イレギュラーだった「ラブレター」
──このライブではTHE BLUE HEARTSの「ラブレター」が演奏されたことがファンの間で大きな話題になりました。
内田 「ラブレター」は僕からお願いしたんですよ。レコードで聴いたのではなく、公園のベンチで演奏してる映像をテレビで観て、すごくいい曲だなと思って。ポップスにはだいたいお決まりの進行があるんだけど、それとは違う展開の曲だし、歌もいいし。横浜のライブに向けてそのことを思い出したから提案して、「うーん」と唸ってたけど、結局歌ってくれました。
──ヒロトさんはライブで前のバンドの曲をあまりやらないですよね。
甲本 やらないですね。このときも抵抗はあったんですよ。でも、勘太郎さんと一緒にやるということが特別に感じられて。普段いろんなところでセッションをやらせてもらって、全部が特別なんですけど、二度とないかもしれないくらいに思ったんです。だったらこのチャンスにできること、リクエストされたことに応えてみたいというモードに入りました。かなり抵抗はあったけど(笑)。
内田 この曲のギターに関してはなかなか厳しい指導をされました(笑)。「そこは違います。こうやってほしいです」って。当日演奏したら客席がワッと沸いて、ずっといい曲だなと思ってたけど、みんな知ってる曲だったんだね。会場の温度が上がったもん。
甲本 やっぱりイレギュラーなことだったんじゃないですかね。
甲本ヒロトを抱きしめてやりたい!
内田 そのときのライブでハーモニカの演奏もすごくいいということに気が付いて、「2人で一緒にできるな」と思ったんです。打ち上げで「2人でブルースのアルバム作ろうや」と言ったら、ただ黙って笑っていましたね(笑)。まあ抱えているものがたくさんあるだろうから、そう簡単にはいかないよね。で、去年に沖縄の古い友達のパン屋で偶然会って。
甲本 沖縄に行くと必ずそこのパンを食べるんです。
内田 そのパン屋の何周年かのお祝いをやってて、僕は車で遠くないところに住んでるから「泡波」という一升瓶の泡盛を持って遊びに行って。
甲本 上等なテキーラやワインから始まって、いろんな種類のお酒を飲み続けてたんですよ。そこに勘太郎さんが一升瓶を持って現れて。僕、昼間にアオタテハモドキという蝶々をオスとメスのペアで獲ったことがうれしくて、気分がよくてお酒が進んでたんですよ。そんな中でブギ連の結成が決まったと思います。
──はっきりとは覚えていない?(笑)
内田 ヒロトさんのマネージャーも横にいて飲んでたから、「それは面白いんじゃない?」という流れになって。
甲本 そうだ! スケジュールを仕切ってる人たちが全員あの場にいたんだ。完全なプライベートだったんですけど。
内田 そしたらもう話は早い。ちまちまヒロトさんの家に行ってお稽古して。
甲本 2回くらいやりましたかね。
内田 オリジナル曲でいこうという話で始めたけど、曲の元ネタがわかる人たちにはすごく面白いアルバムだと思う。
甲本 下敷きは全部透けて見えます。
内田 でもブルースは歌った人のものだし、作曲者がどうこうという音楽じゃないんですよ。電光石火というか、その場限りの音楽だからその瞬間に火花が散ったらどれもオリジナル。だから、サクサク録れちゃったよね。アルバムに入っていない曲もけっこうあるんですよ。
甲本 僕は、もうちょっとちゃんとやったほうがいい気はしたんですけどね。このアルバムがちゃんとしてないとは言ってないですけど(笑)。もう1回録ろうとすると嫌がるんですよ。「もういいじゃん、今ので」って。確かに聴いてみるとそれがいいんですよね、不思議と。
──内田さんとしては、満足したテイクが録れたと。
甲本 違う。「飽きた」って言うんですよ。
内田 いやいや、飽きてない(笑)。何回でもできますよ、それは。より上手に弾くことはできると思うんだけど、火花が散る箇所がいくつかあったらもういいかなと。ハマった瞬間はお互いにわかるし、ニヤリとする余裕があるわけね。レコーディングでなかなかそういうことはないんだけど、すごくリラックスしてめちゃくちゃ入り込んでる瞬間、「甲本ヒロトを抱きしめてやりたい!」という瞬間があるわけ。
甲本 怖いよー(笑)。テスト盤を持ち帰って聴いたときは、ひさしぶりにギターの音を1つずつ追いかけました。左手の動きからピッキングまで全部なぞって。ジョン・コルトレーンのジャズを初めて聴いたとき、サックスを吹く振りをしたみたいに。サックスを持ったことすらないのに(笑)。ああいう感じになりました。
内田 それはよかった(笑)。
その場に現れる泥を練っている
──ザ・クロマニヨンズのレコーディングとは違うものがありましたか?
甲本 そうですね。構築していく感じがなかったです。その場に現れる泥を練っているみたい。終わったら自分が泥だらけで立ってて、そこに泥の塊が1個あるという。大事なのは泥が変化していく過程であって、本当に土をこねくり回すようなサウンドなんですよ。変化に富んでいて、土がぐにゃぐにゃになっていく様を感じられるので、それを楽しんでもらえればと思います。
内田 備前の土だね。俺も母方の田舎が岡山なんですよ。だからヒロトくんを知ったときは、「岡山の人なんだ。応援しなきゃ」という気持ちもあったね。
──ボーナストラックには「道がぢるいけえ気ィつけて行かれえ」という曲がありますが、これは岡山の言葉なんですか?
内田 「道がぢるい」とは「道がぬかるんでいる」ということです。子供の頃、岡山のおじさんに「道がぢるいけえ気ィつけて行かれえ」と言われたことをすごくよく覚えていて(笑)、ここに来て噴出しました。
甲本 最後にこの曲が入るのがちょうどいいんです。ほかの曲はセッションしてその場で作ったんですけど、これだけはハーモニカとギターだけで最初にインストを録ったんですよ。そこにあとからセリフを入れていくという形で仕上げて、何かひと言入れようと考えたときに、この言葉しかなかったんです(笑)。
内田 ヒロトさんがすごく上手に言うからさ(笑)。
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ブルースは底辺が広いぶん、頂点がすごい