ART-SCHOOLをホリエアツシ、小林祐介、川谷絵音が語る+著名人5名からの愛の言葉 (2/3)

「20年前に戻る」みたいなことを、やってみたくなった

──先ほど川谷さんから「トリビュートアルバムのオファーがきたときに参加していいか迷った」という話がありましたが、小林さんとホリエさんはオファーがあったときに率直にどう思いましたか?

小林 去年の8月にART-SCHOOLと対バンしたときに(参照:ART-SCHOOL×The Novembers、互いへのリスペクトを胸にツーマン開催 カバーも飛び出した一夜)、「トリビュートアルバムとかいいよね」ってART-SCHOOLが話していたんです。「絶対呼んでくれ!」って内心思いながら話を聞いていて、もしかしたらそれが実現するかもしれないなという予感を、なんとなくその場の空気から感じて。だから、オファーが正式に届いたときは「きたな!」と気合いが入りました。ART-SCHOOLのトリビュートアルバムがあったら「SWAN SONG」をカバーするというのは何年も前からずっと決めていたので、やっとやれるぞという。

──去年の対バンライブでも「SWAN SONG」をカバーされていましたよね。

小林 たびたびライブでカバーしてきたので、去年演奏したのは8パターン目なんです。今回収録されたのは9パターン目ですね。この曲が好きすぎて、「ベストなカバーはどれだ?」と言っているうちにいろんなバージョンができました。

──ART-SCHOOLのトリビュートアルバム制作決定という第一報が出たとき、SNSでストレイテナーが参加するかどうかを楽しみにしていた方々の声が多かったと思います。

小林 一番気になるポイントですよね。

ホリエ 元メンバー(大山と日向秀和)が2人いるから(笑)。オファーをもらって、僕は「やるやる!」と思いましたよ。メンバーにも確認したら、「いいんじゃない?」という感じで。選曲に関しては、2人がいなくなったあとの曲をやりたいなと思って、僕が独断で「CRYSTAL」に決めました。ART-SCHOOLもあまりライブでやっていない曲だと思うんですが、僕は「CRYSTAL」が好きで、DJをするときもかけたりしていて。ポップな曲なんですけど、そのポップさが逆に泣けてくるんですよね。もしもART-SCHOOLの曲をカバーするんだったら、この曲だなと前から思っていました。

ホリエアツシ(ストレイテナー)

ホリエアツシ(ストレイテナー)

──原曲はサンバのような軽やかな雰囲気があって、2012年にリリースされたアルバム「BABY ACID BABY」の中でちょっと異質な雰囲気を放っている1曲でした。ただ、テナーのカバーはオルタナ感全開のゴリっとしたアレンジになりましたね。

ホリエ 原曲がテナーっぽいんですよ。だから、そのままテナーっぽくアレンジすることもできたんですけど、The Novembersが9パターン作ったように僕らもぐるぐる変わっていって。結局サビのコードはマイナーにそろえて、骨太な感じにしました。「20年前に戻る」みたいなことを、やってみたくなったんですよね。

小林 ストレイテナーがART-SCHOOLをカバーするというのは、いちファンとしてはとても大きなトピックなので、どんな感じでくるのか楽しみにしていて。いざ聴いたら、大山さんと日向さんがいないART-SCHOOL中期以降の楽曲で、2人の当時の音像やプレイヤビリティにタイプカプセルで遭遇したようなロマンを感じました。「CRYSTAL」は好きな曲ですけど、僕の中ではあんまりART-SCHOOLっぽくないという位置付けの曲だったんです。そういう意味では、テナーの「CRYSTAL」は原曲よりもART-SCHOOLっぽさがあって。一方で、ホリエさんのエモーショナルな歌やコード進行にテナーらしさも感じる。両バンドのよさがパーンと飛び込んでくるような感覚があって、すごく感動しました。

ホリエ ギターとベースの音作りもART-SCHOOL初期に寄せてるんだよ。ART-SCHOOL中期の曲を、昔っぽい音像でカバーするという。

小林 やっぱりそうなんですね!

