ライブをやる意味って?
──カサヴェテスとVIDEOTAPEMUSICがつながる世界線。面白いです。さて、ここからは、共演を前にして、それぞれのライブ観についてお聞きします。
VIDEO Chappoは、結成はしたもののライブはずっとやってなかったんですよね? 最初は曲作り、音源作りがメインだったということ?
福原 そうですね。
細野 まず、音くんの好きな音楽を共有して研究するところから発足したようなところがあったので。「このノリをどうやったらできるのか?」みたいな。
福原 ただライブをしてもしょうがないと思っていたんです。
VIDEO 音楽を作ることと人前でライブすることは、どうしてもセットとしてみなされがちだけど、そこのハードルが高かった?
福原 ライブって、ちょっと妥協したところにある表現だというイメージもあったかな。それは憧れと反比例した気持ちだったかもしれないんですけど。
VIDEO 理想と、自分自身の身体でできることとの噛み合わなさ、みたいな?
福原 そうです。うまくできないなら落ち込むだけだし、乗り越えるアイデアも特になかったので、やりたい気持ちは自然と遠のいてました。
VIDEO 徐々にライブをやり始めるようになったのは?
細野 外圧?(笑)
VIDEO でも、やっていくと自分の中でハードルを突破できたりする。
細野 ライブできるメンバーが集まってきたのは大きいかも。
福原 それはある。あとは、自分の中で、やることに意義があるというか、スポ根みたいなマインドが芽生えた。それは悠太くんといることで出てきたかもしれないです。彼はライブをやるのも観るのも好きなので。僕はいろいろ抵抗があるタイプだけど、悠太くんは「こないだ観たライブでこういうやり方あったじゃない?」みたいな提案をしてくれる。でもそういう意味では、僕はVIDEOさんのライブが一番悔しいですけどね(笑)。
──悔しい、って!(笑)
福原 映像もあって、自分がああいうことやれたらいいのに、って思うんです。
VIDEO 僕もいまだに正解はわからないんです。今はやっとメンバーが固定して数年やってるけど、あの形が定まって僕も自信を持ってやれるようになった。やっぱりかつては、音源の代用品になり得るわけじゃないのにそういう完璧さを求められてしまうように感じていて、ライブをやるのはあんまり好きではなかったですね。今はメンバーも含めていいバランスなんです。
福原 VIDEOさんは最初から映像と演奏を一緒にやるスタイルだったんですか?
VIDEO 大学のときに初めて、映像を流しながらピアニカを吹くというスタイルでやって、そこから徐々に変化して今の感じに近くなっていきました。最初のうちは、オケだけ流してピアニカを吹くのがカラオケみたいで抵抗があって、ライブ中にビデオデッキを開けてテープをスクラッチしたり(笑)、無茶してましたね。でも、自分の作る曲のスタイルがはっきりしてからは、ライブ感を求めて手数を増やすより、ピアニカ1本で映像を見せたほうが何をやりたいか伝わるなと思って、シンプルな形になっていったかな。
踊らせ方へのこだわり
福原 VIDEOさんの音楽もそうなんですけど、アーカイブ的な要素が強い人って、普通はあんまり肉体性には興味がないアーティストになりがちだと思うんです。でも、VIDEOさんの音楽はダンスが根底にあって、ライブも肉体性が強い。
VIDEO 映像を使ってるけどライブは肉体性が強いものが面白いんじゃないかと、ある時期に思い始めたんですよ。たぶん、2010年から15年の間くらい。カクバリズムに所属する前は、クラブとかでライブすることがすごく多かったんですけど、その頃の僕が作ってた音楽はクラブ的な鳴りよりも、もっとローファイなものだった。僕のライブだけ盛り下がるのは嫌だったし、映像も使ったパフォーマンスにダンス的な要素が加わっていったらみんな今まで体験したことがなかったような時間になるのかなと思って、意図的にそういう方向に行ってみた感じはありましたね。Chappoは、踊らせるというか、自分が踊るみたいな音楽を作る欲求はあるんですか?
