音楽ナタリー PowerPush - Aqua Timez
すべては言葉とメロディのために
本格派になれないがゆえのオリジナリティ
──ここまでのお話で「エルフの涙」が、なぜバラエティに富んだアルバムになったのかはわかったんですけど、とはいえちゃんとどの曲も“Aqua Timezの曲”になっているし、もちろんアルバム自体も“Aqua Timezのアルバム”になってますよね。なぜそうなり得てるんでしょう?
太志(Vo) ……うーん(笑)。バンドを始めた頃からずっと「いろんないい曲をやりたい」っていう思いがあったからかもしれないですね。特に自分は「こういうバンドになりたい!」っていうよりは「このバンドならこの曲が好き」「あのバンドならあの曲が好き」っていう感じで音楽と接するタイプなので。でも、当たり前なんですけど、“あのバンドのあの曲”みたいな曲を作っても“あのバンド”にはなれないじゃないですか。それがむしろ自分たちの強みなんだと思ってます。本格派のラテンの人、レゲエの人、ヒップホップの人にはなれないからこそ生まれるオリジナリティって絶対にあるとも思ってますし。まあ本格派になれないことはコンプレックスでもあるんですけどね(笑)。
──へっ!? コンプレックスってあるんですか? 本当に誰もが知ってるビッグヒットを持っていて、実際いろんなジャンルを吸収しながらいい曲をたくさん作っている。だからもっとドヤ顔をしてるもんだと思ってました(笑)。
一同 あはははは(笑)。
太志 自信を持てないでいるネクラな子たちの集まりなので(笑)。
大介 ネクラバンドだよねえ(笑)。
mayuko でも、最近ようやくコンプレックスがなくなってきた気はするよね(笑)。実際「だから『エルフの涙』ってアルバムができたんじゃないか」みたいな話はよくしてますし。
太志 うん。イベントとかでも「うまいなあ」「スゲーなあ」って憧れの眼差しで対バンのことを観てたりはするんですけど、そのワクワクしちゃった事実はちゃんと受け止めたいし、ワクワクさせてくれた要素を自分たちでミックスアップしたい。特に最近はそういうモチベーションが高いんです。外からの刺激を受け入れて曲を作り上げていくことが素直に好きだって言える感じにはなってきてますね。そうやって曲を作っても借り物にはならない。自分たちらしい音になるだろうって自信を持てるようにもなってきてますし。
立ち位置が違う5人が見せる広大な場所
──その自信は、さっき太志さんが言っていた「本格派ではないがゆえに生まれるオリジナリティもあるんだ」っていう確信からくるものだ、と。
太志 あとは、みんなの音楽的なルーツが本当に違うっていうのも理由の1つなんでしょうね。実はメンバーそれぞれの音楽的な立ち位置ってすごく遠いし、しかもメンバー同士で「こういうの聴きなよ」って教え合うみたいなこともないんですよ。「最近何聴いてる?」って聞かれたら教えるけど「これ、今ヤバいから聴けよ!」「これが今のオレらに必要なんだ!」みたいなやり取りはないんですよね。でもだからこそ、楽曲制作を通じて改めてそれぞれの立ち位置を線でつないでみると、そこに浮かび上がったAqua Timezっていう場所の面積ってものすごく広くなるんですよ。
──5人の立ち位置が遠ければ遠いほど、そうなりますよね。
太志 でも全員当然Aqua Timezのメンバーですから。だから音楽的な幅は広いんだけど、Aqua Timezらしいアルバムができたんだろうなとは思ってます。
星空の話ばかりでなく、靴の話も伝えたい
──すみません。話を一旦ネクラの話題に戻してもいいですか?(笑)
TASSHI どうぞどうぞ(笑)。
──今作の歌詞ってネクラだとは言わないまでも思慮深いですよね。状況なんて実は自分の心持ちや誰かとの関係性ひとつで変わるものなんだ、と言いながらも、シビアな現実への目配せを忘れていない。アルバムリリースツアーのタイトルにしても「Shoes and Stargazing」。“Star”=星=上も見つめるけど、“Shoes”=靴=足下も見つめてますし。
太志 ただただ星空を見上げて空想にふけっていても、現実はやってきちゃうから(笑)。歌詞って自分が社会生活を送る中で生まれてくるものなので、地に足の着いた夢を見とかないと、夢から醒めたときにけっこう大変なことになる気がするんですよ。
──確かに(笑)。
太志 今回のアルバムに限らず自分の詞って誰かが前進するためのメッセージになってることがほとんどですけど、前進するためにはちゃんと歩かないといけないとは思っていて。自分が20歳くらいならスターゲイジングしているだけでもよかったのかもしれないんですけど、現実の重みも知っている以上、そこから目を背けるのは違うっつうか。空想する楽しさと同時に「前進するためには疲れるけど歩く」。そのことは伝えなきゃいけないと思ってます。僕らももうアラフォーバンドだし、だいたい最近、普段から健康の話とかもすっごいしているわけですし(笑)。
OKP-STAR 最近ホントに多いよね、健康の話(笑)。
太志 そういう話ってすごくシューゲイズな話題じゃないですか(笑)。その“シュー”のことも歌いたいんですよ。若者に向けて無責任に「なんでもありだよ!」とは歌えない。みんなけっこう大変なんだけど、ちゃんとやってるヤツはちゃんとハッピーになってる。そういうことを伝えたいんですよね。
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- ニューアルバム「エルフの涙」 / 2014年8月27日発売 / ERJ
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3900円 / ESCL-4265~6 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3200円 / ESCL-4267 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- アダムの覚悟
- イヴの結論
- ヒナユメ
- エデン
- オムレット
- 赤い屋根の見える丘へ
- 滲み続ける絵画
- ゴールドメダル
- hey my mem feat.OK.Joe
- Fly Fish
- The FANtastic Journey
- 手紙返信
- エルフの涙
初回限定盤 DVD収録内容
- 「エデン (lyric version)」「手紙返信」「ヒナユメ」のビデオクリップ
- 「エルフの涙」レコーディングドキュメンタリー
Aqua Timez(アクアタイムズ)
太志(Vo)、大介(G)、OKP-STAR(B)、mayuko(Key, Piano)、TASSHI(Dr)からなるロックバンド。2003年の結成後、東京を中心に活動を展開し、2005年発売のインディーズ盤「空いっぱいに奏でる祈り」がクチコミを中心に話題を集め、70万枚を超えるセールスを記録する。そして2006年4月にはミニアルバム「七色の落書き」でメジャーデビュー。さらに同年リリースのシングル「決意の朝に」「千の夜をこえて」が立て続けにスマッシュヒットし、その年の「NHK紅白歌合戦」にも出演する。以降、さまざまなジャンルを融合させた独特のサウンドと、琴線に触れるエモーショナルな歌声、メロディを武器に16枚のシングルと5枚のオリジナルアルバムをリリース。そして2014年8月、6枚目のオリジナルアルバム「エルフの涙」をリリースした。