ナタリー PowerPush - ART-SCHOOL
たった1人に届けるために
「いいものを作る」だけ
──このアルバムのサウンドもすごく洗練されていると思います。1曲1曲とても丁寧に作られているし、激しい曲の中に美しい静けさが潜んでいるようなアレンジも印象的で。
それは中尾(憲太郎)さん、(藤田)勇さん、(戸高)賢史の力が大きいですね。ツアーを何本も重ねてきて、かなり熟してきたと思うし。それをちゃんとパッケージできたのはうれしいです。
──信頼できるミュージシャンと音楽を生み出せること自体、木下さんにとっては大きな喜びですよね。
こちらから何か言わなくても想像以上のものが出てきますからね。それが楽しくなかったらもう辞めてますよ(笑)。
──リードトラックの「革命家は夢を観る」についても聞かせてください。ラッパーの環ROYさんが参加していますが、以前から交流があったんですか?
メールのやり取りはありましたけど、実際に会ったのは去年の9月か10月くらいですね。アルバム(2013年4月リリースの「ラッキー」)がすごくよかったし、一緒にやってみたいなと思って。ROYも「やってみたい」って言ってくれたから、それから「どういうテーマにしようか?」って歌詞のすり合わせをして。そのとき、北野監督の「HANA-BI」がベネチアで賞を取ったときの特集番組の映像を渡したんですよ。ROYは「俺、映画あんまり観ないんだよね」なんて言ってたけど(笑)、何回か話しているうちにうまく表現できたと思いますけどね。つまり「HANA-BI」で描かれてる“なんのために生きてるか”とか、散っていく花の美しさとか。死を正面から見られない人は“生きること”なんて書けるわけないと思うから。そういうことは考えてましたね。
──豊田利晃監督が手がけたビデオクリップも素晴らしいですね。
豊田さんが連絡をくれて「新曲のビデオ、どうなった?」って聞かれたんです。「まだ決まってないですけど、もし豊田さんがやってくれたらうれしいです」って言って「革命家~」を送ったら、すぐに「やる」って言ってくれて。豊田さんの映画が僕はホントに好きなんですよね。今回で3回目のコラボレーションですけど、自分の想像以上にすごい作品になったと思います。ご本人にも「こういう映画のようなビデオクリップがずっと観たかったんです。それを豊田さんが撮ってくれてうれしいです」ということをお伝えしました。
──映画のようなビデオクリップにしてほしいというリクエストを出したんですか?
いや。僕が尊敬している人に対して自分の欲求を出すということはないですね。打ち合わせのとき、豊田さんは「とにかくデッカい仮想世界があって、それが折り重なって……」と仰ってたんですけど、僕としては「はい、任せます」というだけで。
──そしてこの曲はプロデューサーとして後藤正文さんが関わっていて。
プロデュースのほかに、ハーモニカとアコギ、あとはハモを歌ってくれてます。ちょっと前から「ゴッチが最近、プロデュースをやってるらしい」という話を聞いていて、「1曲頼んだら面白いかもしれないな」って思ったんですよね。昔から知ってるし、人間が大きいですからね、ゴッチは。収録曲の音源を全部送ったんだけど、ゴッチが選んだのが「革命家~」だったんですよ。こっちから何か指定していたわけではなくて。
──何か新しい要素が欲しいと思ったわけでもなく?
新しいものというよりも、「いいものを作る」ということだけなんですけどね。ラップが入ってることもそうですけど、曲としてよければそれでいいよなって思うタイプなので。もちろんダサくなるのはイヤですけど。ビデオクリップを含めて、むしろART-SCHOOLらしい曲ができたなって思ってます。
僕は消費されたくない
──アジカンとART-SCHOOLは同じ時期に活動をスタートさせているし、交流も深いですよね。
そうですね。屋根裏、チェルシーホテルとかで対バンしてましたから。全然客がいなかったんですけどね、その頃は。もう戻りたくない……。
──心情的には「一緒にがんばってきた」という感じもあるんですか?