ホリエ 「こんな感じだったかな?」と言いながら、2人が音を作ってくれました。ボーカルに関しては、コーラスのラインが難しかったな。「どこでハモればいいんだ?」って(笑)。あと、歌い方の寄せ具合がどこまでだったら変じゃないかなと探りました。メロディが下がるところで、どうしても理樹の歌い方に寄っちゃうので。エモーショナルなメロディだから、絶対に心に刺さるようにはしたいなと思ってたんですけど。

川谷 ART-SCHOOLの曲をカバーするホリエさんを想像したことがなかったんですが、めちゃくちゃよかったです。

──先日、木下さんがイベントのMCで「深夜にテナーの『CRYSTAL』の音源を聴いて泣いた」とコメントされていたそうです。

ホリエ 2人がART-SCHOOLにいた頃の初期の楽曲のギターフレーズをさりげなく入れていたりもして。もしかしたらそこで泣いたかもしれないですね。

ぐにゃりと時空が歪むコード

──indigo la Endは「スカーレット」をカバーしていますが、どういう経緯でこの曲を選んだんですか?

川谷 参加アーティストの中で僕らが最後に決まったので、ほかの皆さんが先に曲を選んでいて。「スカーレット」は有名な曲なので、誰かが選んでるだろうなと思っていたんですけど、リストを見たら不気味に空いていたんですよ(笑)。どうしようかなと思いつつ、めちゃくちゃ好きな曲だし、少なからず影響を受けた曲だったので選びました。

ホリエ indigo la Endの「スカーレット」、クオリティが高すぎるよ。

川谷 でも、理樹さんのようにはできなくて、「これでいいのかな?」と最後まで悩んだまま終わったんですよ。前に別のトリビュートアルバムに参加したときに原曲から変えすぎて、トリビュートアーティストのファンの方々から怒られたことがあって、最近は原曲のよさをそのまま伝えるようなカバーをやっていたんです。だから「スカーレット」も最初はわりとストレートにやろうと思っていたんですけど、弾いていくうちに変わっていきましたね。

川谷絵音(indigo la End)

川谷絵音(indigo la End)

ホリエ オリジナルと4つ目のコードが違うよね?

小林 いやー、あそこは痺れました。絵音くんとART-SCHOOLの絶妙な距離感や、もともと絵音くんが持っている芯の強さみたいなものを感じてドキっとして。4つ目のコードで、ぐにゃりと時空が歪むんですよね。僕はART-SCHOOLの信者だから、こんなことはできないんですよ。その発想すらない。

川谷 最初に僕が弾き始めたとき、メンバーが「ん?」という表情になってましたね(笑)。違和感のあるコード進行らしくて、「これでいくの?」って感じだったんですけど、僕の中ではこれが普通というか。

小林 そうなんだ。

ホリエ 手癖みたいな?

川谷 手癖でもないんですけど、弾いていたら指の移動で自然とそうなって。

ホリエ めっちゃ効いてるよ。

小林 絵音くんが歌うと、歌詞の意味も、特にサビは全然違うものに聞こえるよね。理樹さんは息が絶え絶えになりながらもギリギリ声が届くか届かないかのところで刹那的に歌うんですけど、絵音くんが透明感のある声でコーラスワークと一緒に朗々と歌い上げると別の抒情性が立ち上がってくる。理樹さんはパーソナルな悲しみや、やるせなさを歌ってるように聞こえるけど、絵音くんの歌からは神目線で人類の不条理さを俯瞰してるような達観を感じるというか……聴いてて戦慄しましたね。

川谷 The Novemversやストレイテナーのカバーを聴いてると、ART-SCHOOLへの理解が深いのがわかる。音作りやアレンジにすごく愛を感じます。僕らもART-SCHOOLへの愛はあるけど、関係性がある人がやるカバーと、ない人がやるカバーってこんなにも違うんだなと感じました。だから「これでいいのかな?」と最後まで不安だったんだと思います。歌詞を読んでいても、自分は理樹さんとは真反対の人間だなあと。自分はこういう歌詞を書かないし、考え方が全然違う。

ホリエ だから「KINOSHITA NIGHT」に呼ばれなかったんだよ(笑)。

川谷 そうかもしれないです(笑)。

生け花のようなささやかなものを音楽にできるように

──トリビュートアルバムの最後を飾るのが、The Novembersの「SWAN SONG」です。この曲にはどんな思い入れがありますか?

