ポップなうえでどこまで攻められるか

──ターゲットを絞った曲はほかにもあるんですか？

冨塚　「Alright!!～令和若者讃歌～」もそうですね。この曲は社会人になって2～3年の方に向けて書きました。僕らは社会人でいうと4年目の歳で、会社に勤めてる友達からしんどい話を聞くこともあるんですよ。それでも悔しさを滲ませながら自分たちの活動を応援してくれるのがありがたかったり。そんな友達に「俺も音楽がんばるから、お前も仕事がんばってくれ」っていう気持ちを込めて作ったんです。ターゲットを絞ると、逆にいろんな人へ届き得る曲になるのかもしれないなと思いましたね。

飯村　うん、そうだと思うよ。本当にいろんな曲ができたし、どう届くのか楽しみです。僕らにはポップな曲がたくさんあって、その中にロックな曲もあったりするので、サウンド面のさじ加減が難しいんですけど、「ポップなうえでどこまで攻められるか」みたいなことは全曲で意識してますね。

──「リベラル・セブンティーン」の間奏はツーバスで攻めてますよね。

飯村　この曲ではあえて若い頃のはっちゃけた感じをドラムで思いっきり出してみました。対照的に「毛布の中で抱き合って」はほかの曲の半分くらいの音量で叩いてたりしています。シンプルなフレーズが好きな僕に比べて、白澤のベースはけっこう動くので、そのバランスもいいんじゃないかなと。

鍔本　ギターはロックな面を多く入れられたと思います。「縋-sugare-」とか、ファズでいい味が出せたんですよ。「Boo!! Let it go!!」のソロもいいよね？

冨塚　最高だね。あのギターソロを録るとき、ちょうど僕がレコーディングを抜けなきゃいけなかったんだけど、戻ってきたらすごいノイジーなやつができてたからびっくりしたよ。「隼、こんなの弾けたのかよ！」って。

鍔本　こういう歪みや激しさも新鮮だと思います。

──編曲のクレジットに白澤さんの名前がある「ナニモノ」も印象的でした。

白澤　自分でアレンジをするのは趣味の範囲でもやったことがなくて、この曲が本当に初めてなんですよ。なのに、いきなりアルバムに入ると聞いて「マジか!?」って感じだったけど、1カ月くらいかけて死ぬ気で作りました。せっかくやるなら面白いものにしたくて、チルアウトやヒップホップのビートを参考にしつつ。

冨塚　結果的にすごくハマりましたね。「ナニモノ」は“もう大人”と“まだ子供”の間で揺れるモラトリアムを描きたかったんです。僕自身も今なおモラトリアムだし、同い年の友達なんかもそうで、その不安定さをアレンジでも出したいところだったんですけど、やっぱり才能あるなと思いました。

白澤　ありがとうございます（笑）。

冨塚　白澤は絵も上手なんですよ。小1のときに隣のクラスだったんですけど、「めっちゃ絵がうまいやつがいる」って聞いて、当時の僕は恐竜の絵を描いてもらったりして。昔から白澤の芸術的なセンスには憧れてるし、信頼しているんです。

──リード曲の「Goodbye My Love」はどうですか？

冨塚　メジャー1作目にふさわしいリード曲がなかなか書けない中で、やっと絞り出せました。苦労の末、いい曲ができてよかったです。「衣替えをしたコートに映画の半券が入ってたことで昔の恋人を思い出す」っていう描写がBメロの歌詞にあるんですけど、その部分が閃いた瞬間に曲の全体像がパッと浮かんだ感じで。

鍔本　半券のところの歌詞は僕も好きですね。

冨塚　これまでも失恋の曲はあったけど、ただただ恋が終わってしまったこと、誰かと別れてしまったことを歌ってたんですよ。メジャーデビュー発表と同時に配信リリースした「スノウドロップ」もそうでしたね。

──確かに。

冨塚　でも、「Goodbye My Love」はそこから前に進んでるというか。「My Love」、イコール自分の思い出とお別れする曲で、その部分を表現したかったんですよね。歌詞はすごくいいものが書けました。

──季節感がとてもきれいに出ていますし、Bメロの歌詞が「映画の半券」とか具体的な描写なのに対して、サビはあえて抽象的に仕上げた印象を受けました。その恋の美しさが映えるように。

冨塚　気付いてもらえてうれしいです！ 普段の僕はサビでわかりやすい言葉を用いて、AメロBメロで抽象的な表現をすることが多いけど、「Goodbye My Love」はサビのコード感がきれいだったので、1つもやのかかった美しい光景が広がるイメージで書いたほうが曲のよさが引き立つと思って。いつもと違う試みなんですよ、そこは。

飯村　めちゃくちゃいい曲だよね。弾き語りで聴かせてもらったとき、鳥肌立ったもん！ そんな経験も初めてでびっくりしました。僕はずっと推しの曲だったので、無事リードになってよかったです。

冨塚　スタジオで昇平が「最高だよ、泣きそうになったよ」って言ってくれたのは忘れられないですね。やっぱり、メンバーに褒めてもらえるのが一番うれしいです。

歩んできた人生を込められた

──「FOREVER YOUNG」は、できあがってみてどういう作品になったと思いますか？

冨塚　僕は完成してからずっと聴いているくらいで、本当に最高のアルバムだと思いますね。自分たちが歩んできた人生、感じてきたことを込められたので。

白澤　生き方みたいなものが一貫して歌われてるから、1曲ごとにサウンドはガラッと変わるけど、聴きやすいアルバムだと思うんです。

飯村　幕の内弁当っぽさって言うんですかね。いろんなタイプの曲があるのに、ここまで違和感なくまとめられるバンドはなかなかいないと思います。

鍔本　音もいいしね。今アルバムの収録曲を見返して思ったんだけど、ギターソロがある曲もめっちゃ多い。

冨塚　確かに。僕らギターソロ大好き人間だからね（笑）。

鍔本　最近のバンドってギターソロが少ないじゃん。あれはおかしい。

冨塚　おかしいよな！ 僕らはガンガン入れていこう。鼻歌で口ずさめるギターソロがあると、やっぱりいいよね。

鍔本　レコーディングでも「歌って歌って」って言われます（笑）。

──歌も演奏もメロディアスですよね。

冨塚　そこは重要ですね。ただ、このアルバムは万人には届かなくていいと思ってるんです。今までは「万人に届け！」って感じでやってきましたけど。

──考えが変わるきっかけが何かあったんですか？

鍔本　独特な理由なんだよね。

冨塚　うん。最近、新聞やニュース番組で虐待の話を目にすることが多いじゃないですか。そういうのって僕には想像もつかない感覚で、あるニュースを見たときに驚きのあまり吐きそうになってしまって。当事者にまったく共感できず、拒否反応を起こしてしまったんです。

──理解しようにもできるわけがないくらいの感覚に直面したと。

冨塚　はい。今まで万人にウケようとしてたけど、僕はそういうまるっきり共感できない人にも音楽を届けようとしてたのかもしれないって、意外なところで気付いたというか、「それは無理だろ」と割り切れたんですよね。不思議なきっかけなんですが、まずは自分らの音楽を受信してくれる人たちへ届けることを第一に考えるようになりました。