLIS」はなんですか?

僕にとっての「WILLPOLIS」っていうものは……ないですね……PV愛っていうことですかね?

──あ、ご自身だってことですね。

はい、お恥ずかしい限りですが(苦笑)。

──番場さんにとって、BUMP OF CHICKENとはどういう存在なんですか?

直井由文(B)(c)TOY'S FACTORY / LONGFELLOW

……今回の「WILLPOLIS」の映像を観ていただいたらわかると思うんですけど、背中のシーンばっかり出てくるんですよ。僕は彼らの背中ばっかり見てるっていう。お客さんは前から見たいと思うでしょうけど、僕は背中しか撮れない。ずっとそんな感じ、ずっと背中ばっかり見てきてる感じで。……この映画はかなり僕の目線なんですよね。ずっとうしろからしか見れなかったっていうのもありますし、うしろに回って彼らの見ているものを見ていきたいっていうのもありますし、4人が見ている前に回れないっていうのもありますしね。さっき扉の話がありましたけど、彼らが扉を開けていったり、開けなかったりした扉もあったと思うんですけど──彼らは自分たちのことをよく臆病だといいますけど、よっぽど彼らのほうが勇気があって。「自分たちはビビり」とか言ってましたけど、全然です。結局勇気がある4人で、それを僕はただただうしろに回って見ていたっていう感じです。

──その「前に行けない」感覚って、どういう感覚なんですか?

4人は4人なんですよね。4人だけの何かがあって……その4人が見ているものの気を紛らわせたくないっていうのはありますよね。それがずっとBUMPの印象っていうか……随分といろんなものを見せてくれたなっていうか。

──彼らの背中って、すごく多くのものを語ってるんですか?

それは実際の背中もありますし、イメージとしてもあるんですけど、そんなに多くを語ってるっていう感じはないです。でも、結果的にそれをずっと見てきてるなっていう感じです。結果的にずっとそうやってついていったら、いろんなものを4人が見せてくれたなっていうか。

──要するに、彼らの背中とその先にあるものが、番場さんにとってのBUMP OF CHICKENのポートレートだっていうことですよね。

そうですね。まさにそんな感じですね。実際にそうやって背中ばっかり見てるんで、すみません。本当は顔が見たいと思いますけど、ごめんなさい(笑)。

──ははは(笑)。そこに何があるのか楽しんでもらえたらいいですね。

うん(笑)。

「BUMP OF CHICKEN "WILLPOLIS 2014" 劇場版」のライブドキュメンタリーパートのワンシーン。(c)TOY'S FACTORY / LONGFELLOW
映画「BUMP OF CHICKEN “WILLPOLIS 2014” 劇場版」2014年12月5日公開(※2週間限定上映)
BUMP OF CHICKEN WILLPOLIS 2014 劇場版

出演:BUMP OF CHICKEN(藤原基央、増川弘明、直井由文、升秀夫)

●CGアニメーション
監督:山崎貴
出演:松坂桃李 / 杏 / 水田わさび / 平幹二朗 / 山寺宏一

●ドキュメンタリー
監督:番場秀一

BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)

藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって1994年に結成。地元・千葉や下北沢を中心に精力的なライブ活動を展開し、1999年に1stアルバム「FLAME VEIN」、2000年に2ndアルバム「THE LIVING DEAD」をリリースする。これが大きな話題を呼び、同年9月にシングル「ダイヤモンド」でメジャーデビュー。2001年にはシングル「天体観測」が大ヒットを記録し、ロックファンを中心に熱狂的な支持を集める。2011年2月には「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~」の主題歌に「友達の唄」を提供。2013年3月に初のライブ映像作品「BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012」、7月に初のベストアルバム「BUMP OF CHICKEN I [1999-2004]」「BUMP OF CHICKEN II [2005-2010]」をリリースした。2014年は7枚目のオリジナルアルバム「RAY」の発表をはじめ、初音ミクとのコラボレーション、地上波テレビ番組への生出演などでも話題を集める。同年11月、羽海野チカ「3月のライオン」のテーマソングとして書き下ろした「ファイター」、映画「寄生獣」の主題歌「パレード」をそれぞれ配信リリースする。12月にツアー「WILLPOLIS」を追ったドキュメンタリーとオープニングムービーで構成された映画「BUMP OF CHICKEN "WILLPOLIS 2014" 劇場版」が2週間限定で劇場公開され、2015年2月にはDVD / Blu-ray化される。

番場秀一(バンバシュウイチ)

京都府出身の映像作家。1997年にFANATIC◇CRISIS「SLEEPER」でディレクターとしてデビューして以来ビデオクリップを中心に数々の映像作品を手がけており、BUMP OF CHICKENがメジャーデビュー以降に発表したほぼすべてのビデオクリップで監督を務めている。2005年より映像制作会社・祭(MAZRI)に所属。