小林 「SWAN SONG」は僕がタワレコで「LOVE/HATE」を聴く前にリリースされた曲なんですけど、ART-SCHOOLのオフィシャルサイトでこの曲のミュージックビデオを観ることができて。それで「ART-SCHOOL、めちゃめちゃ好きかもしれない!」と思った。言ってみれば、出会いの曲なんです。まず、歌詞にとにかく痺れましたね。人生の不条理を全部引き受けてるというか……もうすべてをあきらめちゃってる人の歌なんですけど、「でも今日はそんな風に思うんです」でサビが終わる。その1行だけで、それまで自分の中で続いてきたどうにもならないものが、ほんの一瞬だけ「ま、いっか」と思える瞬間があった。思春期なりに、ふっと心が軽くなったことを覚えてるんですよ。物事は何も解決してないんだけど、悩んでない瞬間が1秒だけあった。僕はそれまでずっともがいていたけど、大切なのは解決することじゃなくて、今この瞬間をいかに「ま、いっか」と思えるかどうかなんだなって。人生は永遠に解決しない物事の連続だから。そういうことをすごく感じた曲なので、歌詞が持ってるフィーリングを変にポジティブなものに昇華したり、ドラマチックにエモく歌い上げたりしないように気を付けましたね。僕はつい「理樹さんにいいものを返したい」と意気込んでしまいがちですけど、そうすると僕がこの曲からもらったフィーリングと違うものができてしまうので、今回は禅の世界、生け花のようなささやかなものを音楽にできるように意識しました。

ホリエ 「でも今日はそんな風に思うんです」の小林くんのファルセットがいいよね。声が出てるのか出てないのかみたいな、あの感じ。あそこは上手に歌いすぎるとダメなポイントだと思うから。

小林 ポリープの手術直前だったので、本当に枯れてたんですよ(笑)。声がカスカスだったんですけど、「なんとか出た!」というテイクが収められています。リアリティがあってよかったのかもしれない。

川谷 「she lab luck」(2007年発表のThe Novembersのアルバム「THE NOVEMBERS」収録曲)の頃、小林さんは声が擦り切れるようなシャウトに近い歌い方をしていたと思うんです。僕はポリープのことを知らなかったんですけど、今回は最近とはまた違う、あの頃聴いていた小林さんの歌い方の片鱗が見えました。下北沢ERAでThe Novembersのライブを観ていたときのような歌声をひさしぶりに聴けて、僕は個人的にすごくうれしかったです。

──これまでライブで披露されてきて、木下さんからはThe Novembersのカバーについてどういう言葉をかけてもらいましたか?

小林 2016年のART-SCHOOLとThe Novembersのコラボイベント「KINOSHITA NIGHT×首」から「SWAN SONG」を演奏してるんですけど、実は怖くて理樹さんに感想を聞かないようにしてきたんです。でも、この間イベントのMCで理樹さんが「祐介が歌ってるのを聴いて『SWAN SONG』はいい曲だなと思った」と言ってくれていたらしく、涙腺が緩んじゃいました。

小林祐介(The Novembers)

小林祐介(The Novembers)

「愛されたい」と歌うことによって、愛される未来にきた

──最後にART-SCHOOLへのメッセージをお願いいたします。

ホリエ 昔もがいていた頃、ともに多くの時間を過ごしていたのはすごく大事な思い出です。そういう同世代のバンドが今も一緒に生き残っていて、こうやって周年に力を貸し合えるのはありがたいことだなと思います。ひさびさに対バンもやりたいですね。

川谷 僕はまだ面識がないんですけど、お会いしたときはどうか優しくしてほしいです(笑)。好きな音楽の話もたくさんしたいし、理樹さんがSNSでつぶやいてる曲も聴いてますよ、と伝えたい。対バンライブをやることになったら、仲よくしていただけたらうれしいです。

