BOYS END SWING GIRL|“さわやか”という怪物に食い殺されない冨塚大地の孤独と覚悟

6月にメジャーデビューを果たした4人組ロックバンド、BOYS END SWING GIRLが早くも新作ミニアルバム「STAND ALONE」を完成させた。

本作には、「一歩前へ進むための曲を届けたい」という思いから生まれた壮大なサウンドのリード曲「ラックマン」をはじめ、体育会系出身の彼ららしい不屈の闘志がにじむ表題曲「スタンドアローン」、インディーズ時代に制作した切ないラブソング「スノウドロップ」のリミックスバージョンなど、“孤独”をモチーフに掲げた全6曲が収録されている。

音楽ナタリーではBOYS END SWING GIRLのフロントマンである冨塚大地(Vo, G)に、楽曲のテーマ性に加え、届けるターゲットも明確になったように感じられる新作「STAND ALONE」について、じっくりと話を聞いた。メジャーデビューから半年。バンドはどんな時期を迎えているのか。

取材・文 / 田山雄士 撮影 / 宇佐美亮

自分の中の成長

──前作「FOREVER YOUNG」のレコ発ライブ(7月21日東京・WWW X)でお会いしたときに「年内に次の作品を出したい」と話してましたよね。

なんとか間に合いました(笑)。でも、今回もかなり大変でしたね。作品を生み出すのは。

──メジャーデビューから半年が経って、バンドはどうなってきていますか?

冨塚大地

この半年はライブの本数を減らした分、制作に費やせる時間が増えて、レコーディング前の段階でこだわった状態まで持っていけるようになりました。やっぱり自分としっかり向き合う時間がないと曲が生まれないのはすごく感じていて、本を読んだり映画を観たりいろんなものに触れつつ、「自分の中に何があるのか」を考える時間は必要だなって。

──考え方も変わってきますよね。

僕はもう「いい曲を書くだけ」という思考にたどり着けました。例えば前作の「FOREVER YOUNG」をどうやって広めるかとか、今後バンドのコンセプトをどんなふうにしていくとかを考えるのも好きだったんですけど、本当にいい曲を書くことだけが仕事だと思えるようになった。それは自分の中で成長だと感じてます。

──そう思えるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?

こんなことを話すのはおかしいかもしれないんですけど、今作「STAND ALONE」の楽曲がある程度できて事務所のスタッフに聴かせたとき、「まだ曲が弱いね」と言われてしまったんですよ。自分ではすごくいい曲ができたと思って提出したから、「そんなわけないだろ!」とめちゃくちゃ腹が立って。でも家に帰って1人で改めて「強い曲ってなんだろう」と考えたら、レミオロメンの「粉雪」とか、ゆずの「栄光の架橋」とか、Official髭男dismの「Pretender」とか、日本中を巻き込むような曲が頭に浮かんできたんですよね。

──なるほど。

だけど「そこを目指していたのか?」と聞かれたら素直に「イエス」と言えない自分に気が付いたんですよ。すごい曲と張り合う意識が足りてなくて、スタッフの指摘は確かにその通りだと思いました。メジャーで活動するのはMr.ChildrenやBUMP OF CHICKENと同じ土俵にいるということで、そういう人たちと戦っていく覚悟が必要なんだと、ここに来てやっと腹をくくれて。バンドに期待してくれてるからこその言葉でしょうし、今は「絶対に超えてやろう」という考えになってきてますね。学生時代は僕と白澤直人(B)がサッカー部、鍔本隼(G)と飯村昇平(Dr)が野球部で体育会系出身だから、みんな“ナニクソ精神”がハンパないんです(笑)。

なぜ泣いてるのかもわからない自分に曲を書こう

──新作「STAND ALONE」では、「ラック」「ロンリー」「アローン」といった孤独感のにじむ言葉を多く使ってるのが印象的でした。

最後に収録されてる「スタンドアローン」がアルバムの軸になってるんです。これはメジャーデビューアルバムの制作期間にできた曲で、当時はメジャーへの道のりの厳しさというか、期待されたものを超えられなかったり、自分の才能の限界を感じたりしてて、すごく苦しかったんです。音楽を辞めようと考えてしまうくらいに。何日も曲が書けなかったり、ギターを弾いていたら知らず知らずのうちに涙が出てきちゃうみたいな状況だったんですけど、そんな中で「なぜ泣いてるのかもわからない自分に向けて曲を書こう」と思って。

