BASI|フロアアンセム「愛のままに」を経て始まった、ソロラッパーとしての第2章

昨年リリースの7inchアナログ「愛のままに feat. 唾奇 / 星を見上げる」が大きな注目を集めたBASI。MCとしてフロントマンを務めるヒップホップバンド・韻シストでの活動も含め、彼はラッパーとしてのキャリアが20年以上にわたるベテランであり、地元である大阪の音楽シーン、全国のヒップホップリスナー、そして同業者から尊敬を集める“ラッパーズラッパー”としても高い注目を集めてきた。そして特にソロにおける、メロウなサウンドと、日常とも連結性の高いリリック、ソフトなラップスタイルは、ここ数年はいわゆるシティポップやメロウファンク、ソウルとの親和性の高さもあって広い支持を集めており、それが上記の7inchによってより爆発的な広がりを見せたことは間違いないだろう。

その「愛のままに feat. 唾奇」と「星を見上げる」を収録したニューアルバム「切愛」をリリースするBASIに、本作の作品論についてや、現在の彼の置かれた状況に対する自己認識、そしてこのアルバムから始まるという“第2章”への思いを聞いた。

取材・文 / 高木"JET"晋一郎 撮影 / 山川哲矢

こんなにいろんな人に愛してもらえる曲になるとは思ってなかった

──ここ数年のBASIくんへの注目度の高まりは目を見張るものがありますね。特に昨年はかなり多くのアーティストの曲に客演されていて。

去年は、韻シストの20周年アニバーサリーでもあったので、韻シストの活動に集中する腹づもりだったんですけど、とにかく客演に呼んでいただく機会が多くて。10曲以上オファーをいただいたので、実質アルバム1枚作るぐらいの時間を費やすことになりましたね。客演のレコーディングに加えて、そのアーティストのリリースライブにも参加させてもらったり。だから、韻シストの20周年に集中しつつ、ソロワークも並行して進んでいった印象があります。

──その動きに加えて、ソロとしては「愛のままに feat. 唾奇 / 星を見上げる」が昨年10月に7inchアナログとしてリリースされ即完売。YouTubeにアップされたミュージックビデオも300万回以上再生されてますね。

本当にいろんな人に聴いてもらいましたね。今でも毎日、Instagramに子供から大人まで、最近は犬とか猫までメッセージを送ってくれて。

──それはアイコンがペットなだけでしょ(笑)。

(笑)。そういう部分からも充実を実感しましたね。

──クラブやイベントでもいろいろなDJがプレイしていたし、ハードなヒップホップリスナーが集まるところに限らずどのタイプの場でも曲がかかっていたのが本当に印象的で。それに加えてYouTubeの再生回数を見ると、この曲がヒップホップリスナーだけではなくて“世の中”に届いたという印象があります。

唾奇とも「こんなにいろんな人に愛してもらえる曲になるとは思ってなかったよな」って話すぐらい、自分たちでも驚きと喜びを感じてますね。「こういう温度の音楽が、もっと広い層に届けばいいな」と思って作った曲だったんで、それを形にできたんだなと。

──完成したときには、これだけ“届く”曲になると思っていましたか?

時代の流れと方向性が真逆……とまでは言わないけど、それでもトラップビートやバトルが注目されてるヒップホップシーンのトレンドとは違う曲なのは感じていましたね。ブーンバップで、90sヒップホップ感覚のあるサウンドが好きなので、僕はトレンドに沿った音楽をそもそも作ってないし、それが若い世代にどう届くのかなって。もちろん、ずっと聴いてくれてるリスナーが、この「愛のままに」のテーマをどう受け止めるんだろうって気持ちもありました。心配とは違うけど「どう届くんやろうな」という思いが。だから、非常に反応がよかったことはすごくうれしいし、驚きでもあります。

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「愛のままに」のビートを聴いた瞬間、速攻で電話しました

──そのトラックを制作したのは、TOKYO HEALTH CLUBのTSUBAMEが主催するレーベル・OMAKE CLUBに所属するchop the onionですね。

chop the onionとは付き合いが長いんです。僕の「The Love」(2017年発売アルバム「LOVEBUM」収録)や「RAP AMAZING」(2011年発売アルバム)の収録曲をプロデュースしてもらったり、chop the onionの「シールドマシン feat. LIBRO & BASI」(2018年12月発売アルバム「CONDUCTOR」収録)に参加させてもらったり。そういう流れもあって、いつもビートを送ってくれるんですけど、「愛のままに」のビートは、聴いた瞬間に速攻で電話しましたね。「テーマやリリックは決まってないんだけど、とにかくフィールしたんで、キープしておいてほしい」と。

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──ベタに言えば「ビビッときた」というか。

音自体に「これだ!」という感触があったんですよね。このトラックに乗れば、少なくとも自分は完全に納得できる作品ができるなって。具体的に制作に入るまではちょっと時間がかかったんですけど、それでも、ほぼ毎日このビートを聴いて、どんなテーマで、どんなリリックにすれば映えるのかということは、ずっと考えていました。トラックに丁寧に向き合いながら、日々の心境の変化も含めて、何度も何度も上書きと推敲を繰り返して。

──ほかの曲ももちろんそうだと思いますが、「この曲は大事にしないといけない」という使命感を特に強く感じさせられたんでしょうか?

そうですね。あきらくん(EVISBEATS)がプロデュースした「あなたには」も、送られてきたビートを聴いた瞬間に「これです!」ってすぐに電話して。キャリアの中で突然そういう曲に出会う瞬間があるんですよ。