まあ。お互いどこかの枠というものに入らなかったですからね。当時はメロディックコアの流れだったり、下北沢インディのマナーみたいなものもあったけど、僕らはそうじゃない音楽を作っていたので。同期というか、当時一緒にライブをやってた人たち、ストレイテナー、ACIDMAN、アジカン、Syrup16g、downyなどは、仲間というか、戦友みたいな感じかもしれないです。消えていったバンド、辞めてしまったバンドのほうが多いですから。僕が音楽で生活できるようになったのは、24歳になるちょっと手前くらいだったのかな? それから12年続いてること自体、奇跡的だと思うし。まあ、それ以上にクソみたいな夜を幾晩も幾晩も過ごしてますけど。ライブハウスのノルマを払いまくって、お金がなくなって……あれも地獄だったな。思い出してきた。
──ということは、今が一番いい状況なのかもしれないですね、結果的に。どの過去にも戻りたくないだろうし。
ええ。というか、過去を目指そうと思った瞬間、その人はクリエイターではないですよね。過去に対して何を見てるかによっても違うかもしれないけど、安易に「過去に戻ろう」という感覚が芽生えた時点で鈍ってしまうし、光がなくなってしまうだろうなって。
──ART-SCHOOLはもちろん、アジカンもテナーもACIDMANも、今も前進を続けてますからね。
うん、それは励みになります。ただ、今は二分化が激しいじゃないですか。すごく売れてるメジャーなものか、本当のインディか、あるいは熱心なファンがいるバンドとか。それだけしかないですからね。
──中間にあったものが消えてしまった、と。
そうですね。その中間にこそ、豊かさだったり、たくさんの大切なものがあったんですけどね。映画も同じですよね。バウスシアターまでなくなるのか、とか。ただ、それを嘆いてもしょうがないし、誰の責任でもなく「僕たちがやってきた結果なんだから」とは思いますよ、やっぱり。僕が一番イヤなのは、「最近の若い子は」っていう言い方なんです。そういうことを言う人には「いや、自分たちが今の状況を作ってしまったんですよ」って思うし、むしろ若い子のほうにこそ見習う点はたくさんあると思っているので。
──誰かのせいにするのではなく、当事者として何をやるかが大事?
僕は消費されたくないんですよね。パッと聴いて、パッと消費されるのだけはイヤだし、二分化していく中で“真ん中”を作りたいという気持ちもあって。それは今回のアルバムのモチベーションにもなってます。危惧がありますからね、やっぱり。
- ニューアルバム「YOU」/ 2014年4月9日発売 / Ki/oon Music
- ART-SCHOOL「YOU」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3456円 / KSCL-2890~1
- 通常盤 [CD] 2916円 / KSCL-2892
-
収録曲
- 革命家は夢を観る
- Promised Land
- Water
- Perfect Days
- YOU
- HeaVen
- Driftwood
- Go / On
- Miss Violence
- RocknRoll Radio
- intro~Hate Song
初回限定盤DVD 収録内容
- BABY ACID BABY(Music Video)
- フローズン・ガール(Music Video)
- ART-SCHOOL LIVE at COUNTDOWN JAPAN 13/14
(BABY ACID BABY / サッドマシーン / 革命家は夢を観る / スカーレット / UNDER MY SKIN / あと10秒で / FADE TO BLACK)
ART-SCHOOL(あーとすくーる)
2001年に木下理樹(Vo, G)を中心に結成されたギターロックバンド。同年9月にインディーズレーベルからリリースした1stアルバム「SONIC DEAD KIDS」が好評を博す。その後もライブとリリースを重ね、2002年10月にシングル「DIVA」でメジャーデビュー。2003年12月に大山純(G)と日向秀和(B)が脱退し、翌年3月に戸高賢史(G)と宇野剛史(B)が加入する。2007年2月発売のアルバム「Flora」がロングヒットを記録したほか、2008年には初のベスト盤「Ghosts & Angels」をリリース。2009年5月、結成当初からのメンバーであった桜井雄一(Dr)が脱退したため、鈴木浩之(Dr)を新メンバーとして迎えた。2011年12月に宇野と鈴木が脱退し、バンドは木下と戸高の2人体制となる。2012年5月、所属レーベルをKi/oon Musicへ移籍し、8月にアルバム「BABY ACID BABY」を発表する。2013年3月にROVOの益子樹をエンジニアに迎えたミニアルバム「The Alchemist」を、2014年4月にアルバム「YOU」をリリース。