冨塚大地

──「スタンドアローン」の歌詞は、まさに今の話がそのまま描かれてる感じですね。

はい、めちゃくちゃ苦しんでました。なのに、そう切り換えたら1時間くらいで全部書き上げられたので、僕の中で忘れられない大切な曲になって。だから、この曲を主体にアルバムを作りたいと思ったんですよね。おっしゃった通り“孤独”がモチーフになっていて、すべての楽曲にそういう要素を入れてます。

──前作よりも歌詞の視点がはっきりしたのは、「スタンドアローン」を苦しんで生み出せたことが関係してると。

作ってるときはずっと独りぼっちだと感じていたんですけど、楽曲ができてそれを広げてくれるスタッフがいる中で、ありがたみが身に染みてわかったというか。1年前くらいに「スタンドアローン」が書けて、メジャーデビューまでの間にいろんな人と出会って、その人たちと一緒に音楽を届けられるのがすごく幸せだなと思ったんです。「みんな当たり前に独りぼっちで、そんな独りぼっち同士が出会って一緒に生きていくことが幸せなんじゃないか」って。アルバムを通してそう歌いたくなったのは、自分でも不思議な感覚なんですけどね。

──ジャケットにもそういうイメージを反映させたんですか?

そうですね。「1輪の花が凛と立っている感じっていいな」と思ったんです。アルバムのテーマに孤独があるので、全体の色合いも少し暗めにして、それでも精悍に生きてる人の姿が想像できるデザインにしてもらいました。

僕が歌ったら伝わることがあるかもしれない

──「孤独」にフォーカスしてるとはいえ、現代社会の風景が思い浮かんだり、歌詞は一段と広がりのあるものになった感じがしました。

冨塚大地

ありがとうございます。いろんな視点で孤独を捉えたくて、この半年はニュースを積極的に見たりして、社会や世界の情勢を知る機会を増やすようにしてたんですよ。その中で現代について歌いたい気持ちも生まれて、「ラックマン」「LONELY HOPE」には顕著にそれが表われています。今まではどこか触れるのを避けていて、「自分が表現するにはまだ若い」「俺が歌ったって誰にも通じない」「若造が何言ってんだと思われる」みたいな考えがあったんですけど、メジャーデビューして聴いてくれる人が増えて、「冨塚大地さんの言葉だったら聞きます」という方がまだまだ少ないながらも確かにいるのを感じてるし、僕は「何を言うか」よりも「誰が言うか」を重視してたりもするので、そろそろ世の中のことを歌ってもいいんじゃないかなって。

──そういう背景があったんですね。

テレビの中のお偉いさんが社会や世界を語っても伝わらないけど、僕が曲にして歌ったら伝わることがあるかもしれないじゃないですか。なので「今しか歌えない孤独ってなんだろう」とか、逆に「ほかの時代の人たちが感じていた孤独ってなんだろう」とか、いろんな孤独を意識しながら曲を作りました。「同じように苦しんでいて今をどう生きればいいかわからない人たちに、一歩前へ進むための曲を届けたい」と思って。その役目を一番果たしてくれるのが恐らく「ラックマン」だから、これをリード曲にしたんです。

──「ラックマン」は“欠けた人”みたいな意味ですか?

欠けるの“lack”と幸せの“luck”を掛けているんです。さっきの話と重なっていて、「誰もが欠けた存在の“lack”なんだけど、欠けた人同士が出会って互いに補い合うことで幸せの“luck”になれるんだよ」という。言葉遊びもありつつ、しっかりとメッセージを込めた曲にできました。「ラックマン」の原型は実は21歳の頃にあって、周りのみんなが就職していく中で自分はどこに行ったらいいかわからないという当時の感情と、大人になって客観的に捉えられる「あのときつらかったよな」という感情が含まれていて。どちらもあってこその曲になったと思いますね。

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