avengers in sci-fi|アップデートし続けるアベンズサウンド、現在のモードを探る

聴きたい音楽がなかったから自分で作った

──本当にアベンズは同じことをやり続けないバンドですよね。

稲見 同じことをやり続けるバンドはすごいなと思いますよ(笑)。でも、やっているほうの感覚としては一緒なんですよ。自分が音楽を聴いてワクワクするから、みんなも同じような感覚になってほしいということなんです。音楽を聴いて、気持ちよくなる瞬間があるわけで。例えば幼少の頃に気持ちいいところだけ巻き戻して何回も聴くみたいな。

木幡 やったよね。

長谷川 「巻き戻し」ってワードが古いよ(笑)。

木幡 今はまだアーティストの「変化」を受容できない世の中なんですかね。いきなり作風がガラッと変わるアーティストに対して、拒否反応を示すことってあるのかな?

稲見 バンドによるんじゃない? 俺らは変わっても大丈夫でしょ?

木幡 そうだね(笑)。昔より寛容になった感じがするんです。5~10年前ぐらいは固定化されたお約束みたいなものを好む空気感があったと思うんです。でも今はそうじゃなくなってるというか……漠然と感じることなんですが。

──わかります。最近のMaroon 5にしても、打ち込みの比重が増えて、脱ロックバンドと言われるような作品が評価されてるし。

長谷川 ああ、Weezerの新譜(「Weezer(Black Album)」)もそうですよね。R&Bになってたから「これ、Weezerだったの?」みたいな。

──アベンズも、そういう大胆な進化をずっと繰り返してきてるわけですよね。

木幡 僕らは流行りを気にしてるようで、結局気にしてないんですよ。最先端のものを猿真似するのは好きじゃないから。そのときにないちょっとニッチなものに手を出したいという気持ちはあるんですよ。もともと音楽を作り始めた動機が、自分が聴く音楽がなくなったことなんです。この世に存在してない、だけど自分が求めてる音楽を作りたいということだから。ニッチなものを作らないと満足できないところはあるかな。

  • 木幡太郎(G, Vo, Syn)
  • 長谷川正法(Dr, Cho)
  • 稲見喜彦(B, Vo, Syn)

業界のセオリーを除けば、曲が完成したらすぐ聴かせたい

──音源制作面での変化はありましたか?

木幡 最近、打ち込みを作ることによって生まれるスピード感がいいんですよ。

──バンドで録ろうとすると、練習も必要ですからね。

木幡 そうなんですよ。今のプロセスだと僕んちに稲見と2人で集まって、適当に音を出すところから曲作りが始まるんです。で、すぐにパソコンで録音して、その日のうちにミックスまで仕上げられる。それがそのまま最終的に曲になることは少ないんですけどね。そのスピード感を覚えると、ちょっとスタジオに入れないなあと。

長谷川 腰が重くなるよね(笑)。

──それが結果として、「アルバム」という形態を避けた理由にもつながりますよね。10数曲を録り溜めるよりも、できた曲からどんどん出していきたいという。

木幡 そうですね。たぶんなんの予備知識もない、音楽業界のセオリーとかを知らない……例えば火星から来た人が曲を作ったとしたら、曲ができてその日のうちに「できたぞ」ってみんなに聴かせると思うんですよね。それが夢なんですよ。マスタリングして、プロモーションして、プレスして、リリースが3カ月後になりましたというプロセスは、実は自然な流れではない。だからこの年齢になって子供みたいなメンタルになってしまってるんでしょうね。

──できあがったら、すぐに聴いてもらいたいんですね。

木幡 そう。ついにそういう夢のような世界が来てるんじゃないかと思いますよ。

稲見 曲作りも楽しいですから。高校時代みたいな感覚になってるから、これをみんなにすぐに聴いてもらえるのは幸せです。

長谷川 レコーディングで生の演奏をやるところが減った分、作ったものをライブでどういうふうに表現するか考えるのも楽しいんですよね。

稲見 ライブでは曲のアレンジは変わらないけど、つなぎを工夫するから、そこもVJには生かしたいなと思います。今は曲の練習より、曲間のつなぎの練習をしてますから。そんなに求められてるのかわからないけど(笑)。それがめちゃめちゃ楽しいから、ちゃんとお客さんにも感動してもらえるところまで持っていきたいんです。

機械を相手にギター弾くよりロックな姿を

──これからもライブでは「人力」で表現するというところにこだわりたいですか?

木幡 うーん……もはや、どこまでが人力なのかはわからないですね。電気グルーヴやThe Chemical Brothersみたいなライブのやり方を練習してるんですよ。クラブユニット、DJユニットみたいなスタイルで演奏しようかなと思ってますね。世間的には打ち込みのライブって何をしてるかわからないから、舐められてると思うんです。例えばAphex Twinがステージでパソコンをいじってる姿について「エロ動画を見てるんじゃないか」なんて言われたりして(笑)。人によってやり方が違うと思うんですけど、いわゆる生楽器の演奏と同じか、それ以上に大変ですね。

稲見 うん。大変。

木幡 俺らは野蛮人だから、機械のスペックに追い付けてないんです(笑)。

稲見 よく「パソコンでポンッて同期を出しちゃえばいいんじゃない?」と言われるんですよ。

木幡 そうだね。

稲見 でも1個ずつ音を出したほうがカッコいいと思うんですよね。機械でセッションできるのは楽しいし、映像とバッチリ合えば、めちゃくちゃカッコいいと思います。

木幡 “マシンライブ”って、SF的なロマンを感じるし。

稲見 憧れのスタイルです。

──これからしばらくマシン化したアベンズのモードは加速していくんですか?

木幡 いやあ、ここまで話しておいてなんですけど、行き着く先に何があるかはわからないですね。行くところまで行ったら、また飽きるような気がする(笑)。ただ、今どきこんなことをやってるバンドはいないし、ギターを弾くより、よっぽどロックなことをやってるなとは思ってます。

※記事初出時、東京公演の会場名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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