VJは重要、オマケではない
──ツアーで全公演にVJを入れてみたいと思った理由は?
稲見 「FUJI ROCK FESTIVAL」に行ったとき、特に洋楽のバンドに関してはVJがマストになってきていると感じて。自分でVJ演出ありのライブを観ていて楽しかったから、単純に「入れたい」という。自分が感動したものはアウトプットしたくなるんですよね。音楽にしても、ライブにしても。
木幡 VJは今までもちょっと取り入れてたんですけどね。
稲見 それを全編やってみるのは初めてなんです。合いそうな気はするし、たぶん我々に求められてることだろうな……と勝手に思ってます(笑)。
木幡 世界的にはもはやライブパフォーマンスにおけるVJの立ち位置が確立されてるから、普通にその流れに追い付きたい。だからちょっと特別感を持って発表しました。
──今やロックバンドがクラブ文化を無視できない状況になってるから?
木幡 そうですね。ロックバンドでも、そこを意識しないわけにはいかない時代だと思うんですよね。昔はド派手な演出と言えばクラブミュージックで、マドンナの歌声が浮かぶみたいな、大御所のためのものというイメージでした。でもクラブミュージックの隆盛を受けて、ロックバンドもそういう演出と張り合わなきゃいけない。そういう中で、ロックにしろクラブミュージックにしろ、音楽と同じぐらい演出が重要になっているから、もはや音楽のオマケみたいな立ち位置では考えられない感じはあります。
──そういうことを考えるようになったのも、やはり独立したことが大きかったですか?
木幡 確かに今思えば、自分たちで「SCIENCE ACTION」を立ち上げる前までは、現状に満足してたような気もするんですよ。自分の力でどうするでもなく、なんとなく日々が過ぎてたし。
運営することを含めてバンドであり音楽である
──クラウドファンディングで制作される予定のDVDは、アベンズ初の映像作品になります。今までバンドとして映像作品を残すことに、あまり魅力を感じていなかったんですか?
木幡 出したい気持ちはあったんですけど、出せる代物じゃなかったんですよ。今だったら、いいものができる自信があるんです。単純にスキルとメンタルの問題ですね。
稲見 ライブで演奏する曲のクオリティに関して言えば、何年も映像に残っても満足できるところまでやっと達してきたかなと感じています。特に最近の曲は。だからツアーではあんまり昔の曲はやらないと思うんですよ……いや、これは書かないほうがいいかな。
木幡 昔の曲をやるにしろ、今のアレンジでやると思いますね。
──なるほど。
木幡 これは書かなくていいんですけど……ぶっちゃけると、何かアクションを起こしていかないと、今の時代は情報が多すぎて「ツアーをやりました」だけだと情報に引っかかりがないまま終わりますよね。なんでもいいから新しいことや、今までやってないこと、お客さんの興味を引くことをやっていかなきゃいけないんだという気持ちがあるんですよ。前までは曲がカッコよければそれでいいんだと思ってたけど、今は運営の仕方を含めてバンドであり、音楽であると。そういう思考でいかないと、立ち向かっていけない時代になっていると感じます。
──今の発言は「書かなくていい」と言いましたけど、この時代に音楽をやるうえで、メジャー、インディーズ問わず必要な価値観のような気がします。
木幡 ちょっとビジネス思考っぽく捉えられるのは複雑ではあるんですよ。
──戦略的に見られてしまう?
木幡 うん。こういう考えは古いんですかね? でも戦略的にならないと無理なんですよ。
──アベンズの場合、ただ悪目立ちしようとした戦略じゃなくて、根幹には今の音楽シーンの潮流の中で、ロックバンドとしてどう音楽を進化させていくかという思想があるわけですよね。だから戦略的すぎるとは思わないです。
木幡 うん、そうですね。自分たちがやりたいことと、お客さんが求めてることを総合的に考えたうえでの道筋みたいなものを考えてるつもりです。
長谷川 単純にやったことがないことはやりたいですしね。
木幡 自分らが好きなものに対して正直にやってる感じがするんです。
ロックなのかハウスなのか
──今の自分たちにとってもっとも刺激的なものを作り上げたのが、このツアーでリリースされる会場限定CD「Nowhere」になるということでしょうか?
木幡 そうですね。
──ほぼ打ち込みとサンプリングの楽曲に仕上がってますね。
稲見 前作(2018年11月発表の「Pixels EP」)からそうなってるんですよ。
木幡 でも前回のほうがまだバンドっぽかった。僕はあんまり、これはロックなのか、ハウスなのか、テクノなのかということには興味ないんですよ。一応、資料にはハウスだと書かれているんですけど、これがロックじゃないとは思わない。これがロックの名盤だっていう触れ込みでPrimal Screamの「Screamadelica」(Primal Screamが1991年に発表したアルバム)を借りたら、1曲目がアコギで始まって雲行き怪しいなと思ったら2曲目なんか完全にハウスだったりして「こんなのロックじゃねえじゃん」みたいな音楽体験をさんざんして来てるんで。ロックバンドがいわゆる“ロック”的じゃないことに手を出すのに対しては耐性があるというか、ジャンルをクロスオーバーする感覚は90年代から当然だったんで。ギターが鳴ってないとロックじゃないみたいな感覚はまったくないですね。
──今バンドで作る曲は、自然とこういう曲調になるんですか?
木幡 そうですね。ダンスミュージックの要素を取り入れたロックバンドのイメージは、もともとavengers in sci-fiにはあると思うんですよ。ただ、今までは機材のイジり方がわからないから生楽器でやってただけなので、もともとこういうことをやりたかったんだと思うんです。シンセとかサンプラーへの興味が強くなったから、そこに手を出したくなったタイミングがここ最近なんです。音響的な気持ちよさに興味がある。打ち込みのヘビーなキックだったり、ベースだったり、ちょっと乱暴な言い方だけど、いわゆるロック的じゃないもののほうが刺激的だと思うことはあります。
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聴きたい音楽がなかったから自分で作った