“ネオ東京”の答え合わせをしたかった
──1980年代のエレクトロポップから現代的なダンスミュージックまでを内包したトラックメイクも本作の特徴です。サウンドの方向性については、どんなビジョンがあったんですか?
とにかく自分の琴線に触れるものを作りたいと思っていました。80年代のサウンドは1つの指標になっていますね。デジタル機材が使われるようになってサウンドの在りようが変化し、MTVが始まったことでアーティストの衣装、髪型、ライブのスタイルが様変わりしたのが80年代だったわけですが、テクノロジーと格闘しながら新しいものを作ろうとしていたあの時代のエネルギーがすごく好きなんです。80年代の後半になると、1970年代のロックの野生的な感じもいい具合にミックスされていたイメージがあって。今回のアルバムでは、いいバランスでその雰囲気を取り入れたいとも思っていました。80年代後半のサウンドを今の音楽とミックスさせるとすごくハマることに気付いたと言うか。それは僕の中で「AKIRA」(マンガ家・大友克洋の代表作)の世界観とも重なっているんです。
──1982年に連載がスタートした「AKIRA」の舞台は2019年の“ネオ東京”。「AKIRA」のイメージが現在の東京とリンクしているということですか?
はい。大友さんが想像した2019年の東京の雰囲気と今の時代の空気感が重なっていると言うか。80年代の作品には2020年あたりの世界を想像して制作されたものも多いですから、その答え合わせをしてみたかったんです。具体的に言うと、「80年代の楽曲のようなレンジを現在の機材、ソフトシンセを使ってやってみたらどうなるか?」ということですね。「首飾りとアースガルド」「CICADA」などは、まさにそういうテーマで作った曲なので。でも懐古ではないんです。DX-7(1983年にヤマハから発売されたシンセサイザー)のサンプリングなどは一切使ってないし、80年代の音を作りたいわけではなくて、当時のサウンドが今の時代の音とシンクロしていることが重要なので。
──確かに「Entrée」は、2018年の都市のサウンドトラックとしての側面もあると思います。
そう聞こえたらうれしいですね。80年代は新しい機材が発表されるたびにみんなが一斉にそれを使っていたわけですが、今はすべてが出そろっているし、この先、まったくの新しいサウンドは生まれないと思っていて。「過去の膨大な音を取捨選択して、どう組み合わせるか」という作り方にシフトしているし、特に2010年代のEDM以降はその傾向が強くなっていると思うんです。僕にとって1980年後半のサウンドはエバーグリーンなものだし、それを現代の音と結び付けることはすごく意味があって。
──音色と同様、リズムに関しても「新しいものは生まれづらい」と考えていますか?
そうですね。やはり、「すでに存在しているリズムをどう組み合わせるか?」ということだと思います。今後のアーティストの在りようとしては、新しいものを追いかけるのではなくて、自分の芯をいかに貫いていけるかが大事になってくるでしょうね。自分の好きなサウンドや歌詞を追求して、過去の音を組み合わせながら「これが自分の世界観です」というものをいかに打ち出せるか。流行りのサウンドというものはこの先、さらになくなっていくでしょうからね。もっといろいろな音楽が混在している状態になるだろうし、だからこそ自分自身の音楽をしっかり提示することが必要なのかなと。
「Entrée」が入口であり、骨の部分でもある
──「Entrée」はBRIAN SHINSEKAIのボーカリストとしての個性を打ち出した作品でもあると思います。声にもメロディにもいい意味でアクがあって、それが1つのフックになっているので。
歌い方に関しては一時期けっこう悩んでいたんです。声が低いこともあって、ほかのアーティストの曲をナチュラルに歌うことができなかったし、それがコンプレックスにもなっていて。以前はちょっと無理して高めの音域で歌おうとしていたこともあったんですけど、その後、自分の声が映える音色、キーを模索して、それがガチっとハマるバランスで曲を作るようになりました。今回は一番自然に歌えていると思います。サウンドを含めた自分の声の生かし方など、一番いいバランスで歌えるやり方を見つけられたアルバムでもありますね。一般的な男性ボーカルよりもかなり低いキーで歌ってるんですよ、実際。そこはある意味開き直ってるところあるし、自分の声に合った音域で歌うほうが、聴いている人もしっくりくるだろうなと。以前よりも自分の声に向き合えた実感もあります。
──自分自身のボーカルスタイルを確立する過程で、参考にしたシンガーはいないんですか?