細野 ああ、どうだろう。あんまりないかな。
福原 僕が好きな踊りってタップダンスとかなんですよ(笑)。でも、VIDEOさんとYOUR SONG IS GOODとの対バンを新代田FEVERの舞台袖から2人で観てたとき、「僕らも踊れる曲がないとね」って話はしました。「僕らでも全然嫌じゃない踊らせ方ってあるんだね」という話をライブを観たあともしてました。僕と悠太くんって嫌いなものがわりと似てて。嫌な踊らせ方っていうのはあるから、それはやらないという気持ちは強いし、そこは煮詰められるんです。
VIDEO 僕もそういうことはずっと考えてました。好き嫌いだけじゃなく、自分の体になじみがあるかどうかも問題で。でも、これならいける!と思えた落としどころが、僕にとってはダブとかラテンだったんです。それで作ったラテンの曲が「Kung-Fu Mambo」。あれができて、細い針の穴を自分なりに抜けてみたら、意外とその先は広がっていた、みたいな(笑)。
──「Kung-Fu Mambo」は革命でしたよね。みんな踊った。
VIDEO 僕もラテンに対しては振付がある堅苦しいイメージを持ってたんですよ。でも、黒澤明の古い映画とか観てると、もっと怖いラテンというか、不良なラテンがいっぱいあるじゃないですか。太陽を感じない日陰のラテンみたいな(笑)。路地裏の匂いと汗と湿度を感じるラテンに黒澤映画で出会ったとき、「あ、こっちだ!」と思えた。
──Chappoの「めし」も、ライブだと語りがないからけっこうみんな踊りますよね。
福原 夏のOPPA-LAでやった「カクバリズムの夏祭り」では、社長(角張渉)に語りで入ってもらったら完全に演奏してる全員パンクノリになってましたね(笑)。でも、マンボにしても記名性があるじゃないですか。昭和歌謡とかもそうですけど、記名性に頼ってそれ風な曲作りをすると実体からは遠のいていくというジレンマもあって。僕はちゃんと過去と向き合って記名性を解いてあげて、具象そのものの強さで踊らせたいんです。ただ何かの要素を持ってくるんじゃなく、昇華させたい。それをVIDEOさんはやってると思います。僕らもライブをやっていくことでしかそこは突破できないんだろうな。
VIDEO 戦略的にやるとかじゃなく、現場ごとに得た自分の実感の中で選択していくんですよね。「あ、これはダメだった。次はこうしよう」とか。
福原 その瞬間に突きつけられたもので見えてくる。
初のビルボードライブでは横浜っぽい曲を
──ちなみに両者ともにビルボードライブ出演は初ですが、ビルボードライブで観たライブの思い出といえば?
福原 ヴァン・ダイク・パークス(2025年3月~4月)は2人で観に行きました。
細野 ヴァン・ダイクと祖父(細野晴臣)が一緒にビルボードライブでやった最初のライブ(2018年9月)も観に行ったような記憶があるんですけど、そのときは恥ずかしながら寝てしまって(笑)。起きたらヴァン・ダイクが僕の横を通り過ぎていくところでした。
VIDEO 僕はシャソールの公演(2019年9月)をよく覚えてますね。スクリーンを下ろして映像も集中して観られるライブでした。ビルボードライブでやることになったので、あのときのシャソール体験を思い出して、映像の見え方とかも含めて選曲を考えてます。
──10月24日のライブに向けて、何か一緒にやるとか考えてることはあります?
VIDEO やりたいねと話してはいます。
福原 なんでもやります。
VIDEO カバーとかやりたいですね。
福原 VIDEOさんにカバーしてほしい曲のリストがあるので、送ります。僕はカバーが好きなので「ビルボードライブではセットリストの半分くらいカバーにしたい」と言ったら、「それはダメ」と悠太くんに言われました(笑)
細野 半分は多いよね。
VIDEO 僕は横浜っぽい曲をやりたいですね。
福原 いいですね。
VIDEO 横浜といえば黒澤明の「天国と地獄」(1963年公開)の、犯人が最後に捕まるシーンで、ラジオからずっとラテン風の曲(「O sole mio」)が流れてるんですよ。あの曲をChappoにやってほしいな。
Chappo いいですね、それ!(笑)
公演情報
VIDEOTAPEMUSIC × シャッポ
KAKUBARHYTHM presents The Billboard Live Sessions
2025年10月24日(金)神奈川県 ビルボードライブ横浜
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00
<出演者>
VIDEOTAPEMUSIC / Chappo
プロフィール
VIDEOTAPEMUSIC(ビデオテープミュージック)
ミュージシャン / 映像ディレクター。失われつつある映像メディアであるVHSテープを各地で収集し、それを素材にして音楽や映像の作品を作ることが多い。VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、映像ディレクターとして数々のミュージシャンのミュージックビデオの制作やビジュアルジョッキーなども手がける。近年では日本国内のさまざまな土地でフィールドワークを行いながらの作品制作や、個人宅に眠るプレイベートなホームビデオのみを用いたプロジェクト「湖底」名義でのパフォーマンスも行っている。2015年発表の2ndアルバム「世界各国の夜」以降、カクバリズムから多数の音源作品をリリース。そのほかにも国内外のレーベルからリリースされた作品が多数ある。2024年には日本各地でのフィールドワークやアーティストインレジデンスを経て制作された楽曲をカセットテープと160ページの本をまとめたカセットブック作品「Revisit」をリリースした。
VIDEOTAPEMUSIC (@VIDEOTAPEMUSIC) | X
VIDEOTAPEMUSIC (@videotapemusic) | Instagram
Chappo(シャッポ)
福原音(G, etc.)、細野悠太(B, etc.)からなる2人組バンド。2019年12月に結成。4年弱にわたる創作期間を経て、2023年9月に東京・BASEMENT BARで初ライブを行った。同年12月には1stシングル「ふきだし」をカクバリズムからリリース。2025年4月には1stアルバム「a one & a two」を発表し、5月から7月にかけては初のツアー「シャッポ 1st Album『a one & a two』Release Tour」を開催した。11月に「a one & a two」のアナログ盤をリリースし、12月には東名阪ワンマンツアー「『a one & a two』アナログ盤リリース記念 ワンマンツアー "a one and two and a three..."」を行う。
シャッポ (Chappo) (@Chappo_356) | X
シャッポ (@chappo_otyt) | Instagram