音楽ナタリー PowerPush - Aqua Timez
すべては言葉とメロディのために
「ヒット曲を持つ」という生き方
──若い世代に対してロールモデルを示したいっていう気持ちが芽生えたのは「アラフォーバンド」になったから、つまりキャリアを重ねたからですか?
太志 確かに今のほうが以前よりも自覚的ではありますね。例えば「ごくせん」ってドラマの主題歌(2008年のシングル「虹」)をやらせてもらっていた頃よりも今のほうがいろいろわかってきた実感はありますし。
──何か実感するきっかけって具体的にありました?
太志 「虹」がドラマの主題歌に選ばれたのもきっかけの1つだったんじゃないのかな。当時ドラマを観ていた人、それこそまだちっちゃい子とか、おじいちゃん、おばあちゃんにすらあの曲が届いてくれたおかげで、今もフェスなんかで「虹」をやると、お客さんがみんな一緒に歌ってくれるんですよ。ビールを飲みながら、すごくハッピーな感じで。それってすごくありがたいことだし、すごく楽しいことだから、マジョリティに届くものをちゃんと作る。特に最近はそれが正解だと思ってます。こういうことを言ってると「そんなのロックじゃない」って言われるかもしれないんだけど(笑)。
──でも「エルフの涙」は誰のアルバムですか?と聞かれれば「ロックバンドのアルバムです」としか答えようがないわけで。「メディアでも人気のロックバンド」という事実を引き受ける態度はむしろユニーク。Aqua Timezだからこそ持ちうる武器だとも思います。
太志 うん。ヒット曲の持ってるポテンシャルってやっぱり否定できないですよ。ワンマンライブのお客さんの中には若い子もけっこういるんですけど、その子たちが何をきっかけにオレらを知ったかっていえば、すっごい昔の曲を通じてなんですよね。「ヒット曲」っていうキーワードがあるおかげで、今、青春ど真ん中の子たちですら、一度はオレたちの曲を通ってくれている。それはすごく財産だなって思っていて。で、当時のまだ若かったオレらがその曲を作れたのは周りの大人がサポートしてくれていたからなんですよね。だから大人とはタッグを組めばいいんですよ。そうやって作ったヒット曲って、いつまでも若い子たちが聴いてくれる。そういう報われ方もあるんですから。当時聴いてくれた人が多ければ多いほど、卒業していく人も多いんだけど、反対にオレたちの通ってきた道を通ってきてくれる人もたくさんいるんですよね。これからもそういう人としっかり握手して、「サンキュー!」って言えたらいいなと思ってます。
「どう太志? このプレイいいでしょ?」
──ちょっと話が前後するんですけど、皆さんがプレイヤー的エゴを差し置いてでも太志さんの言葉に乗ろうと思った理由、つまり皆さんの考える太志さんの言葉とメロディの魅力ってなんなんでしょう?
OKP-STAR もちろん太志と僕は別人だから「100%太志の言うことが正しい」っていうわけではないんですけど、基本的には気持ちがわかるからっていうのが大きいですね。あとちょっと具体的になりすぎるかもしれないんですけど、例えば「等身大のラブソング」(2005年)っていう曲の中に「100万回の愛してるなんかよりも」っていうフレーズがあって。この「~てるなんかよりも」っていう言葉遣いってかなり独特だなって思うんですよ。そういうところが読んでて面白いんですよね。
──太志さんの歌詞にはメンバーにも刺さる普遍性もあれば、レトリックの面白さもある、と。
OKP-STAR そうそうそう。オレ自身、そういうところにすごくインパクトを感じるし、Aqua Timezのことを好きでいてくれるみんなもそこに持っていかれてるはずだし。だからその歌詞やメロディをいかにいい形に仕上げるのか、アレンジするのか、っていうことが楽しくなってきたんでしょうね。「どう太志? このプレイいいでしょ?」「このアレンジいいでしょ? どう? どう?」みたいな(笑)。で「いいじゃん」って言ってもらえるのがうれしいんです。今は自分の色を生かすプレイと太志の言葉とメロディを生かすプレイのバランスをとるのが楽しいんですよね。
──その太志さんのメロディなんですけど、キャッチーではあるんだけど、絶対にただのキャッチーじゃ済ませていない感じがあって。
太志 そうですか?
──特に「オムレット」が象徴的で。すごくかわいらしいメロディに乗せて「オムレツを焼いてくれている君に おはようbaby」って歌い出すじゃないですか。だからてっきり恋人同士の日常をラブリーに歌う曲なんだと思ってたのに……。
太志 実は別れの曲っていう(笑)。
──だから聴き終えたとき「この人、意地悪いなあ」って(笑)。
一同 あはははは(笑)。
太志 むしろ意地の悪い曲になってるのはアレンジのおかげなんですけどね。基本的に曲のアレンジってみんなにお任せって感じなので。ホントにポップなアレンジに仕上げてきてオレ自身ビックリしましたから(笑)。ただ、今改めて聴いてみると「この感じいいな」って素直に思えるんですよね。
OKP-STAR 「この意地の悪さがいいな」って?(笑) 「オムレット」って元になるアレンジは僕がしてるんですけど、確かに自分でも気に入ってるんですよね。ポップなのに、ちゃんとギターが前に出てるバンド感のある音にもなっているし、おっしゃる通り、歌詞を裏切るアレンジになってるし。
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- ニューアルバム「エルフの涙」 / 2014年8月27日発売 / ERJ
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3900円 / ESCL-4265~6 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3200円 / ESCL-4267 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- アダムの覚悟
- イヴの結論
- ヒナユメ
- エデン
- オムレット
- 赤い屋根の見える丘へ
- 滲み続ける絵画
- ゴールドメダル
- hey my mem feat.OK.Joe
- Fly Fish
- The FANtastic Journey
- 手紙返信
- エルフの涙
初回限定盤 DVD収録内容
- 「エデン (lyric version)」「手紙返信」「ヒナユメ」のビデオクリップ
- 「エルフの涙」レコーディングドキュメンタリー
Aqua Timez(アクアタイムズ)
太志(Vo)、大介(G)、OKP-STAR(B)、mayuko(Key, Piano)、TASSHI(Dr)からなるロックバンド。2003年の結成後、東京を中心に活動を展開し、2005年発売のインディーズ盤「空いっぱいに奏でる祈り」がクチコミを中心に話題を集め、70万枚を超えるセールスを記録する。そして2006年4月にはミニアルバム「七色の落書き」でメジャーデビュー。さらに同年リリースのシングル「決意の朝に」「千の夜をこえて」が立て続けにスマッシュヒットし、その年の「NHK紅白歌合戦」にも出演する。以降、さまざまなジャンルを融合させた独特のサウンドと、琴線に触れるエモーショナルな歌声、メロディを武器に16枚のシングルと5枚のオリジナルアルバムをリリース。そして2014年8月、6枚目のオリジナルアルバム「エルフの涙」をリリースした。