有安杏果インタビュー|本格的ジャズへの挑戦──充実の2023年を経て開く新たな扉

有安杏果が2月、3都市のBillboard Liveでジャズライブを行う。過去にもオリジナル楽曲のいくつかにジャズのテイストを取り入れている有安だが、「有安杏果 Jazz Note 2024」と銘打たれたBillboard Live公演ではピアニスト大林武司とタッグを組み、さらに踏み込んだ本格的なジャズに挑戦するという。

11月末日、「有安杏果 Jazz Note 2024」の準備を進める有安本人に話を聞く機会を得た。ジャズに挑戦するうえで彼女はどのような準備を進めているのか? そして有安杏果が考えるジャズ観とは? 2023年の出来事を振り返ってもらいながら、ジャズライブに向けての意気込みを聞いた。

取材・文 / 臼杵成晃撮影 / はぎひさこ

公演情報

有安杏果 Jazz Note 2024

  • 2024年2月13日(火)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
    [1stステージ]OPEN 16:30 / START 17:30
    [2ndステージ]OPEN 19:30 / START 20:30
  • 2024年2月14日(水)東京都 Billboard Live TOKYO
    [1stステージ]OPEN 16:30 / START 17:30
    [2ndステージ]OPEN 19:30 / START 20:30
  • 2024年2月16日(金)大阪府 Billboard Live OSAKA
    [1stステージ]OPEN 16:30 / START 17:30
    [2ndステージ]OPEN 19:30 / START 20:30

<出演者>
有安杏果(Vo)/ 大林武司(Pf)/ 小川晋平(B)/ アロン・ベンジャミニ(Dr)

一般予約受付:2023年12月13日(水)12:00~

「今年はよく笑ってるね」って言われます

──来年2月に本格的なジャズライブ「有安杏果 Jazz Note 2024」の開催が決定しました。今日はその話を中心にお聞きしたいのですが、記事は年末掲載ということで、有安さんの2023年を振り返っておきたいなと。ざっくり、どんな1年でしたか?

ようやく点と点がつながり始めたというか……ソロを始めたばかりの頃に曲を書いてくださった渡和久(風味堂)さんに、弾き語りライブのために「愛されたくて」と「遠吠え」のピアノを教えてもらったんです。あの曲は横アリ公演(2016年7月に開催されたソロライブ「ココロノセンリツ ~feel a heartbeat~ Vol.0」)のときに書いてもらった曲だから、もう7年前のことで。そのあとも渡さんは私の節目節目のライブに必ず来てくださっていて、そのたびに「いつか教えてください」ってお願いしていたんです(笑)。それがようやく叶いました。

有安杏果

──弾き語りライブのピアノ演奏は渡さん仕込みだったんですね。

はい。弾き語りライブも、ソロを始めた頃から「いつかやりたい」とは思っていたけど、けっこう先のつもりだったんです。でも、コロナ禍で音楽活動がどうにもいかなくなったときに、ステイホーム期間にできることをと思って弾き語りの練習を始めて。初めての弾き語りツアー(「有安杏果 サクライブ 弾き語りツアー2021」。参照:有安杏果1人きりの弾き語りツアー「サクライブ」、ボロボロの指先に詰まった夢)は右も左もわからないまま始めたから本当に荒削りな状態ではあったんですけど、今年の弾き語りライブでようやく自分でも楽しむ余裕ができて、ちょっと遊び心を加えられるようになりました。ジャズライブもずっと準備していて、今年になってようやく発表することができた。そうやって、今年はいろんなことが少しずつ実を結んで形になってきた1年だったなって。スタッフさんには「今年はよく笑ってるね」って言われます(笑)。

──楽曲面では、3月に新曲「夢の途中」が配信リリースされました。作詞作曲は有安さんで、編曲は宮崎裕介さん。3拍子と4拍子が混ざった構成やストリングスアレンジが印象的で……ライブでおなじみの玉田豊夢(Dr)さんや山口寛雄(B)さん、福原将宜(G)さんに加えて室屋光一郎さんのストリングスと、インディーズらしからぬ豪華メンバーですよね(笑)。

んはははは。だいぶ気合いの入ったメンバーです。この曲はもともと全編4拍子で作ってたんですけど、宮崎さんが「なんか面白くないなあ」って言い出して(笑)。「Aメロだけ3拍子にしてみよう」と言われたものの、まったく想像ができなくて……戻ってきたデモを聴いたら「歌詞のはめ方が変わっちゃうじゃん!」と焦りました(笑)。でも自分だけでは絶対に思いつかないアイデアだし、何度か聴いているうちにすごくしっくりきて。弾き語りライブでも歌ってるんですけど、やっぱりお客さんも拍が取りづらいみたい(笑)。なので最初は4拍子で始めてしれっと3拍子に移行するアレンジに変えてみたら、お客さんの反応もよくなりました。

──そのあたり、柔軟にできるようになったんですね。

だいぶできるようになりましたね。お客さんの反応を見ながらちょっとずつ演奏を変えてみたり、アレンジできるようになってきました。

──曲作りはどうでしょう。作り始めた頃と比べて変化はありますか?

あります! 昔はホントに鼻歌で、流れで気分だけで作るみたいな感じだったのが、だいぶロジカルになってきたと思う。「あえてここはシンプルにする」とか「逆にここはちょっと複雑に」とか、全体を考えて曲作りできるようになりましたね。

──それはギターやピアノの演奏を本格的に始めたことも大きい?

