ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES

音楽の存在価値を見つめ直した待望新作「EMBRACE」

BOOM BOOM SATELLITESにとって約2年7カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「EMBRACE」が完成した。長期にわたる制作期間を経て生み出されたこの作品には、シングル「BROKEN MIRROR」やTHE BEATLES「HELTER SKELTER」のカバーなどの話題曲を含む全10曲を収録。彼らが新たな一歩を踏み出したことを感じさせる、痛快なアルバムとなっている。

前作「TO THE LOVELESS」リリース以降この作品に至るまで、彼らはバンドの存在意義や音楽のあり方、それぞれの価値観の変化などについて考え続けてきたという。この2年半に彼らに起きた変化とはなんだったのか、2人に話を訊いた。

取材・文 / 宇野維正 インタビュー撮影 / 佐藤類

今振り返ると、よく完成までこぎ着けたなって(笑)

──今作「EMBRACE」は、聴いていてこんなに素直にアガるBOOM BOOM SATELLITESのアルバムって初めてなんじゃないかなって思うような、とても風通しのいいアルバムですね。

中野雅之(Programming, B) そうですか(笑)。

──このアルバムを制作していた2012年はレコーディングのためにずっとスタジオにこもっていたわけではなく、フェスやイベントに出演したり、シングルやリミックスアルバムをリリースしたりしていて、そのことも影響してるのかなって思ったんですけど。

写真左から川島道行(Vo, G)、中野雅之(Programming, B)

中野 いや、そうは言っても2012年は制作がすべての中心にあった1年だったし、前作「TO THE LOVELESS」からここまで、とても長く感じましたね。2年半のスパンで10曲作るっていうのが、自分たちにとって精一杯だったなって。特に今回のアルバムは大変でしたね。逆にこの作品ができたことで、今ものすごく制作のモチベーションが上がってきてるんですよ。

──これまで自分たちの中に貯まっていたものが、まるで堰を切ったように?

中野 そうですね。「TO THE LOVELESS」ができあがったときは、この先何をするのかっていうのが全く見えなかったから。あのアルバムを作ってその後のツアーが終わったことで、これでもうこのバンドの役割は全部果たしたんじゃないかなって思った部分もあって。でも、結局辞めなかった。あのときに思い出したのは、ゆらゆら帝国が解散したときの空虚な気持ちだったんですよね。とにかくすごく残念で、最初に正直に思ったのは、時間が空いてもいいから、もっとゆらゆら帝国の新しい音楽を聴きたかったってことだったんですよね。

──ああ。ゆらゆら帝国も最後のアルバムを作って終わりじゃなくて、ツアーをやって、その後しばらくして解散という結論に至りましたよね。その分、「ゆらゆら帝国は完全にできあがってしまった」という解散の言葉がとても痛切なものとして響きました。

中野 うん、そういうバンドとしての答えの出し方も、正直に生きていれば当然あると思うんです。でも、そこでその選択肢を一度封印して、そこからどうやって自分たちのキャリアの全く新しい一歩目を踏み出していけばいいのかっていうことを探していきたいと思ったし、特にこのアルバムの制作の前半の頃は、ずっとそんなことを考えながら作っていたように思う。だから今になって振り返ると、よく完成までこぎ着けたなって(笑)。

15年間の中で最も大きな変化を感じる時期だった

──じゃあ、その期間にスタジオにこもるのではなくライブをやってきたのも、新しい一歩を探っていく過程のひとつであって、全部がこのアルバムへと続く道だったという感じですか?

中野 バンドをある程度平常運転させながらも、「バンドってなんだろう?」とか「音楽を作って生業にするってどういうことなんだろう?」とか、そういう根本的なところを考え続けてきた気がします。もう青春は終わったし、今のこの時代はそんなに楽しい時代だとは思わないし。世界的にもドメスティックな小さいシーンが乱立している状態で、何か大きなムーブメントが生まれるような兆しもないから、人々が何を欲しているのかがとても不明瞭な時代じゃないですか。だから、自分自身を見つめて、これからどうやって生きていくのかっていうことを考える機会は多かったですね。

──そういう気持ちは、川島さんも共有していた?

川島道行(Vo, G) 共有していたと思います。特にこの1~2年は、バンドを始めてからこの15年間の中でも、最も大きな変化を感じる時期だったと思うんですよ。それは、周囲の状況がそうさせたのもあると思うし、バンドの歴史の中での必然的な流れでもあると思うし。何よりも、「これから音楽はどこに行くんだろう?」とか「人の営みの中で音楽はどういう役割を担って存在していくんだろう?」ということを考えながら、このアルバムの1曲1曲を作っていく中で、音楽を通して自分たちの中での変化を感じてきたことが大きくて。もしかして、もうこの歳になったら、成長とかってあまり望めなかったり、気力も失せたりすることもあるかもしれないけど、そうならなかったんですよ。自分たちも成長して、もっと多くの人に共有される音楽を作りたいっていう、野心のような思いも自分の中に新たに見つけることができた。

中野 うん。結論としては、自分たちが今まで生きてきた価値観は変えずに、自分たちが今一番聴きたい音楽を作るってことなんだけど。やっぱりそれと同時に、時代性だったり批評性だったり、今のこの世界に自分たちの音楽が鳴っている意味はちゃんと持っていないといけないなと。で、それはできるんじゃないかってどこかで腹を括ったんですね。

ニューアルバム「EMBRACE」 / 2013年1月9日発売 / Sony Music Records
「EMBRACE」ジャケット
初回限定盤 [CD+DVD+USB] / 4750円 / SRCL-8162~8164
通常盤 [CD] / 3059円 / SRCL-8165
CD収録曲
  1. ANOTHER PERFECT DAY
  2. HELTER SKELTER
  3. BROKEN MIRROR
  4. SNOW
  5. FLUTTER
  6. DISCONNECTED
  7. DRIFTER
  8. Things'll never be the same
  9. EMBRACE
  10. NINE
初回限定盤DVD収録内容
  1. ANOTHER PERFECT DAY
  2. BROKEN MIRROR
  3. LOCK ME OUT
  4. BACK ON MY FEET
  5. WHAT GOES ROUND COMES AROUND
  6. EASY ACTION
  7. KICK IT OUT
  8. PILL
  9. MOMENT I COUNT
  10. DIVE FOR YOU
  11. PUSH EJECT
BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)

中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルから初のシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手掛け、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表。このアルバムは日本だけでなく、アメリカを含む10カ国で同時発売される。


2013年2月12日更新