小林 トリビュートアルバムを聴いて、ART-SCHOOLはたくさんの人に愛されているバンドだなと改めて思いました。ART-SCHOOLはずっと愛されることについて歌ってきましたし、僕の中には愛を求めて叫び続けていたような20代、30代の頃の理樹さんの姿がいまだにあって……当時理樹さんが思っていた形と違うかもしれないんですけども、あの頃の鬱々した理樹さんからすると、今のようにすごくたくさんの人に愛されている未来があるのは、大きな希望なんじゃないかなって。そう思うと、泣けてくるところがあります。ART-SCHOOLはいろいろと大変なことがあったけど、同時に僕のようなたくさんのリスナーの人生を救ってきたバンドです。「愛されたい」と歌うことによって、人に愛を教えて、愛される未来にきた理樹さん……これからご褒美みたいな幸せな人生を送ってほしいというファン心理があるので、どうかこのまま元気でいてほしいです。ART-SCHOOLというバンドを人生を懸けて楽しんでほしい。80歳、90歳くらいになったときに「何もねぇ何もねぇ」(「あと10秒で」)って歌っていたら超カッコいいじゃないですか。おじいさんになっても歌い続ける理樹さんを見れるのを楽しみにしています。

プロフィール

ストレイテナー

1998年にホリエアツシ(Vo, G, Piano)とナカヤマシンペイ(Dr)の2人で結成。2003年のメジャーデビューのタイミングで日向秀和(B)、2008年に大山純(G)が加わり、4人編成となった。2009年2月にメジャー5thアルバム「Nexus」を発表し、同年5月にアルバムを携えてのツアーファイナルとして初の東京・日本武道館公演を開催。バンド結成25周年のアニバーサリーイヤーとなった2023年10月にはファン投票で選ばれた楽曲を収録したベストアルバム「フォーピース」をリリースし、10年ぶり3回目の日本武道館公演を実施した。2024年10月に12枚目のオリジナルフルアルバム「The Ordinary Road」をリリース。11月から全国ツアー「The Ordinary Road Tour」を開催した。2025年10月に新作EP「Next Chapter EP」をリリース。11月から12月にかけて大阪・NHK大阪ホールと東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でホールワンマンライブ「Sad And Beautiful Symphony」を行う。

The Novembers(ノーベンバーズ)

小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2005年に活動を開始し、2007年11月にミニアルバム「THE NOVEMBERS」でデビュー。2013年10月には自主レーベル「MERZ」を設立した。結成11周年を迎えた2016年の11月11日に東京・新木場STUDIO COASTでワンマンライブ「Hallelujah」を開催し、翌2017年9月には初のベストアルバム「Before Today」を発表。2023年12月には9枚目のフルアルバム「The Novembers」をリリースした。2025年10月に愛知・名古屋CLUB QUATTROで主催企画「The Novembers presents“首”Vol.18」、11月に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でワンマンライブ「Your November」を行う。

indigo la End(インディゴラエンド)

川谷絵音(Vo, G)、長田カーティス(G)、後鳥亮介(B)、佐藤栄太郎(Dr)からなる4人組ロックバンド。川谷を中心に2010年に結成され、2014年に後鳥、2015年に佐藤が加入し現体制となる。歌とギターのツインメロディ、独創的なバンドサウンドで話題を集め、2014年4月にミニアルバム「あの街レコード」でunBORDEよりメジャーデビュー。2015年2月にメジャー1stフルアルバム「幸せが溢れたら」、6月に現体制初の音源となるシングル「悲しくなる前に」をリリースした。2023年1月にリリースしたシングル「名前は片想い」がバイラルヒット。10月には同楽曲を含むメジャー7thアルバム「哀愁演劇」を発表した。2024年12月には初の神奈川・横浜アリーナ単独公演「トウヤノマジック Vol.1」を開催。結成15周年イヤーの2025年の1月にニューアルバム「MOLTING AND DANCING」を発表した。7月にオーストラリアのシンガーソングライター・ヨークのコラボ曲「Sorry In Advance feat. indigo la End」を配信リリース。2026年1月に東京・日本武道館公演「indigo la End 15th Anniversary Special Series #Final」を2日間にわたって開催する。