BiSH|汚くて美しい、人間らしさにじむアルバムが完成

リンリンが椅子と同化する「FREEZE DRY THE PASTS」

──「FREEZE DRY THE PASTS」ではリンリンさんが椅子を使ってダークで妖艶なパフォーマンスを披露していました。まるでミュージカルのようでしたし、観ていて引き込まれました。

リンリン

リンリン あの曲の振り付けは「共依存」がテーマで、私とほかの5人で共依存していて、そこから抜け出そうとする子がいても……。

アイナ 髪の毛を引っ張って「行かないで」という気持ちを表現したり、相手も気持ちを割っていて、逃げたいんだけど心の底では依存しちゃっているから、戻ってきちゃう。沼に入っているような状態です。リンリンに一番似合うテーマかなって(笑)。

リンリン すごく共感しやすいテーマの振り付けでした。曲の世界に入り込むのが好きなので、この曲では何者かわからない何かに取り憑かれたような気持ちになれました。「STiCKS」の楽曲は入り込みやすい曲が多くて、「優しいPAiN」も感情がすごく入りやすいです。

アイナ 最初は椅子を使ったパフォーマンスをこんな歪んだ曲でやるにはどうしたらいいんだろうと考えていて。リンリンと相談しながら、リンリンが一番綺麗に見える振り付けを考えたら、想像以上に美しかったし、回数を重ねるごとにリンリンがもはや椅子と同化してるようにも思える瞬間がありました。

リンリン 今回のツアーはカメラありの会場が多かったので、アイナ象の頭をなでる場面で、どうやったら気持ち悪い手の動きができるかとか、細かいところにもこだわりました。家で自撮りしながら自分の太ももをなでて、気持ち悪さを研究して(笑)。ゆっくりゆっくり指を動かすと気持ち悪さが出るなって。あとは背筋をすごくまっすぐにするとより気持ち悪くなるかなと思って姿勢を直したり。

コントにMC、メンバー発信のライブ

──また今回のツアーではハシヤスメ・アツコさんの初ソロ曲の披露を含むコントが序盤にありました。

チッチ 最初に今回のツアーの構成を知った時点でコント始まりなのは決まっていたので観念した……というと誤解がありますね(笑)。ある程度シナリオはありますけど、ハシヤスメのアドリブに私たちが合わせるという流れなので、ハシヤスメ次第なところが大きかったです。曲が始まったらBiSHはちゃんとライブモードになるので、コントには左右されないです(笑)。

──コントのクオリティについて、渡辺さんから厳しい意見が出たことも過去にはあったと思うのですが。

チッチ そうですね。でも今回のコントに関して、渡辺さんはほとんど関わってないんです。自分たちで毎回話し合っているので、いつもとは感覚が違いますね。MCも自分たちの言葉で話すので、セトリ以外は自分たちで作り上げています。

セントチヒロ・チッチ

──以前よりDIY要素が増えてきている?

アイナ もはやそれしかないくらいにはなってきてますね。コントに関しては毎回、話すことも違うし、ハシヤスメはほぼ台本なしなので。以前は渡辺さんが書いた台本に寄り添いながら、ハシヤスメがメインで舵をとって、チッチやモモカン(モモコグミカンパニー)がアドリブを挟むパターンが多かったです。

デモをもらった時点で「いつもと違う」

──「CARROTS」のリード曲「I am me.」は、「もしもBiSHでなかったら」というテーマのミュージックビデオも公開されました。MVはそれぞれBiSH以外の生活を送っているという設定で、チッチさんは助監督、アイナさんは保育士、リンリンさんは主婦かなと思いながら見ていたんですが、細かい設定はあったんでしょうか?

チッチ 1人ひとり細かい設定があって、私は「映像系の助監督」です。

アイナ 私は「子供を預かっている人」です。

リンリン 「家事見習いの愛犬家」です。

──それぞれ自分で決めたんですか?

チッチ 決めたのは監督ですけど、事前にメンバーそれぞれが過去にどんなことをしたかったか、どんな夢を持っていたのかをお伝えして。そこからストーリーを組み立ててくれました。

リンリン 私はお嫁さんとかトリマーと答えたら、あの設定になりました。

アイナ・ジ・エンド

アイナ 私はアイナ・ジ・エンドとしてではなく、個人的に友達と去年から児童養護施設に行って、けん玉をやったりしているんです。最近はあまり行けていないんですが。それもあって監督には「こういうところでも働けたら」と伝えて、「子供を預かっている人」になったんです。

──「CARROTS and STiCKS」の収録曲「DiSTANCE」は「My landscape」(メジャー2ndアルバム「THE GUERRiLLA BiSH」リード曲)からの流れを組むようなスケール感の大きな楽曲です。昨年の幕張メッセ公演ではストリングス隊を迎えた生バンド編成を従えて、楽曲のスケール感が増している印象がありましたが、今回は壮大な雰囲気の楽曲でもストリングスを排したバンドサウンドがメインになっています。

チッチ そうですね。デモ音源をもらった時点で「いつもと違うな」と感じました。「CARROTS」は青春パンクというか、ガシガシ楽器の音がわかるような曲が多くて、「STiCKS」は全体的に歪んでいてBiSHにとって初めての曲調、アレンジが多いような感じがします。「FREEZE DRY THE PASTS」に静と動のコントラストが入っていたり、「遂に死」が今までにないタイプの激しい楽曲になっていたり。アルバムに入っている「アイデンティティ」はギターの印象的なフレーズがあって、今までのBiSHっぽくなくて、よりバンドっぽいですね。松隈(ケンタ / SCRAMBLES)さんが好きそうな感じのメロディ、サウンドが多い気がしました。

──「DiSTANCE」は「STiCKS」「CARROTS」のどちらにも属さないタイプで、今までにない“エモさ”がありますね。

チッチ “エモい”という表現の意味はシチュエーションによって捉え方が変わりますけど、「感情を揺さぶられる音楽」というのがバンドにおける定義みたいで。「DiSTANCE」は言われてみればエモい楽曲なんだろうなと思いますし、「STiCKS」「CARROTS」のどちらにも属さないのはもちろん、今までのBiSHにない、まさに新しい表現が詰まった1曲だなと。ツアーの松山公演で「DiSTANCE」をセットリストの1曲目にして初披露したときも、やっぱり今までのBiSHにはない感じだと思って。お客さんは、真顔で見入る人もいれば、感情的に熱くなっている人もいて、不思議な気分でした。

リンリン 「DiSTANCE」はアイナ象が1人で歌った仮歌の音源がとてもよくてずっと聴いていました。あまりに素敵だったのでアイナ象の仮歌をたくさん聴いてからレコーディングしたら、大事な1番のサビ前の歌割りがもらえてよかったです。

──リンリンさんの歌う落ち着きながらも秘めた力強さを感じるサビ前、爆発力のあるアイナさんの歌うサビ前半があって、サビ後半でチッチさんがボーカルリレーのバトンをつないでいく。チッチさんのブレスの生々しさがすごくよかったです。

チッチ 息をいっぱい吸わないと出せないキーの曲が以前より多くなってきて、自然とブレスが強くなってるんですよね。ブレスは自分にとってすごく重要です。

──息を吸う部分すらも“聴かせる”という域に達しているような感じがします。

チッチ 最近、松隈さんに「ブレスもキー出とるやん! 音程が付いとっちゃんね。なかなかおらんし、面白いからええよ」と言われまして(笑)。意図して出してるわけじゃないんですけど、気が付くと息を吸うときに「ヒイ!」ってなっちゃうんですよね。