いろいろな影響はあると思いますが、「この人みたいに歌おう」ということはないです。音域が近いのはミーカですかね。低音とファルセットを生かすというところも通じるところがあると思います。あとはブライアン・フェリーとかデヴィッド・ボウイとか。日本のアーティストでは荒井由実から松任谷由実になった頃のユーミンさんの節回しはなぜか体内に入っている気がしています。ただ、僕は自分のことを歌手だとは認識していなくて、やっぱり曲を作ることが先にあるんです。だからボーカリストとしての自分を主張するというより、曲を届けるための重要なパーツという感じなんですよね。
──アルバムリリース後はライブも増えていくと思いますが、「Entrée」の世界観を表現するパフォーマンスについてはどんなビジョンがありますか?
ロックスター的な存在が好きなので、自分もそうありたいと思っています。エレクトロ、テクノ系の職人気質なアーティストも素敵ですが、僕は全身を使ってパフォーマンスしたいし、表現したいんですよ。想像以上にアクティブなライブになると思いますね。
──それも楽曲を伝えることが主な目的であって、自己顕示欲ではない?
自己顕示欲はかなり強いですよ(笑)。見られたいという気持ちもあるし。ただ、曲を書かないと、自分が何を伝えたいのかわからないんですよ。曲を作ることで初めて「なるほど、自分はこれを表現したかったんだ」ということが見えてくると言うか。そのことによって、自分の中にあるエネルギーの出所がハッキリするんですよね。
──サウンド、歌詞、ボーカルを含め「Entrée」によってBRIAN SHINSEKAIの全貌が明らかになると思います。このアルバムが本当にスタートかもしれないですね。
音楽的にはいろいろな要素が入っていますけど、世界観は統一しているつもりで、BRIAN SHINSEKAIがどういうアーティストなのか、その印象は絞られると思います。「Entrée」には“前菜”という意味があるんですが、これが入口であり、骨の部分でもあるという感じですね。「Entrée」で描いたストーリーもここで終わりではなく、今後に続いていく予定なんです。このアルバムをベースにしながら、さらに表現を広げていきたいですね。
先行配信中楽曲プレイリスト
- BRIAN SHINSEKAI「Entrée」
- 収録曲
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- 首飾りとアースガルド
- TRUE/GLUE
- 東京ラビリンス ft. フルカワユタカ
- FAITH
- ゴヴィンダ
- バルバラ
- ルーシー・キャント・ダンス
- CICADA
- クリミアのリンゴ売り
- Loving the Alien
- 2045(Theme of SHINSEKAI)
- トゥナイト
- BRIAN SHINSEKAI(ブライアンシンセカイ)
- 2009年、17歳のときにブライアン新世界名義で出場した「閃光ライオット」でファイナリストに。2011年に1stミニアルバム「LOW-HIGH-BOOTS」、2012年に2ndミニアルバム「NEW AGE REVOLUTION」を発売した。2013年にはバンドBryan Associates Clubを結成してライブ活動を展開。2016年11月に活動を休止したのち、2017年9月に新プロジェクトとしてBRIAN SHINSEKAIを始動させた。2018年1月にビクターエンタテインメントよりデビューアルバム「Entrée」をリリース。収録曲をアルバムの発売に先駆けてサブスクリプションサービスで順次先行配信するという試みで話題を集めている。
2018年1月24日更新