そうですね。以前は自分でメロディを作ってもコードを付けられなかったので、鼻歌をそのままアレンジャーさんに投げていたんですけど、今はぎこちないながらも自分で演奏して「ここは9thを入れたい」とか少しずつこだわりを入れられるようになって。前よりも曲作りが楽しくなりました。

有安杏果
有安杏果

人生を振り返ると、ももクロの思い出ばかり

──漠然とやりたいと思っていたいくつかの“点”が、実力や経験によってうまくつなげられるようになったのが2023年?

そういうことです。うん。歌詞についても……最近は本を読むのが好きになって、作詞について勉強していくと、例えば助詞1つでも全然変わってくるんだなって。「を」なのか「に」なのか、それとも助詞は省いたほうがいいのか。そういうところまで細かく考えるようになりました。

──有安さんから「助詞」なんて単語が出てくるとは、ももクロ時代には考えられなかったですよね(笑)。

ホントに!(笑)

──「ちょっぴりおバカな小さな巨人」からは考えられない発言です。

そのキャッチフレーズもあの頃は誇りを持って言ってましたから(笑)。

──ももクロの話で言うと、今年の5月17日の午後5時17分、有安さんがX(Twitter)とInstagramにももクロ時代の写真をアップしてグループ結成15周年を祝うコメントを発表したことが大きな話題になりました。ももクロを脱退したあと、公の場でももクロについて言及したのはこれが初めてだと思うんですけど、有安さんのファンもモノノフ(ももいろクローバーZファンの呼称)もちょっとホッとしたというか、うれしい出来事だったと思うんですよね。

叩かれる覚悟もありました(笑)。あまりよく思わない方もいるかなと思いつつ……。純粋に15年もやってきたことはホントにすごいよ! おめでとう!という気持ちが大きくて。中にいたからこそ、ここまで続けてくる大変さも少しはわかるから、素直に気持ちを届けたかったんです。

──有安さんがももクロを離れたのは2018年1月で、その後もももクロは活動の規模を拡大しながら走り続けています。続ける大変さを「少しは」わかるとおっしゃいましたけど、4人になってからの奮闘ぶりは、やはり有安さんには計り知れない?

はい。尊敬の気持ちが大きいです。

──このタイミングで有安さんとしても、ももクロ時代を振り返ることは多い?

自分の人生を振り返ると、やっぱりももクロの思い出は多いんです。今もライブでいろんなところを回っていると「前に広島に来たのはあのライブのときだったな」とももクロの活動を思い出すし、学生時代のことを思い出そうとすると全部ももクロの思い出だし(笑)。そう考えると、改めて自分にとって大きな存在なんだなって。

有安杏果
有安杏果

案外地続きなんですよ

──有安さんがソロ活動を始めたのは何歳のときでしたっけ?

何歳だろう? 私あんまりそういうの覚えてないタイプで。

──最初のソロ公演が2016年7月なので、21歳?

……です(笑)。

──で、今が……。

28歳です。自分の歳がわからなくて、たまにWikipediaで調べてます(笑)。

──ももクロと並行して活動していた時代と合わせて7年ちょっとですよね。アイドルの方には、活動を終えたあとも音楽を続ける人もいれば、別の道に進む人もいて。ソロアーティストとしての活動を選ぶ人はどちらかというと少ないと思うんですよ。最近でもハロー!プロジェクト出身の鈴木愛理さんや鞘師里保さん、元NMB48の山本彩さんなどソロに移行した例はもちろんあるものの、やはり俳優業やタレント業に身を置く人のほうが多い印象です。

あー、そうですね。確かに。

有安杏果

──この夏ソロデビューした元私立恵比寿中学の柏木ひなたさんも「事務所を離れてソロで活動している有安さんがいるけど、スタプラ(スターダストプロモーションのアイドル部署・スターダストプラネット)からソロアーティストとしてデビューするのは私が初めて」とインタビューでおっしゃってました(参照:柏木ひなた「ここから。」インタビュー)。シンガーソングライターをやるうえで「元アイドル」という肩書きが邪魔をする部分もあるかと思いますが、そういう苦労は感じない?

今はないですね。最初は力んでた部分が多少あったかもしれませんけど。私の場合は、ももクロでいろんなジャンルを歌ってきたことが、歌唱面、曲作りでは確実に糧になっているから、なおさらアイドルでの活動も地続きだなと思いますし、「元アイドル」「元ももクロ」ということに誇りを持って活動しています。容姿にしても、急にロックっぽくガラリと変えるつもりもなかったし(笑)。ソロをやるうえでは「等身大でいたい」というテーマを持っていて、それは自分で曲を作るときも大切にしている部分ですね。それよりか一番大変だったのは、個人事務所、個人レーベルでやることですね。最初は本当に不安でいっぱいで……自由な分、すべて自分で責任を持って判断、決断しなきゃいけないし、ライブもレコーディングも自分で新たなチームを作っていくのはとても勇気がいることでした。なので今こうして音楽性も人柄も素晴らしいミュージシャンと和気あいあいかつ真剣に音楽やれてることが本当に幸せで感謝しています。あと、弾き語りツアーでは照明班が「ココロノセンリツ」東名阪ツアーからお世話になっているチームだったりして、そういう人とのつながりも案外地続きなんですよ。懐かしい人に会うとホッとするし、新しい出会いも刺激があって楽しい。その両方のバランスがいいから楽しく活動できています。