再び火を点ける「Relight」
──すでにライブでも披露されているあらきさん作詞作曲の「Ark」が、今作では「Ark -strings arrange ver.-」に生まれ変わって収録されています。ストリングスのアレンジは、あらきさんのロックなイメージとかけ離れていて驚きました。
「ハイスクール・ミュージカル」や「グレイテスト・ショーマン」のような、歌に重きを置いたミュージカル映画がすごく好きで。「Ark」という曲はもともとそういうイメージを持って作った曲だったんです。バンドで演奏したオリジナルのバージョンも完成形ではあるんですけど、今回アレンジをしようかなと思い立ったときに、エレクトロでもないしアコースティックでもない、新しい方向性をいろいろ模索して。その中で一度もやったことがないストリングアレンジにちょっと挑戦してみたくなって、ストリングの方々に演奏をお願いしてみました。最初すごく遠慮がちな演奏だったんですけど、自分の中でこれはすごい曲になる確信があって、「もうストリングスが主役だと思って、行ききっちゃってください」とお願いしたら全部持っていきそうなくらいの音源が届いて(笑)。それに合わせてドラムもシンプルなパターンに落とし込んで、完全に生まれ変わった感覚がありますね。
──コーラスもちょっと特殊ですよね? 声の重ね方がほかの楽曲と違うと感じました。
ほかの曲にはない特徴としては、シンガロングのパートに僕の歌声だけじゃなくて、いつも編曲をお願いしているK.F.Jとその嫁の声が入っています(笑)。K.F.Jの家に行って曲を作っているときにコーラスを増やしたくなって、その場にあったマイクを使ってみんなで録った音源をいっぱい重ねてみたんです。
──アルバムには「Ark」のあとにエンディングトラックとして「Relight」という新曲が収録されています。この「Relight」という曲は「Ark」のストリングスバージョンに合わせて作られたものですよね?
そうですね。もともと1曲目の「DOXA」と最後の「Relight」は収録される予定がないものだったんです。ボカロPの皆さんの書き下ろし曲だけで構成する予定だったんですが、曲が出そろったタイミングで突然K.F.Jが「アルバムの頭と最後に曲を入れよう」と思い立って、2曲のデモを送ってきてくれたんです。
──特に「Relight」という曲の存在感が大きいなと感じていて。「Ark -strings arrange ver.-」でアルバムが締められていたら、あくまでストリングスアレンジはボーナストラック的な特殊な1曲で終わっていたと思うんです。その流れを汲んだ「Relight」が続くことによって、あらきさんが表現する音楽の新たな方向性を示しているようにも受け止められるんですよね。
「Ark」だけだと温度差が生まれてしまうことは確かに感じていて。そこに追加で「Relight」を置く案は僕としてもすごくしっくり来たんです。それとK.F.Jのデモの歌が頭から離れなかったのもあって……。
──どんなデモだったんですか?
だいたいK.F.Jがデモを作るときって、5文字ぐらいの単語を延々と歌っているメロディが届くんですよ。「Relight」のときは「夜が明けたー、夜が明けたー、明けたー」みたいなのをずっと繰り返しているデモが届いて。最初は「深夜テンションで送ってきたのか?」と思ったんですけど、そのフレーズがずっと頭の中でループするんですよ。「こうなったらもう歌詞は俺が書くしかねえ」と思って、完成したのが「Relight」です。
──歌い出しの歌詞が「夜が開けば」なのはそういう理由なんですね。
そこからは離れられなかった(笑)。「Relight」の歌詞は「再び火を点ける」みたいなイメージなんです。アルバムが完成していきなり言うのもなんですけど、次を見据えるイメージは僕の中にもあって。こういう形で終わることで、これから先、未来に含みを持たせる形にしたかったんですよね。
──K.F.Jさんという共同制作者がいなければ今回のアルバムは少し形が違っていたかもしれませんね。
2曲目から11曲目までに関してはわりと自分の思う通りの形に落とし込めたと思っていて、そこからK.F.Jが第三者目線で考えたうえで頭と最後に新曲を作ってくれて。新たに作られた2曲が入ることでアルバムがさらにブラッシュアップされた感覚がありますね。自分1人だったら思い付かなかったアイデアなので、K.F.Jには本当に感謝しています。
涙なしには観られないライブに
──今回のアルバムはあらきさんにとってどんな作品になりましたか?
古きを温め新しきを知る、温故知新の作品ですかね。ある意味僕の集大成とも言えるんですが、間違いなく自分の新しい一面を含んだ作品でもあるので、すごくいろんな意味を持ったアルバムになったと思います。
──「UNKNOWN PARADOX」というテーマ自体、このご時世でないと生まれないものでしたよね。
それは間違いなくそうですね。本来であれば「XYZ TOUR」に参加して3、4カ月ライブに集中する期間をすべて制作につぎ込めたので、いろんなことを考えながら急ピッチでアルバム制作に集中できたのは大きいですね。「集中すればこのペースでモノが作れるのか」という手応えにもつながりました。
──インタビューが掲載される頃にはすでに開催後ですが、新たなライブ「UNPARADOXA」が6月12日に開催されます。どんなライブになりそうですか?
ひさびさの有観客なので、涙なしには観られないライブになると思います(笑)。しばらく顔を合わせていない皆さんとひさびさに顔を見合わせる機会になるわけですから、かなり感極まる1日になると思います。配信ライブとは違って、やっぱり有観客でライブをするのが本望なので、ひさびさに超楽しみです。タイミング的にはアルバムが発売される直前のライブなので、新曲はそこまで多く含まず、お客さんを置いてきぼりにしないいいライブになると思います。
──アルバム発売以降の活動に関して、何か目標はありますか?
まずはアルバム発売後に、オリジナル曲を中心としたライブは開催したいですね。それと次を意識する作品になったので、これから自分がどのような音楽を歌うのか、どういう音楽表現をするのか、自分でも楽しみなんです。アルバムのテーマを考えているときは、矛盾とか鬱屈とか、そういう感情が先立っていた気がしますが、今の自分は「Relight」の歌詞にある通り“夜が明けていく”感覚があって。今後のあらきにも期待してもらいたいですね。